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アインシュタインと宮沢賢治3

「心象スケッチ 春と修羅」


わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です


自然の風景や人々との交流(関係性)によって明滅する現象が、自分という存在なのだ。その象徴が「有機交流電燈」なのでしょう。

単に序文として捉えることができないのが「序」の難解さと、作者特有の宇宙観を交えた世界観です。

「春と修羅」の「序」は、つぎのような言葉で結ばれている。
すべてこれらの命題は
心象や時間それ自身の性質として
第四次延長のなかで主張されます

相対性理論では、宇宙では、同じ絶対的な時間が経過するという前提は否定され、重力場がある所では、光も直進しない「歪んだ空間」となる。

「序」の中では、不均質で不安定な心象の時空の特質を「第四次延長」という言葉で示しているのが「歪んだ空間」なのであろう。

賢治の相対性理論や4次元の時空に対する関心は、「銀河鉄道の夜」ではさらに具体的な形をとっている。

「不完全な幻想第四次の銀河鉄道」という表現も出てくるし、銀河鉄道の時間と地上の時間の関係に、大きなズレがつくられているのも、相対性理論からきているのだろう。

最愛の妹、とし子を亡くした翌年、賢治は妹の影を追うように樺太へ旅した。「青森挽歌」の中、北上する汽車の中で、とし子がたどっていった道筋を執拗に思い描き、「さびしい停車場」を通ってから天に昇っていったと感じている。

妹のたどった北上する列車が、上空の銀河の道を走る幻想が「銀河鉄道の夜」の世界になるのだろう。ジョバンニは賢治の分身であれば、カンパネルラはまさしく、とし子が投影なのだ。

銀河鉄道の夜」は2人の少年が天の川で列車の旅をする物語。

この物語は賢治の想像の産物ではなく、賢治が生きて創作活動していた20世紀初頭の天文学や物理学の新概念の発見による宇宙の様変わりを故郷で教師をしていた賢治が科学的見識に立ち星空への興味と知識を「銀河鉄道の夜」に反映させたのでしょう。

銀河鉄道の旅路で起きる不思議な出来事はアインシュタインの相対性理論と関係しながら「われわれはどこからきて、どこへゆくのか」との命題を突き付けているのだろうか。

4次元は、人間を知覚の3次元空間から解放する。精神の視界が拡大して、人生の問題、生命及び死の問題、霊魂の問題、神の問題其の他人間に関する総べての問題は、不可解、神秘或は奇蹟等ではなくなって、4次元空間に於ける一個の自然現象となる。

要するに第4次元の観念を知らない人は、知覚の三次元空間に束縛せられている人である。

銀河鉄道では、列車から瞬時外に出て、銀河の鳥を捕まえて旅をする様子が描かれている。鳥を捕まえると瞬時に列車に移動する場面です。

銀河鉄道では一晩かかって旅をするはずが、物語では地上に戻ってくるに45分しかかからないというが矛盾する時間経過です。

 この矛盾は時間と光の概念を意味しています。宮澤賢治は近代物理学が何であるかの知識を既に手に入れていたのでしょう。アインシュタインの4次元の世界(アインシュタインの相対性理論)の意味をです。

銀河鉄道の物語を宮澤賢治は幻想第4次元世界と表現しています。これは3次元的空間の一体の延長である超時間的、超空間的世界の延長世界の不可解さを幻想と表現した思われます。

 相対性理論は空間や時間は絶対的でなく、物体の速度や重力の影響を受け、空間はゆがみ、時間の進み方が違うという理論です。すなわち、空間三次元(縦、横、高さ)に時間が流れると空間と時間が混じり一体になる4次元時空(縦、横、高さ、時間)は、空間の広がるのみの次元、第3次元に暮らす我々が一次元の延長体である4次元の世界を不可解と思うのは当然だろう。この不可解さを幻想4次元と表現したのだろう。

 1922年アインシュタインは来日、東北仙台で講演をしているが宮澤賢治は会っていない。しかし賢治は農学校で数学や科学を教えていたから、アインシュタインに興味を持ち、相対性理論を一人で勉強をしていたのだろう。

銀河鉄道では一晩の内に、はくちょう座から南十字星に進んでいる。距離は、少なく見積もっても14.4光年、光の速さで進んでも14年以上かかります。しかし宇宙では速く移動すると時間の進み方が遅くなるのです。

アインシュタインの相対性理論では、「速く移動するほど、止まっているものより時間の進み方が遅くなる」ことになります。
もし光の速度の99.5%の速さで移動できたら、止まっている場合より10倍も時間が遅く進む計算です。12歳の自分がそのスピードの超高速銀河鉄道に乗って出発、銀河鉄道の時計の5年後に戻ってくるとします。でもその時計は地球より10倍遅く進むので、地球では50年が経っていて、自分は17歳でも友達は同級生は何と62歳になっているのです。

アインシュタインは時間と空間が一体となった「時空」という概念を作り、その「時空は観測者の運動状態によって、遅れたり歪んだりして変化する」、という衝撃的な理論でしたがそのような時空の概念をいち早く取り入れた宮澤賢治は不思議な銀河鉄道の物語を創作したのでしょう。



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