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蝸牛山のコナラ



  古里は楢の若葉に沈むのみ

遠く異郷にあって詠んだ句です。
小学校、中学校の校章はナラの葉と実をデザインしたものでした。高校もそうだと思い込んでいたら、こちらはカシワでした。それで市のシンボルの木はカシだから、なんだかよく分かりません。ま、それはともかく、小さな盆地はドングリのなる木に囲まれています。

  心はつねに ならの木の
  木の実のごとく けん実に

小学校の校歌は河井酔茗の作詞。作曲は信時潔、敬愛する画仙・熊谷守一の貧窮磊落生活を支えた友人です。むろん校歌を歌っていた頃は知る由もありません。

ならみのる、などというペンネームを考えていたのは童話を書いていたから。処女作は九歳の頃「たぬきの村長さん」。その頃創刊された少年週刊誌の影響で漫画も描きはじめ、こちらはペンネームは無し。ただずいぶん線を描いたことが、のちの風羅画に活きました。画材屋でナラの木の額縁を見つけた時は迷わず入手、ふうらを額装して感無量でした。



散歩すれば、行く先々でナラの木に会います。ミズナラもコナラも。山径はドングリで敷き詰められています。その中で、最も印象的なのが、蝸牛山のコナラです。
と言っても、この木は蝸牛山に生えているのではありません。蝸牛山のてっぺんには小振りの木が一本、公園との境には別のナラが立っています。でもこのあたりを散歩して、どのコースをとっても目に付くのは、蝸牛平とでもいうべき外れに立っている一木です。


この木でいつも見かけるカラスの夫婦がいます。蝸牛山の反対側にある地球儀時計のポールによく止まっているのも、この二羽なのでしょう。カラスはあたりの地誌を熟知しています。情報もたくさん持っているでしょう。このコナラが物知り・訳知りなのは、見晴らしのいいところに立っているというだけではなさそうです。


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