2年生1週目の覚え書き

芸大生活も2年目を迎え、書き終えた「38歳、芸大受験してみた。」を一通り読み返してみたら既に忘れてることが結構あって、一方では新たに思い出すこともあって、やはり書いておくと後々楽しいことと、書いておかないと全部忘れちゃうことに改めて気付かされたので、noteに帰ってきてみました。

人生100年時代の話

まず思い出したことから、また忘れないうちに追記しておくと、受験しようと思った理由が一つ漏れていて、それは結婚しないと人生は途方もなく長いということです。結婚しなくても幸せになれる時代とよく言われるし、したから幸せになれる保証はもちろんどこにもないけど、少なくとも暇は潰れるよねというのがしてない者の実感。100年もある人生を自分のことだけで埋めるのは無理があります、子ども産んで孫作って、就学卒業を繰り返したほうが、幸せかどうかは知らないけど楽しいに決まってる。長い独身生活でそう思い知りながらも、自分に結婚ができるとはどうしても思えなかったので、子どもや孫の代わりに自分がもう一度就学したのでした。

あともう一つ追記しておきたくなったのは、楽理科同級生の皆さんの優秀さです。入学してすぐ、ソルフェージュのクラス分けテストというのが行われ、200人強の全1年生が、レベル別に16クラスに振り分けられました。私は当然最下位と思いきや15番目で、でも自分よりできない芸大生がいるとは思わなかったから、16番目は誰も自分がビリだと思わずに済むように創作された幻のクラスだとずっと思って過ごしていたのだけど、それはさておき、楽理科の皆さんは同じクラスにはもちろん、3つ上くらいまでさかのぼってもいません。実演家じゃなく研究者を育てる科だというのに、みんな上位なわけです。

つまりやっぱり音楽の勉強って音感ないと無理なんだなー、みんな音楽も勉強もできてすごいなーって思ってたところに、追い打ちをかけるように和声の初回の授業がありまして。受験までも付け焼き刃、終わってからはノータッチだった私は、んーとこれは日本語かな?というくらい先生の話が入ってこなくて、当てられてもニコニコしていることしかできなかったわけですが、初回の内容はみんなにとってはよほど基礎的なことの復習に過ぎなかったようで、すらすらすらすら答えていく。できあがった四声体を最後に歌ってみましょうとなった時の、パートの指示も何もなかったというのにきれいに分かれてきれいなハーモニーになったことと言ったら、なんかもう目を丸くするってこういう時に使う表現なんだな!と変な感動を覚えるほどでした。

教えてもらおう精神の話

この2つの実感がド頭にあったおかげで、大人としてのプライドみたいなものが生まれる余地はハナからなく、教えてもらおう!という素直な姿勢がごく自然に形成されたのは良かったのだけど、一方でそれは、これくらいソルフェージュと和声ができないと音楽学って学んでも入ってこないんじゃないの?ほかの授業も受けても無駄なんじゃないの?分かったつもりでも分かってないんじゃないの?との“疑念”も生みました。ソルフェージュ最下位クラスが幻ではなかったことが、前期試験の結果により自分が実際に振り分けられて判明してからは余計に。

同じ最下位クラスの子たちの名誉のために言っておくと、私よりできない芸大生なんて、もちろんやっぱりいないのです。下位クラスにいるのは、ピアノとかバイオリンみたいに小っちゃい頃からやる楽器じゃなく、高校の吹奏楽部で出会った管楽器・打楽器をやってる子とか、あとは楽器が得意じゃない声楽科の子たちで、音感自体は私なんかより当然ずっとあるんだけど、それを譜面に書くのに慣れてなかったり覚えるのが苦手だったりするだけ。ゆえに、私の教えてもらおう精神はソルフェージュの授業でも全く変わらず、みんなにお世話になりました。

ちなみにこのソルフェージュの試験、入試よりは見てる先生の数こそ少ないものの、相変わらずなかなかの羞恥プレイです。前期に受けて後悔したから、後期は受けなくていいかな、この嫌だという気持ちが中退への啓示かなと割と強めに思いつつ、でも受けてもしクラスが上がったら“疑念”が少しは晴れるかもしれないとの淡い期待もあって、ご褒美シャンシャンというにんじんをぶら下げて頑張って受けたところ、今年は下から3番目にやや昇格しました。

中退への啓示の話

という流れで、今年のお話です。そんなこともあって、あと1年目は王道の西洋音楽系の授業を多めに取ってたから“疑念”が深まる一方だったけど今年の授業はそうでもないものも多くこれなら普通に面白いかもと思えたこともあって、週半ばまでは卒業を目指す方向にかなり傾いていたんだよね。でも週の後半でいろいろな“啓示”があって、今は8割方、2年か3年での中退の決意を固めています。

中退への啓示1。今年はピアノの前期試験が仕事と被ってて受けられなさそうで、でも後期に受けられれば単位は足りるから、前期はレッスンだけ受けさせてもらおうと思っていたのだけど。前期で単位を落としたら、後期はもう履修そのものができないシステムであることが発覚しました…。思うに楽理科以外の科って、さすが芸大、先生と学生っていうより師匠と弟子みたいな関係で、試験を受けないなんて失礼を師匠に対して働いた者は二度と門をくぐってはならぬ!みたいなノリを感じる。おーい国立大学ー!と思わなくもないが、まあそれはそれで、啓示。ピアノ以外の楽器で単位取る手もあるけど、この歳で一から習うってちょっと白目だよね…。

中退への啓示2。やはり和声の壁、高し…。楽理科の和声が難しすぎるから、他の科の和声を1年間聴講してから3年生で再挑戦する計画を立て、しかしそれが失敗したことは前にも書いた通り。仕方ないので今年も楽理科和声の初回の授業に、先生が替わったことに一縷の望みをかけて、1年生に混じってとりあえず顔を出してみたのだが、やはりどう考えてもついていける気がしなった。自分で相当な努力をしなければいけなくて、いやその努力、聴講させてもらえたらすっごいしやすいよね?ダメな理由、かなり色んな人に聞いたけど誰一人納得いく説明はしてくれてないよね?おーい国立大学ー!アゲインだけど、これはこれで啓示アゲインでもある。

中退への啓示3。去年はたまたま成績評価がレポートで行われる授業を多く取っていたのだが、今年はほとんどが試験だった…。知りたいけど覚えたいわけじゃない、分かりたいけどできるようになりたいとまでは望んでない私にとって、テストって本当に無用の長物なんだよな。しかもレポートを書く場がないと、授業で知った音楽学の考え方をミュージカルに勝手に応用するという、私の大学生活最大の醍醐味も失われるし。それだったら、試験はもう受けない(=単位を放棄する)ことに決めて、覚える・受ける時間をこのように、レポート代わりのnoteを更新する時間に充てたいと思いました。

中退への啓示4。卒論指導をお願いできそうな先生がいない…。早稲田は非常勤の先生でも良かったのだけど、ここはたった6人の常任教授しか選択肢がないようで、しかも卒論の比重が早稲田よりかなり高めなので指導の時間も多め。ミュージカルについて書かせてくれそうで、なおかつ話しやすい先生に出会える確率の低さは最初から危惧していたことではあるけれど、今週、去年書いたレポートの返却というのがありまして。書かれたコメントを見ていたら、複数の常任教授からすごいB型臭がしたのよね…。B型は面白くて尊敬できる人多いから友達には多いし普通に好きだけど、上司にするとめんどくさいというのは経験上揺るぎない事実で、ヘタしたら私が病むので指導をお願いするのは危険な気がしてなりません。繰り返しますが、各先生の造詣の深さ優秀さはもちろん敬った上でのお話ね。

余談ですが、音楽美学概説のY先生だけは、電車の中で読んでてうっかり泣きそうになるほど温かいコメントをくださいました。要約すると、私が知りたいのは音楽美学だと思ってたらそうじゃなかったことが分かりました、今後は私は私で考えますみたいなしょうもない内容のレポートを書いたのに、いやいや町田さんの(すごい大人数の授業だったのに名前でコメントくれるところがまず温かい)そういう考えだって美学ですよと。こんなところで書いてないで、いつかちゃんと直接お礼を言いに行きますね。Y先生が非常勤なのはとても残念です…。

優柔不断な私の話

そんなこんなで中退に気持ちが傾いているのだけど、それを口にすると、割といろんな人が止めてくれるんだよね。私は最初から別に学歴が欲しくて入ったわけじゃないし、そもそも途中で辞めることに人より抵抗がない人間だから、もったいないと言われても正直あまりピンとこない。後悔することがあるとしたら、ソルフェージュと和声の基礎をもっとちゃんとやってから入れば良かったのかなっていう部分だけど、それも振り返ると、1回目の受験を終えた時点で再挑戦はないと決めていたわけだから、基礎をちゃんとやった状態で入学する、という可能性は私の人生にはなかったわけです。そう考えると、入学できて、2年間もいろんな授業が受けられることはもう、モウケモンでしかないじゃないか。

なんて言いながら、ゆうてもまだ決意は8割なので、私がまだ思い至っていない「卒業したほうがいい理由」に心当たりのある方には、ぜひ教えて欲しいと真剣に願っています。運命論者という名の他力本願の私の人生、その意見が“啓示”に感じられたら一念発起して、ピアノ以外の楽器ガンガンやって和声を自力で克服してテスト張り切って受けて卒論も頑張って書いちゃう方向に、傾かないとも限らない。優柔不断な自分めんどくさいなーって思うけど、だからこそどう転ぶか分からない面白さがあるなーとも思ったりする、そんな39歳の春なのでした。ちなみに、そんな私はもちろんO型です。

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