怪文書「論理の崩壊」

 私は一人、悪意で満たされた泡沫のなかで、陽炎のように舞う。

 窓際には、誰かの放射性同位体で構成された、ショートケーキが一つ。

 原子を一つ一つ、味わうように舐めると、郷里の、顔も知らない親戚の風味がした。

 飾り窓には、カーテンの代わりに、血染めの感謝状が幾重にも重なっていた。

 給湯器になぞらえ、甚振られたその様は、血染めの向精神薬と紐帯している。

 寺社から解かれた連合弛緩は、ほしいままに消え行く。

 その頃、反物質で彩られた空調からは、神経の末端に至るまで、女性の喘ぎが行き届いていた。

 髄液が吶喊する――

「私が私を死なせようが、私の知ったことではない」

 慟哭した直後、髄液から発生した強アルカリ性の液体が、脳細胞を溶かす。

 ニューロンと反応した液体は、多幸感に満ちた気泡を発し――その気体は、やがて全身に快楽をもたらす。

 抗えど、抗えど、その愉悦の前に私はただ膝をつく……

 骨はただ溶媒としての役割しか果たさないようだ。



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