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ユリノキ



 百合の木

山の麓に昔
女の子が生まれて
一本の木が植えられた
花を育てる小さな村から
溜池の連なる峠道に出ると
その木は目立って美しい
誘われて畦道をゆくと
いつか見覚えのある葉の形
枯れた実も残っていて
田舎には珍しいユリノキであった
主に聞いてみると
楓(フウ)だという
「植木屋がそう言った
何かいい木をと頼んだらこの木で
もう三十年経つ」
花の頃にもう一度見せてほしいと
花の頃に来て懐かしい花に会った

ユリノキを初めて見たのは、金沢の中央公園。広場の目立つ所に立っていましたが、普段は気にしません。ある日、その下を歩いていて見馴れない花が落ちているのに出くわしたのです。チューリップのようなコップ型で、花びらはとても厚くて硬い奇妙な花でした。それからは花の時期、実の時期などを楽しむようになりました。エナガなどの小鳥もよく枝移りしていたように思います。

次に見たのは、ずっと年月が経って、明石公園。花の頃で、緑にオレンジ色の模様が、やはり不思議で素適でした。背の高い木なので、あまり間近で観察しにくいこともあって、花を拾うとうれしいものです。

三度目がこの山麓の民家に植えられていた木。村の最北に立つ家で、どっしりした蔵とすっきりした樹形の佇まいが、散歩の目を潤し、疲れを癒してくれました。思わぬところで、思わぬ木に会うから、散歩、旅、放浪……なんでもいいから未知へ出かけたくなります。






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