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予測市場を知らないあなたに

予測市場の説明(簡易ver)はこちらから!

ポイント

・予測市場は群衆の叡智と市場メカニズムを利用した予測手段

・予測の正確性、リアルタイム性などのメリットがある

・一方でデザインの難しさ、法的問題などの難点も

はじめに

このnoteでは予測市場のことを初めて聞いた人、名前は聞いたことあるけど具体的にはよく分かってない人を対象に、予測の重要性から予測市場の仕組み・メリット・デメリットについてざっくりと解説したいと思います。このnoteでは伝えきれない部分・正確では無い部分もありますので、そちらの方は後日別記事としてアップしたいと思います。

予測市場は文字通り将来の出来事を予測するための市場です。しかしその仕組みや特徴は一般に想像されるような「市場」や他の「予測手段」とは大きく異なります。株取引のような堅苦しい(?)ものでもありませんし、AIのような非常に複雑な(?)ものでもありません。予測市場は誰でも参加できるオープンな市場です。そこに参加するには専門的な知識は必要ありません。あなた自身が何か「予想」を持っていさえすれば良いのです。

さまざまな予測手段

予測の重要性

日々の意思決定において将来予測が非常に重要であるということは言うまでもないでしょう。製造業であれば商品がどのくらい売れるか、投資家であれば来月・一年後の企業株価、経営者であれば数ヶ月後の政府の政策、政治家であれば選挙結果の予測は生活に関わってくる非常に重要なものです。ではこんなにも重要な「予測」という営みはどのようにして行えばいいのでしょうか。

まず予測とは何かを考えてみましょう。そもそも予測とは「世の中に散らばっている情報を集約し成り行きを推し量る行為」だと考えることができます。

世の中には様々な形で様々なところに情報が散らばっています。それはデータという形を取っているかもしれませんし、もしかしたら「考え」として人の頭の中に存在しているかもしれません。また同じ情報・データに対しても人によって真逆の解釈をすることも往往にしてあるでしょう。個人ではそれらの情報を集めることには限界がありますし、情報を集約して正確な予測を行うことは一般には難しいです。精度の高い予測を行うためにはこのような情報を効率的に収集しうまく集約してあげるような制度・仕組みが必要です。

典型的な予測手段

将来の出来事を予測する際の典型的な手段は次の4つが挙げられるでしょう。

1:過去のデータ・経験からの推測
2:専門家の意見を聞く
3:いろんな人にどの出来事が起こるか投票してもらう(多数決など)
4:(いわゆる)AIによる予測

過去からの推測は最もありふれた予測手段でしょう。しかしこれでは今までにない新しい出来事の予測はできませんし、今までの事例が今回も当てはまるということが暗に仮定されてしまっています。2つ目について、コンサルタントや専門家の意見を聞くというのも組織に納得感を生むなどの理由から(?)よく使われていますが、彼ら専門家には正直に自分の予想を言うインセンティブはありませんし、そもそも彼らの予測精度は必ずしも高くないという研究結果もあります。また彼らに頼んで予測してもらうにはコストも時間も非常にかかってしまいます。3つめは参加者にどの出来事が起こるかを投票してもらうという方法です。投票は低コストで行うことができるうえ、各人の意見が平等に扱われるため1人の意見に全体が引っ張られることはありません。しかしこの方法には少なくとも2つの欠点があります。まず全員が自分の本当の予想通りに投票してくれるとは限りません。通常の選挙と同様に自分の投票が結果に何も影響が無いと思った場合、次善の候補に投票したり投票を放棄したりする可能性があり、各人の持っている情報を収集することができません。また各人が平等に扱われるということは裏を返せばたくさん情報を持っている人も持ってない人と同じく扱われてしまうということです。たくさん情報を持っているのにそれを表明できないのであれば、それは効率的な情報集約手段とは言えないでしょう。最後は今流行りのAIです。確かにAIによる予測の精度は非常に高く、最近ではAIによる株価予想やサッカーの試合結果予想などのサービスが登場しています。しかし精度の高いAIを作るには優秀な人材を集めコストをかけなくてはなりませんし、基本的には過去のデータを用いて予測を行うため新しい出来事の予測は簡単ではありません。

以上をまとめると典型的な予測手段は次のようなメリット・デメリットがあります。

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つまりこれらの予測手段は「コストが高い」「精度が高くない」「効率的に情報を集められない」などの問題があります。では「効率的」な「低コスト」かつ「精度の高い」予測手段はないのでしょうか?

予測市場 = 群衆の知恵 × 市場メカニズム

群衆の叡智(知恵)というものをご存知でしょうか。これは1人の天才や専門家が下す判断よりも多数の普通の人から成る集団の判断の方が優れている、というもので実際にこのような事象は数多く観察されています。例えば次のような話があります。1906年、イギリスの科学者フランシス・ゴートンはとある町で行われた雄牛の重さを当てるコンテストを観察していました。このコンテストはある雄牛を観察しその重さを自分の名前とともに紙に書いて提出し、一番正解が近かった人に賞金をあたえるというもので、全部で800人もの人が参加していました。ゴートンがその人々の予想をのちに集計したところ、実際の雄牛の重さは1198ポンドであったのに対し、参加者の予想の平均値は1197ポンドとほとんど正解だった。つまり、参加者集団の知性は非常に優れた判断を下していたのです。この逸話はまさに群衆の叡智を表しているとして多く語られています。

この群衆の叡智に市場メカニズムを応用したものが予測市場になります。

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経済学の理論によると、各参加者が自らの選好や生産能力に基づいて利益を最大化するように行動するときに市場は効率的な配分を達成する価格を見つけることができます。またノーベル経済学賞を受賞した偉大な経済学者ハイエクがいうように市場とは「事実を発見するための手続き(discovery procedure)」であり、市場が示す価格は参加者が持っている情報が集約されていると言うことができます。つまり市場メカニズムは情報集約メカニズムなのです。これらを予測の文脈で考えてみると、各参加者が精度の高い予想を行うほど得するような市場を作ることができれば、その市場が示す価格は各参加者が持っている情報が集約されたものということになります。さらに群衆の叡智の考え方からこの集約された情報は精度の良い予測ということができます。まさにこの考え方こそが予測市場の核となります。

予測市場の仕組み

市場メカニズムを予測に応用したものが予測市場だと述べましたが、では実際にはどのような仕組みになっているのでしょうか。具体例を用いて見てみましょう(予測市場の仕組みは数多くの仕組みがありますが最もシンプルな例を考えます)。

ここでは例として「明日晴れか雨か」を予測する予測市場を考えましょう。まず市場作成者は「晴れトークン」と「雨トークン」を作成します。晴れトークンはもし明日晴れたなら(例えば)100円と交換することができます。同様に雨トークンはもし明日雨だったら100円と交換できます。またもし明日雨だった場合晴れトークンは0円の価値になります(逆も同様)。そのため各参加者は明日起こると思われる出来事のトークンを購入することになります(もちろん両方とも買ったり複数単位購入したりできます)。

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市場参加者は市場においてこの晴れトークンと雨トークンを売買します。売買の仕方はFXなどと同様で売り注文・買い注文を価格・数量と共に市場に提出するという形で、これによって各トークンは0円〜100円の間で値動きすることになります。さて次の日になり晴れになったとしましょう。このとき各参加者の持ってる晴れトークンは1つあたり100円、雨トークンは0円に変換され市場はクローズします。

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この仕組みにおいて市場での価格は何を表しているでしょうか?通常の市場と同じように、各トークンの需要が大きくなるとそのトークンの価格は高くなります。トークンの需要が大きくなるということはそれだけ多くの人がこのトークンを買いたいと思っている、つまり多くの人がその出来事が起こるだろうと予想している、ということになります。したがってまとめると予測市場における価格は市場の予想を表している、という言うことができます。

この例は非常にシンプルですが予測市場にはその他さまざまな種類がありそれぞれにメリット・デメリットがあります。予測市場についての詳しい仕組み・その他の仕組みについては後日noteを書きたいと思います。

予測市場のメリット

予測市場は最初にあげたような他の予測市場に比べてどのようなメリットがあるのでしょうか。大きく分けて次の3つが挙げられるでしょう。

1:経済的インセンティブによる予測の正確さ
2:リアルタイム性、予測の変化を見れる
3:表現力の豊かさ

予測市場では正確な予測を行えば行うほど利益をあげることができます。そのため参加者は常に正確な予測を行おうとすることになります。また(仕組みによっては)自分の予測を正直に申告することが最もよい戦略となり、他の人の予想まで考慮して別の申告をしたりする必要はなくなります。

例えば次のグラフは映画の興行収入に関する予測市場の結果を示しています(出典:"Prediction Markets", Justin Wolfers and Eric Zitzewitz, Journal of Economic Perspectives, 2004)。

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点線は実際の興行収入、実線は予測市場による平均的な予測を表しています。このグラフから分かるようにときどき大きく予測を外してしまうものの、平均的には予測精度は高いということができるでしょう。予測市場は常に寸分違わない予測を出してくれるものではありません。場合によっては専門家の方が正確な予測を出すこともあるかもしれません。しかしその専門家が次も、そのまた次も正確な予測をするかと言われるとそれは違うかもしれません。予測市場の予測は安定してある程度高い精度を達成する、というのが特徴です。

また他の予測手段との大きな違いとしてリアルタイム性があげられます。例えば大きなニュースなどがあった場合、価格(=予測)がすぐに変化し情報の変化をすぐに予測に織り込むことができます。これは予測市場ならではの特徴であり、例えば専門家に意見を聞く場合、リアルタイム性を重視するなら何度も足を運んで意見を聞きに行かなくてはなりません。また、価格の推移が予測の推移を表しているため、過去の価格の動きを見ることで予測の変化を知ることができます。

3点目に関して予測市場は様々なタイプの予測を行うことができます。先ほどの例では単純な2つの選択肢の予測でしたが、他には例えば次のようなタイプの予測を行うことができます。

・選択肢が3つ以上ある場合の予測(例:W杯で優勝するのはどの国か?)

・数値の予測(例:年度末のAppleの株価はいくらか?)

・条件付きの予測(例:米軍がイラクから撤退したら原油価格はいくらになるか?)

この通り、予測市場はさまざまなトピックでおこなうことが可能です。これは他の予測手段では見られない特性で、例えば投票などでは数値の予測を行うのは難しいでしょう。

予測市場の難しさ

これまでは予測市場の良い面ばかり話してきました。しかしこのnoteを読んでるみなさんの中には「じゃあ何でこんなに優れているのに世の中で予測市場はポピュラーになっていないのか」と疑問に思っている人もいるのでは無いのでしょうか。もちろん予測市場にもデメリットはありそれによって市民権を得ていないのです。

予測市場の主なデメリットは次の3つです。

1:流動性の確保が必要
2:市場デザインの難しさ
3:結果の解釈が難しい
4:法的問題

まず1点目に市場の流動性の問題です。選択肢が多い場合、人気のないトークンについて売り注文・買い注文を出しても誰もカバーしてくれないということが起こり得ます。2点目に市場のデザインが非常に難しいという問題があります。予測市場を作成するには市場のトピック・市場オープンの期間・用いる市場のシステムなどを決める必要があります。正確な予測を行うためにはこれらを適切に設定する必要がありますが、その設定は非常に難しい問題です。ある特定のトピックの予測をしたい場合にどのように市場を設定すれば良いかは今だに明確な答えは出ていません。3点目に、予測市場が導く結果は説明ができないということです。前に述べた雄牛の重さを当てるコンテストの例でいうと、1197ポンドという予測をしてもなぜその予測になっているのかということは説明が非常に困難です。これはAIがいわゆる「ブラックボックス」であるという議論と同じです。一方で専門家による予測であればその予測に対し専門家は何かしらの説明を加えてくれるでしょう。最後に、これが最も高いハードルですが、多くの国で法定通貨・仮想通貨を使用した予測市場の運営が法律で禁止されています。例えば日本で法定通貨を用いて予測市場を運営した場合、賭博法違反となってしまいます。法定通貨が使用できない場合、先ほどメリットの1つとして挙げていた「経済的インセンティブの付与」が難しくなり、ユーザーが正確に予測しようとしなかったり、そもそもユーザーが集まらないなどうまく市場が機能しなくなるかもしれません。

さいごに

このnoteでは予測の重要性、予測市場の仕組み・メリット・デメリットについて解説しました。予測市場は低コストで精度の高い予測を可能にし非常に有用なツールとなり得る一方、法的問題・市場デザインの難しさの問題などから実際にはあまり普及していません。

我々Cropは「集合知をデザインして世の中をアップデートする」というミッションの達成を目指して集合知を用いたサービスの開発・運営を行っています。現在、PredictionGeeksという未来予測コンテストサービスを運営しています。これは予測市場ではありませんが、ユーザーの予測を定量的に評価し、他のユーザーと比較できるようなサービスになっています。興味のある方は是非登録して参加してみてください!


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