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バショウ


芭蕉


禅寺への道端に
一株の芭蕉が生えていた
気儘に
破れ加減で
そのあたりだけ空気が旨かった

でもさ
芭蕉ともあろう木が
なんで境内に入れないのか
不許葷酒入山門
そう言えば
風に乱れた様なんぞは
飲んだくれのようで
ちょっと見危ないものね

これじゃ
芭蕉じゃなくて
路通だね
自然体が不穏で放縦で
どうかすると
ばさばさと鳥のように羽ばたく

庭前の柏樹子ならぬ
門前の芭蕉樹
せっかくだから
花の頃に
と楽しみにしていたのだが
何があったか
破門になったか
風狂の影も形も無くなっていた




庭木として知られるバショウですが、こういう道端に雑木のようにある姿がなかなか素適でした。野趣溢れて、天地に茫々自適する様が好きで、元気な折はここまで散歩の足を伸ばしたものです。いつか花を見たいものだと願いつつ、暑い頃に急な坂道も登れず、ついに叶わぬ夢になってしまったのが残念です。

最後に訪れたのは、芭蕉の奥の細道出立の日、五月十六日。白河の関に向かった翁とその旅を偲んで、こちらはやや遠出の散歩。坂道をふうふう登り終えると、木の翁の姿は無く、なんだか見知らぬ道に出たような異和な気分でした。

バショウは何処へ消えたのか? 切株は無く、枝も葉も辺りに落ちていず、元々ここには何も無かったといいたげな風景。ひょっとすると何処かへ移されたのかもしれません。誰かの庭にと所望されたとも考えられます。ともあれ、バショウがここに立っていての道であり、風景でありました。






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