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“埋もれた資源”を全企業に|「ちょっと言わせて」

言うは易い、と当局からは叱られるかもしれませんが、高齢だからとはいえ、仕事の最中に転んで怪我をするのを防ぐことまで国を挙げて議論することなのでしょうか?
実際、そんな動きが厚生労働省を舞台に始まりました。

人口が減り、必然的に労働力不足も顕著になっているご時世ですから、女性や高齢者の就労に頼らざるを得ない状況にあるのは分かります。
そうした人々は一般の成人男性と比べて体力的に劣る面がある。だから、彼(彼女)らが就業中に転んで怪我などしないための方法をみんなで考えましょう、という理屈のようですが、さあ果たして国レベルの議論に値するかは極めて疑問です。

それでも、実際に同様の災害は増加傾向にありますから、何らかの対策は必要です。
安全スタッフ本誌にも書きましたが、高齢者に配慮した職場環境づくりの方法を示したマニュアルの類はすでに複数あるのですから、それら“埋もれた資源”を今こそ本気で世間に知らしめる時だと思います。何も忙しい有識者を改めて招集する必要などありません。
それをするくらいなら既存の資源を大量にコピーし、日本の全企業に配ってみるのはいかがでしょう。

高年齢労働者の“安全と健康”に関する会議ですから、「転倒防止」だけを焦点に据えた会議でないのは知っています。
いかに高齢者が働きやすい環境を作り、できれば有力な戦力となっていただいて、企業や社会の持続可能性を高めていけるか、それを考える「場」なのでしょう。

人生100年を見据えた長寿社会のもと、日本人の働き手が減っていく現実と、それでも何とか社会を維持していかねばならないもう一方の現実とのバランスをどう図っていくのかという、旧厚生省部局の管轄事項が議論の本丸である気がします。
その一つの切り口かもしれませんが、転倒災害防止をいまさら政策課題に上げようという姿勢からは、お役所の下心みたいなものを感じないわけにいきません。

年をとっても働き続けるのなら、まずは本人が自らの老化を自覚し、そのうえで日々のコンディション調整に心がけるのがスジかと思います。

もちろん、会社は何も手を打たなくていいという話ではなく、職場の中に絶対数が増えている高齢者への配慮は「経営の一環」――そんな心構えくらいは必要かもしれません。心に刻むだけでは実効確保が心許なくなりますから、設備や装置を高齢者にも優しいかたちに改良することが求められます。
弱い力でも動くようにしたり、転ばないよう段差を極力なくしたり、濡れにくい、あるいは濡れてもすぐ乾く床面にしたり、拭き掃除を徹底したりするのもいいでしょう。

体力や健康状態に即した作業しかやらせないようにするというのも手です。
ちょっと考えて思いつく対策は打たないと、何かあった時の金銭的持ち出し負担が増えかねないと心得るべきです。

安全スタッフ編集長 福本晃士

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