『路上の言語』Skateboarding is not a Sport10

スケートボードの文化ととそうでない異なる文化は、スケートスポットである建築物を媒介として交わる。社会の中で互いに異なる文化に所属するもの同士が建築物の使い方についてせめぎ合うとき、ふたつの文化は交わるのだ。

スケートボードとそうでない二つの文化が交わるとき、どういったことが起こるのだろうか。

社会の秩序のもとにつくられた建築物の持つ「意味」を無視し新たに意味付けをするという行為、つまりスケートボードで盲人用スロープを使い障害物を飛び超える、縁石を削るというような行為だが、これらは外部の人間がみると何をやっているのかまったく理解できない行為である。注意を払い見ていないこと、また、注意を払い観察しようにもいつどこに現れるのかわからないこと。あらわれたとしてもじっと見ていても何をやっているのかわからない。自分の知識にないものを初めて見たとき、注意を払い観察しなければそれは概念化されない。概念化されなければ本当に理解することはできない。彼らはその理解できない不思議な存在であるスケーターを見たときに、人が行き交う路上という公共空間で一か所にとどまり占有していること、スケートボードに乗りスピードを出し全身を使う大きな動作でものを壊してしまうことから「暴れている」と思い、結果「反体制」的行為と判断してしまうのだろう。その結果スケートボードの文化はカウンターカルチャーのように見られてしまう。

スケーター本人にそのような反体制というような意識はまったくなくとも結果そう見えてしまうことやそういう点が読み取れてしまうこと、また、そのように読み取られることについて関心を示さないため「反体制的行為をしているわけではない」と釈明することもない。その他者からの視点に正面切って対応しない態度、感覚はシニカルな表現を生む要因となっているが、この点はスケートボードの文化の中で広告や言語感覚に表れている。

社会の秩序を無視して滑ることは結果としてカウンターカルチャーのような側面を見せる。また社会のレールにいくつになっても自らを適合させていこうとしないその生活は、モラトリアムやある種の幼児性の特徴も結果として現す。スケーター本人は意図してそのように見られる行動をとっている訳ではないし、レールの上に乗ることが嫌で滑っている訳でもない。あるとき、スケートボードという行為が「周囲からどう見えているか」というメタ認知をした際に、カウンターカルチャー的でありモラトリアム的行動に見られてしまうことに気付くのだが、この「周囲からの見られ方」というメタ視点を取り入れた結果がシニカルな行動をとる要因になっており、メタ認知とスケーター特有の秩序を無視する思考とが合わさってある種独特な感覚を生む。このシニカルな表現がスケートボードをする行為から直接生まれた感覚ではないことは後で詳細を記す。

社会はスケーターが都市でなにをやっているのか、その結果都市にどのような影響があるのかを認知した結果、「社会の中心の秩序に反しているのでカウンターカルチャーだ」、「社会のレールに沿った人生を送っていないのでモラトリアムだ」と言い始める。その意見を聞いたスケーターは、自分たちの秩序に対して従順な行動を取らない点がカウンターカルチャーだ、モラトリアムだと言われることを理解しシニカルに世間の声をデッキのグラフィックや広告に反映させる。そのときにスケートボードの体験から得た感覚――秩序を無視する自由さや身体全体を使う身体感覚からくる大胆さと、メタ認知することで得たカウンターカルチャー的要素、レールに乗らないモラトリアム、幼児性などが混在して発揮される。

社会を表すものをシニカルに取り入れた表現が生まれるようになったのは80年代後半から90年代初期に該当する。その時代は都市で滑るストリートスケートが隆盛し街中にスケーターが増えた時期であり、それに応じ社会から器物破損や歩道から道路への飛び出し、道路での走行など、スケーターに対する批判の声も大きくなっていった時代だ。それ以前のプールやランプはスケートボードの世界の中心にあり、それらはストリートと違って社会と直接交わることはない。そのような区切られた空間の中で滑っていた時代の社会は、スケートボードという世界を外から見ており自分たちとは接点を持たない外部のものと認識していた。もちろん60年代からスケーターは都市で滑っていたが、一か所にとどまり花壇やベンチを破壊するようなことはなかったので自分たちの文化の秩序を脅かす存在ではなかった。

接点の薄さからふたつの文化が密に交わる、摩擦を起こすことはなかったがスケーターが都市で滑るようになってから社会のスケーターに対する見方が変わったのだ。スケーターがスケートボードの概念的境界であるフチをまたぎ都市に進出したことで、社会がスケートボードの世界に口を出すようになるのだ。

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路上の言語

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