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[西洋の古い物語]「チューリップの妖精」

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回は、チューリップの妖精のお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

「チューリップの妖精」

昔々、一人の気の良いおばあさんが小さな家に住んでおりました。おばあさんのお庭には美しいチューリップの花壇がありました。

ある夜のこと、おばあさんはきれいな歌声と赤ん坊が笑う声で目が覚めました。窓の外を見てみますと、その音はチューリップの花壇から聞こえてくるようなのです。でも、おばあさんには何も見えませんでした。

翌朝、おばあさんは花々の間を歩き回ってみましたが、前の夜に誰かがいたような形跡は何もありませんでした。

その夜、おばあさんはまたきれいな歌声と赤ん坊が笑う声で目が覚めました。彼女は起き上がり、そっと忍び足でお庭を通っていきました。月がチューリップの花壇の上で明るく輝き、花たちはゆらゆらと揺れておりました。よくよく見れば、それぞれのチューリップの傍らには小さな妖精のお母さんが立っており、歌を口ずさみながらお花をゆりかごのように揺らしていたのです。そして、一つ一つのチューリップのカップのようなお花の中には小さな妖精の赤ちゃんが寝ていて、笑ったり遊んだりしていました。

優しいおばあさんは音をたてずにそっと家へ戻りました。そしてこの時以降、彼女は決してチューリップを摘んだりせず、ご近所の人々にもチューリップの花を触らせたりしませんでした。

チューリップは日に日に色鮮やかに、大きく成長し、薔薇のような馥郁たる香りを発しました。チューリップは一年中咲くようになりました。そして、毎夜、小さな妖精のお母さんたちは赤ちゃんたちをあやし、お花のカップを揺すって寝かしつけるのでした。

優しいおばあさんが息を引取る日がやってきました。チューリップの花壇は、妖精たちのことを知らない人々によって根こぎにされ、そこにはチューリップの花の代わりにパセリが植えられました。でも、パセリは枯れてしまい、庭中の他の植物もみな枯れてしまいましたので、その時からそこには何も育たなくなりました。

しかし、優しいおばあさんのお墓は美しくなりました。と言いますのも、妖精たちがお墓の上で歌い、緑の草が枯れないようにしたからです。そして、お墓の上やそのまわり一面にはチューリップや水仙や菫のほか、春の可憐な花々が萌え出たのでした。

「チューリップの妖精」はこれでお終いです。

ゆらゆら揺れるチューリップのお花は、妖精の赤ちゃんのゆりかごにぴったりです。そう言えば、アンデルセンの童話『おやゆび姫』も、チューリップのお花から小さなお姫様が生まれるお話ですね。

この時期、あちらこちらの花壇でチューリップがきれいに咲いていますね。チューリップの妖精の赤ちゃんたちがすくすく育ちますように。妖精のお母さんたちが寝不足になりませんように。そして、花壇をお世話してくださる方々にたくさん良い事がありますように。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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