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38歳、芸大受験してみた。⑬

人生で最も大恥をかいた、2018年3月7日の詳細。といっても5種のうち、楽典とピアノはそこそこ良くできたのだ(当社比)。楽典は作戦通り、捨てる問題は最初から捨てて出来そうなところだけをスピーディーにやれたし、ピアノに至ってはスタインウェイのグランドピアノを弾ける喜びすら感じながら受けられた。まあそれは、ピアノの前の聴音で十分な玉砕を感じ、開き直っていたからでもあるのだが。

というわけで玉砕の始まり、聴音。

問題は、単旋律、副旋律、和音の3題。始まる前に、五線紙に小節線と拍子記号と調号を書き入れて自分で解答用紙を作る時間があり、数ヶ月前まで譜面なんて一度も書いたことのなかった私にはこれが既にそこそこ難関だった。ちゃんと書けただけでそれなりの満足感があり、自分をほめてやりたい気分だったが、出来たのは嘘偽りなく、ここまで。

単旋律は前述の通り、難しすぎる後半は最初から諦めて前半だけ頑張ろうと思っていたのだが、通しで聞くと拍子が分からないという落とし穴があり、どこまでが前半なのかがもう分からなかった。各小節の頭だけでも書く、という聴音の世界では最低限のことすらできず、この時点で終わった!感満載。その動揺のまま副旋律を迎えたため引き続き何も書けず、和音もバスの音がいくつか書けた程度なので、誰に言っても盛ってると思われてしまうのだがそうではなく、聴音は本当に0点だったと思われる。

そして最大の大恥、視唱である。

最初に受験の相談を持ちかけたOGのKさんから、恥ずかしいと聞いてはいた。だが私的には、カラオケ大好きだから人前で歌うのなんて全然平気とタカをくくっていた。でも違った。部屋に入ると10名ほどの教授陣がデデンと座っていて、その中で何の伴奏もなしにたった一人で突然歌うのである。入った途端、外国人の先生がいきなり「シュワオーン」と言ってピアノをポロロンと鳴らした。どこの結婚式場の神父だよ、と思ったら自分がどこにいるのかが分からなくなった。よく考えたらそれは「主和音」で、伴奏がないなか歌い出すのに必要な音だった!

脳内ではめまぐるしくこんなことを思いながらも体のほうは固まっていて、目は何も見ていないのだが楽譜を向いていた。カンニングと思われたのだろう、女性の先生がキレ気味で「どうぞ?」。それで我に返ってもなお、なかなか突然歌い出す勇気が持てずしばらく黙ってしまったほど、この試験はソルフェージュ経験のない者にとっては相っ当な羞恥プレイである。かすれ声でどうにかこうにか歌とリズムを歌い、聴音のあとの倍サイズの終わった!感を抱えながら、私は芸大を後にしたのだった。

終わっていても、3日目は来る。

最終日は、1日目に書いた小論文に関する口頭試問。終わったと思っていたので気は楽だったが、それでもちょっと落ち込んだくらい、いわゆる圧迫面接だった。「全く的外れなことを書いている自覚はありますか?」「ミュージカルがクラシックより優れているということですか?」と口々にいじめられるうち、なんだか芸大はもういいやという気持ちに…。楽典までは、今年はそもそも様子見のつもりだったし、また来年頑張ろうと思えていたのだが、面接を終えたときにはもう、二度と芸大に来ることはないだろうと思っていた。思っていたの、だが!

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