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ビルドトラップを避け、大規模開発プロジェクトをリリースした話

Rettyプロダクト部門担当執行役員の野口です。プロダクトマネージャー Advent Calendar 2020の16日目。Go To Eatキャンペーンを半年掛かりでリリースした話を先日発売された「プロダクトマネジメントービルドトラップを避け顧客に価値を届ける」の内容に触れながら、振り返っていきます。
15日目は「仲間を集めて一ヶ月本気でプロダクトを作ってみた話(プロダクト筋トレ会)」でした。

Go To Eatキャンペーンについて

Go To Eatキャンペーン事業は、「感染予防対策に取り組みながら飲食店と食材を提供する農林漁業者を応援する事業」です。Rettyはオンライン予約サイトの一つとして参画いたしました。感染予防対策を行ったネット予約に対して、9月〜10月半ばにかけてランチ500円/人、ディナー1,000円/人のポイント付与が行われ、付与されたポイント分に関しては2021年3月まで利用可能です。

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引用:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gaisyoku/hoseigoto.html

プロダクト責任者としてまたGo To EatキャンペーンのRettyプロジェクト責任者として、このキャンペーンの成功にコミットしてきた半年の軌跡について、プロダクトマネジメント視点で書いていきます。

Rettyにとってかつてない大規模開発プロジェクト・・・

Rettyは実名型グルメサービスとして基本的な機能が既に備わっているプロダクトです。リニューアルを除き、いつもは四半期で収まる開発がほとんど。大きな機能を長期に渡って作ることは滅多にありません。

Go To Eatキャンペーンは4月〜5月辺りにその存在が世間に明らかになりました。当初から参画を検討していたものの、以下の理由から社内では参画は難しいのではという声が多数でした。

・キャンペーンの要件が未確定だった
・COVID-19の感染状況兼ね合いから開始時期が不透明だった
・Rettyにはこれまでネット予約のポイント機能及びお店への利用ポイントの支払い機能がなかった

開発する上での不確実性が高く、半年かかっても終わるかどうかでは・・・という雰囲気が社内で漂っていました。

またこれまで、複数チームが関わった大規模開発やリニューアルのプロジェクトも上手くいかないことが多々あり。

・リリースが決まってから短納期すぎて、疲弊する
・休日出勤強いられ、疲弊する
・要件・設計漏ればかりで、疲弊する
・外部パートナーからの急な差し込み多数で、疲弊する

めちゃ疲弊する。疲弊→社内ギクシャクすることが多く、それが原因で退職者が出たことも。大規模開発プロジェクトに自信を持っているとは言えない状態でした。

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これまでの開発はビルドトラップに陥っていた

当時の我々は、先日発売された「プロダクトマネジメントービルドトラップを避け顧客に価値を届ける(以下ビルドトラップ本)」で紹介されてる「ビルドトラップ」の状態がまさにでした。

・組織がアウトカムではなく、アウトプットで成功を継続しようとし、行き詰まっている状況
・実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている

引用:プロダクトマネジメントービルドトラップを避け顧客に価値を届ける

開発チームとして、「いつまでに何をリリースするのか」ということにのみ主眼が置かれていました。期限ありきのリソース調整。ステークホルダー間で期日やリソースの調整に議論の大部分が割かれ、なぜその機能を開発するか、どんな体験・価値を提供したいかについてはあまり議論されない、議論されていてもチームに広く説明されないことが多々ありました。

この本を読んだのは2020年12月だったため、かつてのことを思い出しながら、恥ずかしさを感じながらもホッとしました。とは言え今後も気をつけねばと感じた面もあり、様々な感情が交錯したことを記憶しております。

開発プロセスの改善→プロダクト主導型組織へ

時を戻そう(言いたいだけ)。

2018年〜2020年始めまで、大規模プロジェクトへの苦手意識含め、開発プロセス改善に取り組んできました。

大規模スクラム(LeSS)を導入し、縦割り・サイロ化した組織→プロダクトに本当に重要なことから協働して開発できる組織へ。

理想のプロダクトマネージャーの役割についての言語化も行いました。

その他、様々な開発プロセスの改善を行い、Outputではなく、Outcomeを重視するプロダクト主導型の開発組織に脱皮しつつあります。

こうした改善を確かな開発組織力に変え、我々はGo To Eatという鬼を倒すために、全集中しました(またも言いたいだけ)。

ここからは、ビルドトラップを避けるために行った工夫について書いていきます。

経営メンバーとして、ビルドトラップを回避

まずはビルドトラップ回避のために、プロダクトマネジメント観点で、経営メンバーとしてどのように関わったかについてです。

経営PM

1. なぜやるべきか・方向性の伝達

ビルドトラップ本でも触れられているように、プロダクトマネージャーはユーザーストーリーのWhyを研ぎ澄まし、開発チームに伝達し、浸透させることが重要です。VPやCPOの役割であれば、「事業の経済的成功を推進」し、「職能横断の合意」を得て、「取締役会での説明責任」を伴うとも言及されています。

Why、なぜGo To Eatキャンペーンをやるべきなのか多面的に思考しました。

コロナ禍による緊急事態宣言や営業自粛による飲食店への影響は甚大なものです。テイクアウトやデリバリー、EC進出などWithコロナで外食業界は「空間と共に飲食を提供する」以外の方法で、食を届けることを検討してきました。Rettyとしても飲食店のテイクアウト・デリバリーの情報掲載を始め、 様々な打開策を講じました。

しかしながら、全ての業態、全てのエリアの店舗がテイクアウトやデリバリー、ECといった手段がハマるわけではありません。Withコロナにおいてもそうした状況は4月以降数々の飲食店さんに状況をインタビューさせていただいた中で見えてきました。尖ったブランドを起点に、コロナ禍においても、常連客を繋ぎ止められるのは本当に一部の繁盛店だけです。テイクアウト、感染症対策ノウハウなど数多課題はあれど、詰まるところお店さんが困っていたのは集客の課題でした。

Rettyでは70万店舗の掲載があります。大手飲食店以外の個店も、地方店舗の掲載も多数あります。掲載店舗の多さ、幅広さをの強みを軸に、キャンペーンのインセンティブを活用して、多くの飲食店さんにお客さんを呼び込みたい。それが社のビジョンである「食を通じて世界中の人々をHappyに。」することに繋がるのではないか。そんなことを考えていました。

また大きな予算を元にネット予約が促進されることとなるため、日本国民にとって記憶に新しいキャッシュレス還元事業により、QR決済が一気に普及した事例を重ね合わせました。

現金支払いが主流の日本において、増税と同時に行われたキャッシュレス還元は、この国のキャッシュレス化を急激に進めるきっかけになりました。飲食店におけるネット予約はまだまだ不便さもありますが、将来的には必ず便利になっていくはずで、この機会に大きくネット予約が世間に浸透すれば、という想いもありました。

2. 事業計画観点

また事業計画の視点で、Go To Eatキャンペーンについて検討しました。結論、従来の事業計画でGo To Eatの存在自体を読み込んでいなかったため、Go To Eatでの短期的な売上効果は期待しないと判断しました。同時にコストについても、カバーできる範囲と試算。Go To Eatキャンペーンの意図として、「新規加盟店は月額無料でGo To Eatキャンペーンに参画できる」というものがあったこともあり、広く飲食店に参画していただくために、月額・ネット予約従量手数料無料でのGo To Eatキャンペーン参画を可能とする仕様に決定しました。ネット予約従量手数料に関しては、今後計画することもあるかもしれませんが、Go To Eatキャンペーンの「飲食店さんを応援する」趣旨を鑑み、飲食店さんへの提供価値を考え、無料にする意思決定を行いました。

3. 何をやめるか、優先するか

Go To Eatキャンペーンをリリースする上でのプロジェクト内での開発優先度、順序は基本的にはチームで決めてくれていました。

大規模スクラム(LeSS)のプロダクトオーナーとして、 相談に乗った点としては、「何をやめるか、優先するか」の大枠の部分でした。全てのデバイスで一斉に機能をリリースするよりも、ユーザー数が多いデバイスから段階的に早く価値を届けるべきではないか。厳しいスケジュールが想定されたため、トラフィックが多いスマホウェブからリリースするような段階的リリースの検討を開発チームと話しながら進めていきました。

実際、Go To Eatキャンペーン自体の開始の遅れと開発チームのスピーディーな開発のおかげで、一斉リリースに成功しましたが、ユーザーに早く価値提供するために取捨選択する意思決定を行っていました。

また根幹のポイントに関しては、与件にあった1円単位のポイント機能としてではなく、500円単位のクーポン機能として提供することにしました。これは開発チームからの提案でしたが、クーポンの方が外部SaaSを容易に利用でき、また端数も出ないため、支払い含め安全に管理しやすいことが理由でした。提供すべきは機能ではなく、体験でありユーザーへの価値。以前であれば、与件通り実装し、結果として事故を招いてもおかしくない判断でした。

このような経緯で、ポーランド製クーポンSaaSのVoucherifyを根幹システムをとして選定しました(サポートが素晴らしかった!)。

開発プロセスでのビルドトラップの回避

具体的にではどのように開発を進めていったか。それについては開発企画責任者を務めたプロダクトマネージャー田中の記事をぜひご一読ください。

上記の記事以外で個人的に今回上手くいった要因について書いていきます。

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a. 課題を理解する

特にtoBサイドでは、改めて飲食店さんがネット予約のポイントシステムを導入した際に困ること、煩わしいことを営業メンバーと議論しながら進めていきました。従来であれば、開発チームだけで仕様決めを完結し、支払いフローや営業で関わる段階で差し戻しに遭うこともあるあるでしたが、ビジネスメンバーや外部のステークホルダー含め、協働して進められました。

飲食店さんの課題を理解した上で、設計を行えたことは非常にポジティブでした。

b. 不安・気になることを率直に話す

大規模スクラム(LeSS)ではチーム間のもっとも良い調整は「ただ話す」ことだとされています。

チーム間の調整にもっとも良い方法は単純に、ただチーム間の調整をすることです。課題があれば自己管理されたチームの誰もが他チームの所に行って議論することが期待されています。

引用:調整と統合

開発メンバーだけでなく、支払い業務に関わる営業企画、経理含め、不安なこと、気になることをただ話す場設定をしっかり行い、率直なコミュニケーションを行うことができました。

自粛期間のため、完全オンライン環境からプロジェクトはキックオフしましたが、リモートの定例会議やDiscordなどを活用し、不安なことをただ話すことで一つ一つ不確実性に対処することができました。

c. 情報に誰でもオープンにアクセス

複雑かつ状況が刻一刻と変わっていくキャンペーンでしたが、資金面や重要書類を除くと基本的に一つのSlackチャンネル、一つのドキュメント・スプレッドシートファイルに情報を集約しました。またリモート会議主体だったため、主要メンバーの定例会議にも、聞き専で誰でも参加OKとしたことは安全性を担保し、不確実性を下げることに非常に有効でした。こんなにも情報がオープンでタイムリーに得られるプロジェクトはかつてなかったと後から振り返りのコメントをくれたエンジニアメンバーもいました。

Go To Eatリリースで確実にチーム力は向上した

こうして、RettyのGo To Eatキャンペーンは10月1日に日の目を見ることができました。これまで休日出勤を強いられることもあった大規模開発ですが、今回はリリース時に深夜0時ちょうどみんなでリリースを見届けよう(グッとくるものがありました🥺)と待機したくらいでほぼ負荷なしでした。

Go To Eatキャンペーンの開発は一段落し、今は大きなプロジェクトがまたいくつか社内で走っています。かつてと異なるのは大規模プロジェクト開発のノウハウが社内に蓄積し、各人が自信を持っていること。開発チーム力は確実に向上しました。今までと異なるメンバーが開発責任者やスクラムマスターを担い、着実にチームが強くなれている実感があります。学びを活かして、より良い体験を外食業界に届けていきたいですね。

Go To Eatキャンペーンの効果については、様々な意見がありますが、今回私自身RettyのGo To Eatキャンペーンを使って予約したお店に行き、個人経営の飲食店さんの支援に繋がっていることを実感できました。中でも、老夫婦が営む開業50年の居酒屋さんがRettyのGo To Eatステッカーやポップをたくさん飾って、「Rettyでお客さんいっぱい来てくれましたよ」と言ってくれた時は胸が熱くなるものがありました。

オペレーションに不慣れな点があり、ご迷惑もおかけしたこともありましたが、Go To Eat参画で微力ながら外食業界に貢献できたことを嬉しく思います。

「大手飲食店だけでなく、個店も含めてたくさんの飲食店さんにGo To Eatに参加してほしい。感染対策をした上での飲食をユーザーさんに楽しんでもらいたい。」

プロダクトマネジメントではWhoとWhyが起点であり、非常に重要です。このイメージを明確に持ちながら、開発チーム一丸となってリリースできたことが、今回のアウトカムに繋がりました。

ビルドトラップ本を改めて引用すると、「プロダクトとはユーザーに価値を運ぶもの」、「プロダクトマネージャーはビジネス顧客の両方を深く理解し、価値を生み出す適切な機会を見極める人」です。この記事が、ビルドトラップ本の具体事例として、ユーザーに価値ある体験を作りたいと思う人の一助となれば幸いです。

最後に、Rettyでは食を通じて世界中の人々をHappyにする仲間を募集中です!




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