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居酒屋でナンパした子の後日談の話

「私たち悪いことしてないですよね?」

その質問に僕はまっすぐ答えられなかった。


偶然の連鎖から生まれたその子との出会い。端麗な容姿に屈託のない笑顔、周囲を明るくするバイタリティ、聡明で健気で、とにかく素敵な子だった。

友達として食事を何度も重ねていくうちに受け取る魅力が増えていく。
そのことに気付いたが、僕がそれを本気で伝えることは最後までなかった。




会うのは朝が多い。
お互いの仕事が終わり、そのまま食事、そして街をふらふらしながら飲んで、お互い帰路につく。

スリムなのに大食いの彼女は大盛りラーメンを食べた後すぐ定食屋に行く奇行を繰り返す。
それもまた魅力っちゃ魅力なんだが。


「もう今日は帰りますね。このあと仕事なんです」

いろんな事情から仕事を3つほど掛け持ちしていた彼女が睡眠時間を削って会ってくれているのは明白だが、そこで「帰って休みなよ」と言えるほど僕も大人ではなかったし、彼女もどこかに「僕」を求めていたような気がした。



何度も僕のお店を手伝いに来てくれた。

自分自身の仕事前に寄ってくれて「ロッキーさんのとこ今日イベントですよね?さすがに1人だと大変なはずなんで、ギリギリまで手伝います」と。

その頻度が上がって来て、一緒にいる時間も増えて来て、お互いのことを知って来て、それでも関係は発展しない。
これ以上の関係にならなかった。
僕たちは友達以上になれない間柄だから。

初めから分かっていた事情で、初めから決まっていた間柄で。
例えば「恋人になる」とか「セックスする」ことはできなかったし、お互い口に出すこともなかった。
お互いに倫理観が少なかったり相手へのリスペクトが欠如していたら関係性は変わっていたのかもそれないが そうじゃない彼女に惹かれていたんだし。



ある日、彼女のことが好きだという男性に会った。
その方に「ロッキーさん、そういう関係じゃないなら退いてください。僕は真剣なんです。ロッキーさんの存在が邪魔なんです」と言われる。

「いやです」

僕が即答で答えたのは、本心なのか、その方への不信感なのか、無意識なのか真実は覚えてない。

その方が見事に撃沈したことを彼女から聞いたのは それから数日後だった。



「部屋を探しているんです」

少し疲れた表情の彼女からそう聞かされた。
この一ヶ月間いろんな賃貸を見て連絡し不動産屋にも出向いているが、なかなかいい物件に出会えない。と。

「知らなかった」
「伝えれば、ロッキーさん一緒に探してくれるじゃないですか」
「だめ?」
「だめじゃないし嬉しいですけど、さすがに悪いです」
「どうする?」
「ちょっと疲れました」

珍しく弱気なところを見ると、かなり難航しているっぽい。

「とりあえず条件教えてよ」

条件を確認した僕は知り合いの不動産屋からいろんな物件をピックアップし、休みの日に一緒に現地への物件確認することにした。

ちなみに彼女は親と二人暮らしだ。


何軒かまわってみて、その中の1つ気に入った物件に出会えた。
いろんな交渉もスムーズにできた。

「ありがとうございます」
「ええよ。またご飯いこや」
「こんど奢りますね」

僕が足を踏み入れることのない部屋。
見つかってよかった。


会うのは朝が多い。
なので、プライベートで夜に会うと、いつもと違う表情に驚きと少しの気恥ずかしさを感じる。

とあるbarで飲んでいたとき
「やっぱりさ、可愛いよね」
「なんですか急に」
「なんだろうね」

僕がそう思っていることは伝えるが、2人にその先は存在しない。
夜の彼女を見ていると、その「存在しない」という事象がヘビーに感じるし、そしてそのリアルさがより距離を作ってくれる。

夜の彼女が好きだから、明るい時間に会いたかった。


彼女の親が車で迎えに来る日があった。

「店の入り口まで送るよ」
「そのまま私の親に会えませんか?」
「え?」
「私の親に会って挨拶するのイヤですか?」
「どうして?理由によるよ」
「私の親、ロッキーさんのこと好きじゃないんです」

聞くととても彼女のことが好きな親御さんで、最近帰りが遅くて心配していたところ僕の存在を知った。
悪い虫だなんだで、どんなやつなんだとキツく言われたらしい。

「俺が会って大丈夫なの?会って欲しいなら会うけど」
「会って、どうもって感じよく挨拶してくれるだけでいいです」
「それなら全然いいよ」


そのまま親御さんの待つ元へ2人して向かう最中に、彼女が僕の目を見て質問してきた

「私たち悪いことしてないですよね?」
と。


事情はここでは話せないが、僕も、彼女も、お互い「恋人として」付き合えない。

けど一緒に食事し、お酒を飲みに出かけ、時には手をつなぐことも、一緒に寝ることもあった。

僕は彼女の問いに

「俺らなんかした?大丈夫でしょ」

と不自然なほどフワフワしたトーンと表情で答え、彼女の目を真っ直ぐ見ることはできなかった。


「ロッキーって人、感じ良かったしイケメンじゃない。仲良くしなよ」と親御さんに言われたらしい。
「良かったやん」
「そうですね。良かった」
その言葉と気持ちのズレからは、葛藤が薄れていったかもしれない。

だからなのか、その日を境に僕と彼女が会う頻度は減っていった。


僕は彼女に幸せになって欲しいけど、その役目は僕じゃないから。


あの日あの問いに対して、僕が真っ直ぐ答えられなかったことが、きっと僕たちの答えだったんだろう。


実は彼女とはその数年後にまた後日談があるのですが、それはまた改めて。

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