イギリスの音楽雑誌 NME テミンインタビュー 翻訳 2023年11月

’Guilty’について、 「ネガティブなものを美しく見せる方が魅力的だと思う」。
SHINeeのボーカル・テミンが、ステージ上での人格や、自分の人生が『トゥルーマン・ショー』のようだと思う理由などをNMEに語った。

 「善と悪の曖昧な境界線上/君は僕のために馬鹿なフリをした」。テミンが最新シングル’Guilty’の中で囁く。MVでは、顔なき手が彼の首を掴み、体勢を変え、窒息しそうな雰囲気の中で彼をコントロールする。しかし、勘違いしてはいけない。シャツの下に潜り込み、"You got me G-U-I-L-T-Y(君は僕を罪人にした)”と主張しながら彼のことを黙らせるのは、彼自身の手なのだ。ここにいるのは彼だけだ。
 テミンを完璧に理解するには、アーティストをアートそのものとして見る必要がある。彼が彼自身のコンセプトであり、彼が言うように「テミン-クリシェ」でさえあるのだ。彼は感覚をうっとりとさせ、聴いている者を彼の歪んだ世界へと誘い込むが、聴いている者は彼がずっと独り言を言っていることに気がつく。彼のリリースは、比喩や二重の意図が折り重ねられ、コンセプトはしばしば人間の最も深い疑問に飛び込み、その矛盾を探究することを恐れない。
 4枚目のミニアルバム’Guilty’発売を数日後に控え、彼は、「僕の曲の多くには、ネガティブと捉えられる言葉が含まれている。」と、Zoomを通してNMEに語っている。「ポジティブな言葉には力があるけれど、ネガティブなものを美しく見せる方が魅力的だと思う。」

 15歳の時からK-POPアイドルとして活動してきたテミンは、30歳でありながら、多くのアイドルから青写真として見られている。彼は、BTSのジミンやATEEZソンファ、SEVENTEENホシなど、多くの後輩のロールモデルであり、献身や才能、限界を超越することの象徴的存在でもある。2008年にSHINeeとしてデビューした際、デビューシングルの’Replay’では、彼の声は注目すらされなかったが、今では、グループのメインボーカルの一人とみなされている。SHINee以外では、完成形のソロ歌手であり、スーパーグループであるSuperMのメンバーとしても活躍しており、長く活動することやクリエイティブなビジョンに至るまで、アイドルの人生がどのようになるかを形作る主要プレイヤーの一人として位置付けられている。
 時代を通して、テミンは様々な自分を表現してきた。ソロデビューシングル’Danger’では気難しいロックスターになり、’Press Your Number'では誘拐犯になった。’Move’ではジェンダーレスなパフォーマンスで遊び、’Want’では罪と欲を探し求め、’Climinal’と’Idea’では天国と地獄を横断した。彼のB面には、’Sexuality’や’Thirsty’、’Wicked’といった魅力的な曲が付随する。

 罪悪感が彼の今の関心事だ。誰かが間違った、もしくは不道徳な行いをした時に生じる感情は、人それぞれの解釈によって左右されるものだと彼は考えている。「多かれ少なかれ、誰もが罪悪感を抱くが、それを隠すよりも示す方が誠実だ。」と加える。「シングル曲’Guilty’は、相手を傷つける自分勝手な愛を歌っている。自分の経験から生まれたものではないが、愛とは何かを定義し、それをステージ上で表現する方法として使った。」

 この言葉からテミンの愛の定義がわかる。「愛にはさまざまな形がある。両親からもらう愛もあれば、ガールフレンドやボーイフレンドからの愛もあるし、ファンからもらう愛もある。でも、そこには必ず犠牲があり、誰かに犠牲を強いることも愛だ。」愛の影の側面、誰も求めない、期待しない側面を認めることは、彼が時間をかけて身につけた知恵である。「歌手でいることで得られるものは沢山あるが、同時に、諦めなければならないものも多い。それが僕がこのシングルで強調したことだ。」

 ’Guilty'は、オーケストラのドラマティックさ、映画のようなセンス、歌という形の芸術作品などでテミンの真髄を表しているが、アルバムの残りの部分では穏やかな路線を辿っている。凄みのあるHip Hop曲’The Rizzness'を除けば、残り4曲は、情熱と苦しみ、受容と平和についての思慮深い蛇行だ。「誰かを信じることに注意深くならなければいけないことを学んだ。なぜなら、突然失望させられると本当に傷つくから。」彼は言う。「人間関係において、自分の話す内容や行動に気をつけることはとても重要だ。」
 これらの言葉は、2020年に韓国の義務である兵役入隊する直前にリリースしたミニアルバム’Advice’からのテミンの成長を反映している。音楽活動を休止している間、人間は経験から学ぶことに気づいた。「自分が、違う趣味、違う食べもの、違うレストラン、違う観光地に興味があることが分かった。」そう言う。「リラックスする時間を持つことは、アーティストのテミンではなく、テミンという人間を感じる機会だった。」
 画面の向こう側にいるテミンという人物はそれを強く意識している。素顔でアイスアメリカーノを飲みながら、彼は自分の仕事について極めて明瞭に話すが、決して驕らない。「人格を分けるのが好き。俳優が自分自身とキャラクターを分けて考えるように。」そう説明する。「ステージを下りたら、僕はもっと遊び心があって単純で、小さな子どものようだと思う。」
 この二分法を思い浮かべながら、彼は自分の人生を1998年の風刺映画『トゥルーマン・ショー』に例える。「映画の中でジム・キャリーは、最後にみんなが自分のことを見ていたことに気づく。僕は12歳の時にSM Entertainmentに入社したが、トレーニングを受けていた時も、デビューした時も、僕が成長していく瞬間たちも、全部たくさんの人に共有され見守られていたので、そこに共感する。」そう説明する。
 自分の個人的な経験が世界中に生配信されるのを見て、テミンがもっと忠実に自分自身を表現し、自分の選択に主体性を持って表現したいという欲を抱いて成長するのは自然なことだ。そして、彼がアーティストであるだけでなく、アート作品でもあるとすれば、彼はあまりにも自分自身の中に閉じ込められていたため、そこから解放される必要があった。そして、’Guilty'が彼のその逃避だったのだ。

 ミニアルバムのために出た多くのティーザー写真では、SHINeeの’Sherlock’や’Press Your Number'といった過去の時代への些細なヒントが見られる。「ファンならば、見れば分かる。」彼は言う。タイトル曲のMV監督であるビョル・ユンは、インスタグラムに、”Abraxas"というキャプションと共にテミンの写真を投稿し、テミンのインスタグラムのバイオグラフィーにもあるヘルマン・ヘッセの著書『デミアン』からの引用を用いた。「鳥は卵から出ようと戦う。卵は世界だ。生まれ出ようとするものは一つの世界を破壊しなければいけない。鳥は神の下へ飛んで行く。その神の名はAbraxas。」
 MVの最後のシーン、テミンは神に似た羽の生えたヘッドピースをかぶっているが、インスピレーションの素となったのはそれだけではない。「ジョルジュ・バタイユの著書『エロティシズム』からもMVのインスピレーションを得た。」彼は加えた。「この本では、タブーを破ることについて多くのトピックが取り上げられているが、それが僕の音楽とそこに取り入れる見解にどう反映できるかを考えた。例えば、肌を見せることが未だにタブーとされるので、男性アーティストがシャツを破いて観客が熱狂する時、そのタブーを破るというコンセプトを理解し取り入れたいと思った。」

 彼は自分のアルバムを自分自身への道だと表現する。「僕はいつも何かを学んでいる。日記を書くとき(そこで)自分の考えを整理することができるように、自分の学んだことや考えをリリースしたアルバムを通じて整理することができる。」そして、彼はその教訓を生かすべく、悔いのないところまで、彼の持ちうる全ての「エネルギーと情熱」をパフォーマンスに注ぎ込む。「どんなイメージにも多少の摩耗はつきものなので、僕はどう変化させて、自分の異なる側面を見せるかを常に考えている。」
 「一般の人とは全く違うライフスタイルを送っているが、そのキャリアのおかげで、たくさんの愛と応援をもらっていることに気がついた。頭では分かっていたけれど、今は肌で感じている。自分の道を模索している人たちが同世代には多くいる。だから、自分のやりたいことを見つけられたのはとても幸運なことだと感じている。」彼はそう付け加えた。
 ’Guilty'でテミンは自分を破壊し、新たに構築する。彼は、卵から飛び立った鳥であり、彼を待つ神だ。彼は自分の歩んできた道に感謝しているが、見つめるほどに新たなものが見えてくる絵画のように、その制約に反していく。タイトル曲の冒頭の歌詞で、彼は私たちを彼の起源へと誘う、「毒リンゴ、魅せられて、一口食べてみない?」


https://www.nme.com/features/music-interviews/taemin-guilty-shinee-interview-3530007

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