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[西洋の古い物語]「踊る12人のお姫様」第2回

こんにちは。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
12人の美しいお姫様たちの秘密の物語、第2回目です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※画像は、カイ・ニールセンによる美しい挿絵です。不思議な森を抜けていくお姫様たちの様子です。パブリック・ドメインからお借りしました。

「踊る12人のお姫様」(第2回)

 その晩、お姫様たちが二階の寝室へと上がりますと、ミシェルは足音を立てないよう裸足のまま彼女たちの後をついていき、12台のベッドの一つの下になるべく小さくなって隠れました。
 
お姫様たちはすぐに衣装ダンスや衣装箱を開き始めました。そして一番豪華なドレスを取り出して鏡の前で身に付け、仕度ができますと鏡の前でくるりと回って自分たちの姿に見とれました。
 
ミシェルはというと、隠れていた場所からは何も見えませんでしたが、全てを聞くことができました。彼はお姫様たちが楽しそうに笑ったり跳ね回ったりするのに耳を傾けました。とうとう一番年上のお姫様が言いました。「早くなさい、妹たち。お相手の方々が待ちくたびれてしまってよ。」1時間がたつ頃にはもう何の音も聞こえなくなりましたので、夢想屋が覗いてみますと、12人の姉妹が素晴らしい衣装に身を包み、足にはサテンの靴をはき、手には彼が渡した花束を持っているのが見えました。
 
「準備はよろしくて?」と一番上のお姉様が尋ねました。
「ええ」と残りの11人が声を揃えて答え、お姉様の後ろに一人ずつ並んで位置に付きました。
 
一番年長のお姫様は3度手を叩きました。すると仕掛けドアが開きました。お姫様たちは一人残らず姿を消し、秘密の階段を降りていきました。そしてミシェルも大急ぎで後に続きました。
 
リナ姫のすぐ後を進んでいた彼はうっかり彼女のドレスを踏んづけてしまいました。
「誰か後ろにいるわ」と姫は叫びました。「私のドレスをおさえているわ。」
「お馬鹿さんね」と一番上のお姉様は言いました。「あなたったらいつも何かを怖がっているのね。ただの釘よ。引っかかっただけよ。」
 
 お姫様たちはどんどん降りていき、最後にようやく通路へとやってきました。通路の一方の端にはドアがあり、そのドアは掛け金で締められているだけでした。一番年長のお姫様がそれを開きますと、すぐそこは美しい小さな森の中でした。木々の葉は銀の垂れ飾りで飾られ、明るい月光に照らされてキラキラ輝いておりました。
 
続いてお姫様たちはもう一つ森を横切りました。木々の葉には黄金がちりばめられておりました。それからもう一つ、木々の葉がダイアモンドで光り輝いている森を横切りました。
 
そうこうしておりますと夢想屋は大きな湖を見つけました。そしてその湖の岸辺には12艘の天幕のついた小さなボートがあり、中には12人の貴公子が座っておりました。貴公子たちはオールを握ってお姫様たちを待っていたのでした。
 
お姫様たちはそれぞれ1艘のボートに乗込みました。そしてミシェルも末のお姫様を乗せたボートに滑り込みました。ボートはすばやく滑り出しました。しかしリナ姫のボートは、他のよりも重かったため、ずっと他のボートより遅れていました。
「こんなに遅かったことはこれまでに無かったわ」とお姫様は言いました。「一体なぜかしら。」
「わかりません」と貴公子は答えました。「一生懸命漕いでいるのですけどね。」
 
湖の向こう岸で庭番の少年が見たのは、きらびやかに灯りがともされた美しいお城でした。そこから弾むようなバイオリンの調べやケトルドラム(ティンパニーのこと)やラッパの音が聞こえてくるのでした。
 
すぐに一行は陸地に着き、ボートからとび降りました。そして貴公子たちは、舟をしっかりと係留すると、お姫様たちに腕を貸してお城へと導いていきました。
 
 ミシェルもついていき、一行にまぎれて舞踏室に入りました。そこには至る所に鏡や灯りや花々やダマスク織の壁掛けがありました。
 
夢想屋はその光景の壮麗さにすっかり面食らってしまいました。
 
彼は一行から離れて片隅に身を置き、お姫様たちの優雅さと美しさに見とれました。彼女たちの美しさにはあらゆる種類がありました。肌の色が白い人もいれば浅黒い人もいました。栗色の髪、もっと濃い色の巻き毛、金髪の人もいました。一度にこれほど大勢の美しいお姫様たちが一緒にいるなんてこれまで一度もありませんでした。でも、牛飼いの少年が一番美しく一番魅力的だと思ったのは、ビロードのような瞳をしたあの小さなお姫様でした。
 
なんという熱心さで彼女は踊ったことでしょう!お相手の肩にもたれながら彼女はまるでつむじ風のように回転しました。頬は紅潮し、瞳は輝き、彼女が他の誰にもまして踊ることを愛していることは明らかでした。
 
哀れな少年はあんなにも優雅に踊る彼女のお相手のハンサムな若者たちを羨ましく思いましたが、彼らを嫉妬する理由など彼にはこれっぽっちも無いことに自分では気付いておりませんでした。
 
その若者たちは本当に貴公子たちでありまして、少なくとも50人はおりました。彼らはお姫様たちの秘密を探ろうとしていたのです。お姫様たちは彼らに魔法の惚れ薬のようなものを飲ませました。その薬は心臓を凍らせ、ただただ踊りたいという気持ちにさせるのでした。
 
 一同はお姫様たちの靴が擦り切れて穴ができるまで踊り続けました。雄鶏が三度目に鳴いたとき、バイオリンが鳴り止み、黒人少年のお給仕たちによってお砂糖をかけたオレンジの花、薔薇の葉の砂糖漬け、粉砂糖をふった菫の花、クラックネル、ウエハース、などなどの美味しいお夜食が出されました。それらは、皆さんもご存じのように、お姫様たちの大好物の食べ物なのです。
 
お夜食の後、踊り手たちは皆ボートに戻りました。夢想屋は今度は一番上のお姫様のボートに乗込みました。お姫様たちはまた木々の葉がダイアモンドでキラキラ輝いている森と、黄金が散りばめられた森と、銀の垂れ飾りできらめいている森を横切りました。少年は自分が見たものの証拠に、最後の森で木から一本の小枝を折りました。枝が折られた音を耳にするとリナは振り返りました。
「あの音は何だったのかしら」と彼女は言いました。
「何でもなくてよ」と一番上のお姉様が答えました。「お城の小塔をねぐらにしているメンフクロウが叫んだだけよ。」
 
彼女が話している間にミシェルは一番上のお姫様の前にうまく滑り込み、階段を駆け上がり、お姫様たちの部屋に真っ先にたどり着きました。彼は窓を開け放つと壁を這い上がっている蔓をつたって滑り降り、ちょうど太陽が昇りかけたときに庭に降り立ちました。もう仕事に出かける時間でした。 (続く)

「踊る12人のお姫様」第2回はここまでです。

この物語が収録されている物語集は以下の通りです。

https://www.gutenberg.org/cache/epub/540/pg540-images.html

Title: The Red Fairy Book
Editor: Andrew Lang


最後までお読みくださり、ありがとうございました。
お姫様たちの驚くべき秘密と貴公子たちの運命を知ったミシェルは、これからどうするつもりなのでしょうか。
次回をどうぞお楽しみに。

「踊る12人のお姫様」第1回はこちらからどうぞ。


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