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[西洋の古い物語]「コーネリアの宝石」

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回はローマ時代のコーネリアという女性についての物語です。
コーネリアの宝石とは一体何なのでしょうか。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※ 画像はカウフマン『グラックス兄弟の母コルネリア』です。パブリック・ドメインからお借りしました。

「コーネリアの宝石」
(ジェームズ・ボールドウィン作, retold)

何百年も前、いにしえの都ローマの、ある輝かしい朝のことです。美しい庭園の中に葡萄の蔓に覆われたあずまやがありました。あずまやには二人の少年がいて、彼らのお母様がお友達と花々や木々のあいだをお散歩していらっしゃるのを眺めておりました。

「お母様のお友達ほどきれいな女の人を見たことある?」と弟が尋ねました。彼は背の高い兄の手を握っておりました。「まるで女王様みたいだね。」

「でも、あの人はお母様ほど美しくはないよ」と年上の少年が言いました。「あの人は確かに上等のドレスを着ているけど、気高い、思いやり深いお顔じゃないよ。女王様みたいなのは僕たちのお母様だよ。」
「本当にそうだね」と弟は言いました。「ローマには僕たちの大好きなお母様よりも女王様みたいな女の人はいないね。」

 しばらくするとコーネリア(彼らのお母様です)は、散歩をやめて彼らとお話しをしにやってきました。彼女は簡素でゆるやかな白いドレスを身につけているだけでした。腕も足も覆っていませんでしたが、それがその頃の習わしだったのでした。手や首には指輪も金の鎖も輝いてはおりませんでした。ただ一つ身につけている冠は、頭の上で輪っかのように結った柔らかな褐色の髪の長い三つ編みでした。彼女が二人の息子の誇らしげな瞳を覗き込みますと、優しい微笑みがその気高い顔を輝かせました。

「あなたたちにお話があるのですよ」と彼女は言いました。

 二人は、ローマの少年たちがそうするよう教えられている通り、お母様にお辞儀をして言いました。「何でしょうか、お母様。」

「あなたがたは今日、このお庭で私たちとお食事をすることになっています。そのときに、お母様のお友達がね、すばらしい宝石箱を見せてくださるのですよ。その宝石箱のことはあなたがたも何度もうかがったことがあるでしょう?」

少年たちは遠慮がちにお母様のお友達のほうを見ました。指につけている以外に他にもまだ指輪を持っているなんて、そんなことあり得るだろうか。首にかけた鎖についているあの光輝く宝石の他にも宝石を持っているなんて、そんなまさか!

屋外での簡素な食事が終りますと、召使いがお屋敷からその宝石箱を持ってきました。奥様がそれを開きますと、ああ、たくさんの宝石に少年たちはどれほどびっくりしたことか、目がくらくらするほどでした!ミルクのように白くてサテンのように滑らかな真珠を連ねた何本もの首飾り、輝く珊瑚のように赤くキラキラ光るルビーの山、夏の日の空のように青いサファイアや日光のように閃き、光輝くダイヤモンドの数々がそこにはありました。

兄弟は長い間宝石をじっと見つめていました。
年下の子がささやきました。
「ああ!僕たちのお母様もあんなきれいな物を持てたらいいのに!」

しかし、とうとう宝石箱はとおじられ、注意深く運び去られてしまいました。
「コーネリア、あなたが宝石を持っていないなんて、本当ですの?」とお友達がききました。「ひそひそ囁かれているのを聞いたことはあるのだけど、あなたが貧乏だというのは本当なのかしら?」

「いいえ、私、貧しくはありませんわ」とコーネリアは答えました。答えながら彼女は二人の少年たちを両脇に引き寄せました。
「だって、ほらここに私の宝石がありますわ。あなたの宝石全部よりもこの子たちのほうがずっと価値がありますのよ。」

 少年たちはお母様の誇りと愛情と心遣いを決して忘れませんでした。何年も後、彼らはローマの有力者になりましたが、この庭園でのこの場面のことを何度も思い出しました。そして、世の人々は今でもこのコーネリアの宝石のお話に喜んで耳を傾けるのです。

  

「コーネリアの宝石」の物語はこれでおしまいです。

コーネリア(コルネリア・アフリカナ)は古代ローマの政治家グラックス兄弟の母で、カルタゴの将軍ハンニバルを打ち破り第二次ポエニ戦争を終結させた名将スキピオ・アフリカヌス(大スキピオとも)の娘です。彼女の息子たち、ティベリウス、ガイウスの兄弟は後年揃って共和政ローマの護民官となり、戦争が続き社会的に疲弊したローマの改革を志しましたが、2人とも殺害され、非業の死を遂げました。

この物語の原文は以下の物語集に収録されています。
https://www.gutenberg.org/cache/epub/359/pg359-images.html#link2H_4_0002

最後までお読み下さりありがとうございました。
次回をお楽しみに。


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