山本"KID"徳郁の話

2018年9月18日
格闘家の山本KID徳郁さんが亡くなった。


2019年9月18日
僕はまだその事実を受け入れられない。


僕は格闘技が好きだ。
空手・キックボクシング・総合格闘技と習い、道場やリング、たまにはストリートで練習の成果を発揮した。

「プロになりたいな」とぼんやり考えたこともあったが、そんな淡く軽い未来は気がつけばどこかへ吹き飛んでいた。


当時は気弱だった僕のことを思ってくれたのか、母親から「空手習ってみる?」と提案された時はウキウキして出かけた。
そこは結果としてすぐ辞めてしまったが、その先生の親戚道場で改めて習い直すことになる。
先生ごめんなさい。

K-1が好きだった。
TVで放送されるたびに選手の情報をノートにまとめて、翌日の学校ではみんなでワイワイ話す。
ノートにまとめるなんて僕くらいだろう。僕の知識は増えて行き、学校でもそれなりの「格闘技に詳しいヤツ」になっていた。

総合格闘技も好きだった。
GAORAやJ-Sportsで放送されていた修斗やパンクラスやUFCの番組を見るのは好きだったが、ノートにまとめてたものの なかなか学校で話し相手がいなかったのが悔やまれる。

ハマったものは情熱が冷めないうちに勉強すること。
当時から一貫してそう考えているので、本を読み、ビデオを見て、先生から話を聞き、稽古に通い、予習復習する。
そうして田舎者ながら「強さ」への想いを鍛錬していった。


そんなある日TVをつけると修斗の試合が放送されていた。
試合は始まったばかり、両選手の情報は何も知らない。

ガードポジションでパウンドを狙う選手と必死にディフェンスする選手。

「気持ちで押されてますね」
解説の方が言うように、上から攻めている選手がリング上の空気を掌握しているように感じつつも、なんとなく眺めていた。

その直後、上で攻めいていた選手のパウンドが相手に連続でヒット、力が抜けた瞬間にレフェリーが止めに入る。
一方的な試合だった。



しかし、パウンドは止まらない。

レフェリーが割って入ったのに、その選手の拳は振り下ろされている。
セコンドが来ようが拳は止まらない。
無抵抗な相手に対し、不敵な笑みを浮かべ、舌を出しながら打ち続ける選手。


僕はその異様な光景に心を奪われていた。
それが強さへの憧れなのか、死を連想させる恐怖なのか、無法者への高揚感なのか分からない。

「今日TVですごい試合を見たよ」
家族での食事中にそう話したが、内容までは言わなかった。
その場に相応しいかどうかじゃない、あの興奮を伝える自信がなかったんだ。


僕はその選手の情報を「キッドと呼ばれる身長の低い選手」としか覚えてなかったし、その日はノートもとらなかった。


インターネットが身近にない時代、悶々としか感情のまま道場へ行き、その試合の話をしてみると

「あーキッドね。あの試合ヤバイよね。お姉ちゃん可愛いの知ってる?」

と、内弟子から返答が。

どういった選手か、その家系、そしてあの試合後どうなったのか、彼から詳しく聞いた。

それが僕が山本"KID"徳郁に出会えた話。


日本の格闘技ブームの熱が上がっていくいい時代だった。

そんな中、修斗で活躍していたキッド選手がK-1に参戦することに。
最初は冷ややかな眼差しで、そんなチビの無法者が神聖なK-1で活躍できるわけないって意見をよく聞かされた。

初戦はプロレスラーでありながらシュートボクシングで結果を出し優勝候補に挙げられている村浜武洋選手。

どっちが勝つかの予想はしなかった。
友達にも「分からん」と答えていた。
そんなことより、あの山本"KID"徳郁を地上波で観れることに興奮していた。


結果はキッドのKO勝ち。
余裕の圧勝だった。

それから山本"KID"徳郁はスターへの階段を爽快に昇っていいく。

魔裟斗選手との大晦日のタイマンに
須藤元気選手を破ってのHERO'Sチャンピオン
ホイラーグレイシー選手にKO勝ち
宮田和幸選手への4秒KO

ビッグマウスとそれを裏切らない快進撃。
強くてカッコ良くてお茶目で人間味があって、こんなに分かりやすいヒーローなんていないだろ。

世間は確実に山本"KID"徳郁を認めていた。

「魔裟斗くん、2人で試合でもして盛り上げて、終わったら渋谷でも行って飲もうよ」
と言うチャラくてヘビーな誘い文句。
こんなのキッドじゃなきゃ魔裟斗選手も受けてくれないよ。

「生のマジレンジャー迫力あるね」
「パパとマジレンジャーどっちが強いの?」
「あ?今からステージ上がって全員ぶっとばしてやるよ」
「やめて。パパが強いから」
なんてエピソード、キッドじゃなきゃ滑るだろ。

「やべー、かっこよすぎる、俺」
ってセリフにあれだけ大歓声が返ってくるのすごすぎるだろ。



しかし、一気に駆け上がった階段は転がり落ちるのも早い

復帰したレスリングで負傷敗退、DREAMでの勝率の悪さ、UFCでの連敗などに加え、プライベートのこともメディアはおかしくネガティブに発信し出す。
いつの間にか山本"KID"徳郁をヒーローとする世間の声を鳴りを潜め、格闘技オタクでさえもキッドを認める空気が濁っていく。

キッド離婚したらしいよ
お金ないらしいよ
だから自転車なんだね

クソみたいな話が耳に入ってくるが僕には関係なかった。
連敗しようがプライベートがどうだろうが、僕の山本"KID"徳郁は永遠のヒーローなんだから。

あの163センチという身長で強さの象徴になったことがどれだけすごいことか。
夢と勇気をどれだけ与えたことか。



2018年。
格闘代理戦争という番組があり、そこにキッドが出演していたが、見た目からは当時の強さが消えてしまうほどやせ細って心配になっていた。

「キッド病気で、海外で療養中らしいよ」

ある関係者からそう聞かされたが、そんなもの僕には関係なかった。
後日、同じ情報がメディアで流れたが僕には関係なかった。

あの山本"KID"徳郁が負けるわけないんだから。

試合で勝敗がつくことはあるが、山本"KID"徳郁は負けない。
だからヒーローなんだ。


その情報がメディアに出て間も無く
格闘家 山本"KID"徳郁は息を引き取った
死因はガンだった


僕は泣いたけどそれは涙が溢れてきただけで、その感情がなんなのか分からない


人は死ぬし、命は永遠じゃない
これまで何人もの死を感じてきたがキッドの場合は感情が追いつかない
あの山本"KID"徳郁が病気で亡くなるなんて心が認めてくれない

漫画の主人公だった
明確なヒーローだった

いつまでも強いキッドがいてくれると思っていた
同じ人間だと思っていなかったかもしれない

かえってきてよ

あまりグチグチ書くとキッドに嫌われるのでこの辺でやめる



僕があの日に心を奪われた理由は、強さや野性味や生命のバイブスを「純粋に感じた」からだったかも。

彼は人間と偶像の中間にいた
僕らは彼に「強さ」を背負わせすぎたのかも

キッドがいない世界を生きていくにはまだ僕には強さが足りないけど、来年の9月18日には笑ってキッドの馬鹿話できたらいいな



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ロッキーいしみね

芸人ですが、ノンフィクションにお化粧した恋愛のお話・モテる話・エンタメのことを書いてます。 芸人やMC・イベント制作をメインに活動してるエンタメ屋です。比較的モテます。
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