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週刊ゲーム漂流記:第1回『The MISSING -J.J.マクフィールドと追憶島-』

メジャーマイナー・プラットフォーム・有料無料・新旧問わず、面白いビデオゲームなら何でも紹介していこうというコンセプトの「週刊ゲーム漂流記」。
記念すべき第1回は、『レッドシーズプロファイル』や『D4』を手掛けたSWERYこと末広秀孝氏が送る、痛みと再生の物語『The MISSING -J.J.マクフィールドと追憶島-』

主人公であるJ.J.マクフィールドは、親友のエミリー・トンプソンと共に、追憶島と呼ばれる湖に浮かぶ離島へキャンプに訪れていた。穏やかで充実した時間を過ごす二人。しかし、その夜、荒れ狂う嵐と共にエミリーは忽然と姿を消してしまう。

エミリーを探して島を彷徨うJ.J.だったが、悲運なことに、その途中で雷に打たれてしまう。凄まじい電圧と熱にさらされたJ.J.の身体はぴくりとも動かず、その生命は絶えてしまったかに思えた。

しかし、炭化してしまった彼女の身体は、突如として再生を始めた。そして、次の瞬間にはもう完全に元通りになっていた。その人知を超えた現象は、エミリーを見つけるまでは死ねないと強く願った彼女の思い故か。はたまたこの奇妙な島に宿る超自然的な力、あるいは呪いなのか。
少なくとも、その時を境に、彼女は死ねない身体になっていたのだ。

J.J.が不死の身体を手にしてしまうオープニングシーン。ここからの流れは、震えるほど力強く、美しい。私もたくさんのゲームをプレイしてきたけれど、これほど印象的な導入にはそうそう巡り会えないだろう。

本作は、3Dグラフィックスを用いた横スクロール形式で進行するアクションアドベンチャーだ。しかし、前述の通り不死になってしまったJ.J.の道程が、そう生半可なものになるわけがない。彼女は、文字通り自分の身体を利用してギミックを突破していくことになる。

高すぎて手が届かない場所にある木箱を落とすためにはどうするか。簡単なことだ。手が届かないなら届かせればいい。右手を引きちぎって

狭すぎて通り抜けられない隙間があったらどうするか。スリムになればいい。首から下を全て切断して

大きな茨が道を塞いでいる。自分の身体を燃やして引火させればいい。

高所に移動したい。回転ノコギリに突っ込んでふっ飛ばされてみたらどうだろう。

先へ進むために、自らの意思で自分の四肢を切断し、あるいは骨を砕き、全身を炎に包み、その想像を絶する痛みの度に彼女は絶叫する。しかし、その身体はすぐに再生してしまう。再生してしまうということは、また同じ痛みを味わうということだ。何度でも。

欠損や血飛沫は白黒でぼかされているし、キャラクターも遠目に表示されているので、ゴア表現はかなりマイルドになってはいる。しかし、彼女が味わっている痛みはリアルだ。ズタズタになった足を引きずり歩く彼女の歪んだ顔が、火だるまになって泣き叫ぶ彼女の声が、脳裏に刻まれていく。

なんて残酷なゲームなんだと思ったのなら、あなたは恐らく正しい。しかし、キャッチーにしたいがためにこんな酷いことするんだなと思ったのなら、それは間違っている。J.J.が味わい続ける痛みには物語的な意味があり、それは本作の根底に流れるテーマでもあるのだ。

ゲームを開始した直後だと、私たちはJ.J.マクフィールドという人物について何も知らない。彼女が、これほどの痛みに耐えてまでエミリーを探し出そうとしているのも、「親友だから」という漠然とした理由しか見出だせない。
ストーリー進行上での描写は、どちらかというと抽象的かつ淡白で、ただマップギミックを突破してゲームを進めているだけでは、J.J.についての理解を深めていくことは難しいだろう。

そこで役立つのが、彼女がスマホで親しい人物たちとやりとりしたチャットメッセージの履歴である。何らかの原因で過去のメッセージが全て消えてしまっているが、それらは進行状況や条件を満たすことで段階的に復活するようになっている。だから、1人の例外を除き、彼女のスマホに届くメッセージは現在進行系ではないので、行方不明のエミリーからメッセージが届くという状況になっている。

エミリーをはじめ、母親や、大学の教授や友人たちとのやりとりを確認でき、そこからJ.J.の人物像や周囲との関係も見えてくる。
かけがえのない親友との大切な時間や、離れて暮らす母親との確執、友人や後輩たちとの活力に溢れたキャンパスライフ。そこには等身大の、青春を謳歌する若者としてのJ.J.が描かれている。

エミリーと母親からのメッセージは進行状況で必ず受信するが、他の人物からのメッセージは、ステージ上に配置されたドーナツを集めることで解禁される。任意の要素だが、本作を堪能するためにはぜひ見ておきたい。

本作のディレクターであるSWERY氏は、「この作品に大切なメッセージを込めた」と語る。
プレイヤーによってその解釈、受け止め方の違いはあれど、ゲームをクリアする頃には、そのメッセージがなんだったのかきっと理解できるだろう。

正直なところ、たった一つのゲームに、人の人生を変える力があるとは、私は思わない。たとえ歴史に残るほど素晴らしい作品であったとしてもだ。
しかし、多くの人生は、劇的なものではなく、ささやかなものの連続で出来ている。
日常での辛いこと、悲しいこと、嫌になること、腹だたしいこと。それらを受け入れ乗り越えなければならない時、自分が今まで生きてきて、内と外に形成されていった温かいものにしがみつく。
私にとって、少なくともこのゲームは、そういうものの一つに成り得た。そうやって蓄積していったものこそが、やがて自分の人生を変えていくのだ。

この作品が、あなたにとってもそうであったら嬉しい。

購入は上記から。※PS4/Switch/Xbox One版も配信中。

ココイチでカレー食べます。