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[ISF10同人誌感想その1]アイドル同級生巨大感情編

こんにちは、はじめまして、ろまめすくです。

概要

5月28日に横浜産貿ホール マリネリアにて開催されたアイドルマスター765プロダクション&ミリオンライブ!オンリー同人誌即売会"IDOL STAR FESTIV@L 10(以下ISF10)"にサークル「Artless farm」として参加して参りまして、これはその際に頂いたりご購入させていただいた本の感想を個人的にしたためておこうというnoteです。なんとなくテーマを分けて書いていこうと思います。

最初は今回特に注目していた「アイドル同級生巨大感情」を取り扱った作品4つについて綴っていきます。

お前誰なん?

ろまめすくと言います。個人サークル「Artless farm」で細々と横山奈緒の漫画とかを描いているオタクです。
同人歴は2013年からなので10年ほど。ミリオンライブ歴はムビマスからなので9年ほど。ミリオンの同人誌は2018年のISF06から今回までに4冊と合同誌を1つ出しました。

アイドル同級生巨大感情って何?

「ステージの上やテレビの向こうで輝く彼女が学校で見せる素顔を知っているのは隣の席の私だけ。でも住む世界の違う彼女にとって平凡女子高生の私なんて眼中にない。私はアイドルの素顔を間近で見せられてこんなにも彼女に狂ってしまっているのに。」とか、そういうタイプの話です。
アイドルや芸能人等を取り扱った作品の二次創作では比較的頻出の概念だと思いますが、現在ミリオンライブ二次創作ではこれが秘かにホットなジャンルであると勝手に思っています。というのも、昨今シアターデイズのガシャシリーズである"Song for youガシャ"では頻繁にアイドルの過去や家庭、学校での様子等がその周辺人物と共に盗撮描写されており

スーパーアイドルN

こういう状況だからです。必ずしもイラスト内に登場している友人の話でなくとも、少しでもそういう片鱗を見せられると1から100を妄想してしまうのが二次創作オタクという生き物なので。

前置きが長くなりましたが、こうした「アイドルの個人的な友人、知人」に焦点を当てた作品が大好物な自分は今回のISF10でそういった作品を事前にチェックし、観測できた限りでは全て購入したワケです。

以下にそうした素敵な作品を描いてくださった4サークルの紹介と作品の感想を綴りたいと思います。(どうしても内容のネタバレを含みます。)

作品紹介および感想

「青に視える」せくおさん/おこめ5合

3年生に進級した際に星井美希の隣の席になった女の子、頼(ヨリ)ちゃんの1年間を描いた作品。表情がコロコロ変わる美希のキラキラした魅力に支配された会話中心のシーンと、モノローグでエグるように心情を描写するシーンの対比が非常に印象的な漫画でした。

机ひとつ隔てた距離で星井美希の顔面見て無事でいられるワケないんだよな。冒頭の友人たちが心配するシーンからコミカルに導入してきたかと思えば急転直下で星井美希に狂っていくヨリちゃんに「やめろ、その先は地獄だぞ」の気持ちが止まらない。ソイツは毎月100人フッてる女だぞ。
このタイプの話でとにかく残酷なのは「住む世界が違う、彼女は私の心を支配するのに、私は彼女にとっての何者でもない。」って情緒を拗らせてるのって基本的にモブ側だけで、アイドル本人は少なくともその場では一人の友人として対等に接してくれてるというすれ違いを(少なくともゲーム内では)プロデューサーでありアイドル達の人となりを知っている読者しか観測できない部分にあるんですよね。そこが本当に切なくて一番栄養価が高い。

この栄養たっぷり拗らせすれ違い劇のメインディッシュたる部分が「モブ女が本音を打ち明けようとして結局誤魔化しちゃうシーン」なんですけど、これは言わば上質な肉であり、それに対する「アイドルの対応」でどう味付けをするかがシェフたる作家の腕の見せ所、つまりは「ずっとモブ女の話してきたけど、私は詰まるところアイドルがこの台詞を言うシーンが描きたかったんです!」っていう、このジャンルがアイドルの二次創作本である理由が詰まった部分だと思うんですよね(偏見)。

で、当該のシーンについて、こちらの本は完璧でした、というのが一応一人の星井美希担当Pとしての感想です。純真で嘘が嫌いで裏表のないコミュニケーションをする星井の前ではモブ女の取り繕いなど無力。彼女の前で悲しくて泣くなんてこと出来るワケないのだ。改めて気持ちを打ち明けるヨリちゃんのシーンが本当に良かったです。こういうの描きたい。

その上で最後のライブシーンからのエピローグが素晴らしい。人生においてアイドル星井美希と1年だけ学生生活を共にした女子学生の、星井美希との別れの描写としてこれほどの物は他に無いでしょう。きっと今後の人生で何度も中学の卒業アルバムを見返しては、他の学生と別日で撮った美希の宣材のような現実味の無い顔写真と、クラスの寄せ書きページにちょっと他人行儀で書かれた「楽しかったの☆」の文字に、日に日に薄れゆく青の記憶を繋ぎとめて生きていくんだろうなあ、なんて思いました。胸が痛い。

また、作中何度も涙の描写がありますが、その一つ一つに意味の違いを持たせる表情や心理の描写が本当に巧いと感じました。美希の何気ない表情コマの数々も魅力的で、気持ちをグラグラに揺さぶられます。あまりにも読みたかったストーリーを読みたかった描写でお届けされたので、今回の感想はとにかくこちらの本について初めにキモ長文で書こうと思って今こうして綴っている次第です。本当にありがとうございました。

最後に、ヨリちゃんは美希の「高鳴る」カバーを聴いた翌日に学校休んだと思います。

こちらの作品は現在BOOTHにて購入できるようです。

「瑞希の笑顔は私だけが知っている」むそしるさん/宗教法人八丁味噌協会

高校の入学式で真壁瑞希に一目惚れした女子が2年生で同級生となり、惚れ込んだ状態のまま瑞希がアイドルになって以降の人生を見届ける話。冒頭から続く主人公視点の盲目的な描写が綺麗でありつつもおどろおどろしい。装丁や表紙の帯風デザイン、遊び紙からノベルティまで、世界観を演出する仕掛けが目白押しで圧倒される作品でした。

恥ずかしながらこのタイプは初履修でしたが、所謂"BSS(僕が先に好きだったのに)"に分類されるストーリーだと思います。学生時代のストーリーを過去形でモノローグ的に進行していくので画的には終盤まで静かに展開する分、心情や情景の描写に抜かりが無いと感じました。本人は確実に幸せの中にあるのに、読者には終始剣呑で嫌~な空気を感じさせます。

それでも同じ時間、同じ空気を(少なくとも学校では)同じ立場で共有していた2人が、成人後の描写では決定的に交わることが無いのがもう本当に最悪で最高です。何しろ同じコマに顔が並ぶことが無い。そしてまたここです。「モブ女が本音を誤魔化して思ってもない事を言うシーン」。本当にみんなここが描きたくてモブドル本を描いている。先ほどはこのシーンはメインディッシュの肉であり味付けは作家次第と書きましたが、肉にも色々あります。自分は読むのも描くのも10代学生の未熟さが程よく歯ごたえを演出してくれる部位好みますが、こちらの作品についてはもう脂身たっぷり。激重で胃もたれが凄いです。そもそもシチュエーションがもう重すぎる。ここまで入念に考えられたコマ割りやフチ取りからのコマ無し1ページブチ抜きで絶対に最大火力をぶつけてやるという作者の意図を感じずにはいられません。

加えて最悪(最高)なのがデザートたるエピローグがアホみたいに苦いこと。プリンですと言って焦げたカラメル単品を提供しないでほしい。そして食後のコーヒーですとばかりに畳みかけるのが巻末に挟まれたノベルティです。深煎りのフルボディのブラックコーヒーでした。作者のむそしるさん本人のnoteに「読者の脳を破壊したくて…」とありましたが個人的には胃が終わりました。

こちらの作品は上のツイートからメロンブックスさんで購入できるようです。また、あとがきや作品背景についてはご本人様のnoteに纏められているので読了後に併せてどうぞ。

「POLARIS」えのみさん/青春探検隊

ジュリアの昔のバンド仲間がアイドルになったジュリアの在り方に疑問を持ち、ジュリア本人やプロデューサー(以下P)と衝突していく話。本文58Pのボリュームに飽きさせないテンポとライブシーン等の見どころたっぷりです。長くて面白い話を描くのって本当に難しいので、素直に尊敬の念があります。バンド仲間の八尋君はかなりハッキリとした人格を持ったオリジナルキャラで、作者様的には読者の反応を不安に思っていらっしゃる様子ですが、個人的にはメインに取り扱うアイドルを主視点で観測する立場のキャラクターはPでも友人でも家族でも人格がハッキリしていればしているほど良いと思っているのでもうドンドンやって欲しいです。

作品の主題である「ロックシンガー志望のジュリアをアイドルの道へ導くということ」については、門外漢の意見ではありますがジュリアPが抱える永遠の命題だと思います。そこにどう折り合いをつけるか、どう自分を納得させるか、ジュリア本人はどう思っているのか、公式はどういう路線を見せたいのか…ジュリアの新曲やコミュが発表される度に、そんなに大きくない自分のTLにさえジュリアPの苦悶の呟きが流れてきます。この作品はそうした苦悩を燃料にして炊きつけられた創作意欲を糧に完成したものと思います。

こうしたアイドルのパーソナルな部分に切り込む際に、モブドル本というフォーマットは非常に優秀だと思います。というのも、担当Pではない読者にとってはアイドルと一定の信頼関係を築いたPよりも一般人目線のキャラクターの方が感情移入しやすく、話の解像度が高くなるからです。

この作品で特に印象的なのは、そうした読者目線を担う八尋君が作中で主に衝突し直接意見や疑問をぶつけるのはアイドルであるジュリア以上にPであるという点でした。アイドルマスターというコンテンツにおいては基本的にプレイヤーはPであるという前提で進行しますが、その実ゲーム中のPの言動の9割は公式が用意したものです。そのPの言動によって導かれる展開には、時に疑問を投げかけるような場合もあります。八尋君がPに疑問をぶつけるシーンは、そうしたプレイヤーたる作者えのみさんの公式への問いかけのように感じました。そして、その後のライブへの招待から八尋君に訪れる転機がえのみさんなりに公式から受け取ったメッセージと「担当アイドル」との向き合い方、立ち位置なんだなという風に感じました。

自分が理想とする担当Pとしての振る舞いと公式が用意したPの言動とのズレを目の当たりにし、「本来の意味で自分は作中のPなんかではないのだ」と感じる場面は担当アイドルが誰であっても直面することがあるものと思います。そうしたわだかまりをこうして1本の作品に昇華することは創作を伴うファン活動をする者としては目指すものの一つです。今まさにこのズレに悩んでいる方には、たとえジュリアPでなくても読んで欲しいと思いました。

現在委託やBOOTH販売は無いようです。(見落としてたら指摘してください。)
6/1 23時半追記 こちらの作品のBOOTH販売を開始されたようです。

「真くん!真ちゃん!かわいい!かっこいい!」瀬尾さん/イカタコ丼

立場の違う4人のファンがそれぞれに菊地真の魅力を語る短編集。全24ページに渡って菊地真という女の子を多角的に描いています。時に隣の席、時に画面越し、時に撮影中と様々なシーンでモブ達の目に映る表情ひとつひとつに真の魅力が詰まっていて、読むと一層彼女が好きになる事請け合いです。

こういうのでいい。こういうのがいい。ここまでモブドル巨大感情についてつらつらと綴ってきましたが、何もアイドルのファンが全員ドロドロ巨大感情持ってる必要は全くないんです。むしろ自分の担当アイドルのファンにはこんな人やあんな人がいるよね、というのを多方面から描写し、担当外のプレイヤーに新たな魅力を発見してもらう事こそ担当Pの本懐と言えるかもしれません。「ファンの描写」という意味では、短編4つが終わった後の最後の1ページが良い味出してるなと思いました。「担当アイドルを題材にした同人誌で何を伝えたいか?」についてのシンプルかつ最大の答えが詰まっています。

コミカルな漫画ですが、作者の瀬尾さんの菊地真ファン目線的な人格を4人のモブに分裂させて余すところなく描いた、担当アイドルに真剣だからこその漫画でした。自分も次回はこういうのチャレンジしたいですね。すぐ話を重くしちゃうので…

現在委託やBOOTH販売は無いようです。(見落としてたら指摘してください。)

最後に

以上、アイドルの様々な立場の友人、知人やファンがアイドルへ向ける想いを題材にした4作品の紹介と個人的な感想でした。

感想だけじゃなくて作品紹介も兼ねたかったのでこうして複数作品を1つのnote記事にまとめましたが、一方で作者の方に他の作品の感想まで一緒に見せる意味は無いんだよなとか、そもそも感想を大衆の目に触れる形で纏めるのもどうなんだという思いも抱えてはいます。もし気分を害されましたら申し訳ないので、その際には取り下げるなり1記事1作品にするなりしようと思います。

最後に、恐れながら拙作の紹介です。

この題材に関してなんでここまでキモ長文感想をしたためたかと言えば、拙作もそうした題材を取り扱っているからに他なりません。「横山奈緒の大阪の友達、Home is a coming now!を初めて聴いた時絶対に情緒ヤバかっただろ…」というのが発想の大元です。タイミング良く(ある意味では悪く)Song for youガシャで友人と思われる女の子が3名写っていたので、そのうちの1人をメインに展開します。

現在メロンブックス様にて委託販売を行っております。ご興味ありましたら是非。

次回は冒頭でお伝えしたSong for youガシャで解像度が上がったもう一つの概念、「アイドルの兄弟姉妹巨大感情」を題材にした作品の紹介と感想をお伝えできればと思います。

ろまめすく


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