引越し

六年間住んだぼろ家から引っ越した。芸人四人でルームシェアをしていた木造二階建ての一軒家で、広さやアクセスは申し分ないのだがなにぶん古い。ぼろっぼろである。敵の必殺技を喰らってギリ耐えた主人公の服ぐらいぼろっぼろだ。
線路沿いにそびえたっている。電車が来ると爆音と共に少し揺れる。
あまりのぼろさが物珍しかったのか、家の前を通った外国人が良いカメラで写真を撮っていたことがあった。ピューリツァー賞だって狙えるだろう。
少し傾いている。冬はたぶん外より寒い。そんな家を引っ越した。

初期メンバーは俺と、大仰天の木場(当時は卯月というトリオだった。募金のネタ、強かった)と、まんじゅう大帝国の田中(当時は髭がなかった。かわいかった)と、かが屋の賀屋くん(当時からパンパンだった)だった。
俺以外の三人がルームシェアを始めようと家を探したところ4LDKのこの家が候補となり、四つ部屋があるならもう一人芸人を入れようとなって俺が呼ばれた。なんか面白そうだったので話を受けた。

一年もしないうちにかが屋がブレイクして、たしか二年ぐらいで賀屋くんは引っ越していった。
公園でキャッチボールしたり、鍋の具材を買いに行ったスーパーの帰り道で倒れていた老人を救急車に乗せたり、「昨日、細田さんとめちゃくちゃセックスする夢みて、その時の月がめっちゃ満月でした」とか言われたり、ぐっと距離が近づいた。
去年の誕生日は七万円のバブアーのコートを買ってもらってしまった。お返し、いったいどうすればいいんだ。

賀屋くんの代わりにフランスピアノの陽平がやってきた。"おしゃれコント師が出ていく場合、別のおしゃれコント師を連れてこなくてはいけない"なんて決まりはないのだが、なんとなく系譜の近い男がやってきた。
陽平は料理をよくする。俺が気まぐれで振る舞ったチャーハンがあまりに味がなかったので、陽平にチャーハンに味を出す方法を教えてもらったことがある。

去年の春にまんじゅう大帝国の田中が引っ越した。ネズミがリビングにいて、そいつをしっかり目撃してしまいまともに寝られなくなったらしい。
田中の部屋は唯一一階にあり、なんとなく一番散らかっている印象があったので「まあでも汚くしてた君の責任だよねえ」「俺ら実際ネズミなんてみたことないしねえ、見間違いじゃない?」なんてことをうっすら思っていた。全く親身になってくれない私の非情な態度も引越しの一因になったに違いない。

田中が引っ越して、アルバカーキの相澤が代わりに入ってきた。ネズミが出たっぽいことを説明したうえで入居してくれた豪胆な男である。
一度、相澤がリビングで下半身すっぽんぽんで寝落ちして(風呂上がりだったのかな?)、翌朝リビングに入った瞬間に相澤のブツが目に入って嗚咽がこみ上げたことがある。
それをライブで喋ったら後日相澤から「すいません、あの時俺めっちゃ朝勃ちしてましたよね…」と謝罪された。勃ちを視認するほどしっかりみてないし、謝るところそこじゃねえんだわ。

M-1で負けたり年末を迎えたりするたびに「俺、いつまでこの家いるんだろう」とか思っていた。とにかく生活費は安く済むしアクセスも良いし、芸人をやるうえで困ることはほとんどないけれど、まじでいつまでこのちょっと傾いているめっちゃ古い家にいるんだろうとは常々思っていた。

そんな思いにふけっていたら、俺の部屋にもネズミが出た。田中先生、あの時冷たい態度をとってごめんなさい。

俺は去年の秋頃、おやつとしてさつまいもを食べるのにハマっていた。広瀬すずが一番好きな食べ物はさつまいもと言っていたので。
部屋でおやつとしてさつまいもを食べる、端っこの食べづらいところは皿に残す、週二回の燃えるゴミの日に残した端っこを捨てて皿を洗う、という秋を過ごしていた。
今となってはなんですぐ捨てねえんだよ、皿に残すな、端っこすぐ捨てて皿洗えよ、キモいなあ、くたばれよ、としか思えないが当時は"涼しくなってきたし腐るほどでもないし別に良いっしょー"とか考えていた。

年末にベッドの下の収納スペースに入っているズボンを取り出そうとしたら、秋頃に食べ残していたさつまいもの端っこが何故かその収納スペースに何個も置いてあり、そこに明らかなネズミの糞も散見されてびっくらこいた。
びっくらこいていたら、次の日には部屋に置いてある酉の市で買った縁起物の熊手の稲穂の部分がめちゃくちゃ食い荒らされていて、餞別ついでにしっかりうんちもされていた。熊手がすっかりパイパンになっていた。熊手をネズミに食われた男が売れるわけないと、心の底から思った。

ラジオでこの話をしたら、"頼むからすぐ引っ越してくれい。後生の頼みや"と、相方の関西人に言われて、流石に大納得して引っ越すことを心に決めた。
俺の怠惰により部屋にネズミを引き入れてしまった手前、家のメンバーにこの話をするのは結構申し訳なかった。
そもそもさつまいもにハマっていたってなに?とかも含め。とはいえネズミ自体はずっと居ただろうというのもあって、引っ越しの意もしっかり伝えられた。

木場の立ち回りにより、うちには駆除業者がしっかり入ることになった。その費用は大家さんが払ってくれるらしい。
そのうえで俺の代わりに我が家に入ってくれる新たな豪胆者も見つかったので何よりだった。

理解し難いキモい行動が多いのにつんけんとした振る舞いをするのでみんなそれに触れづらいという、ルームシェアに全く向いていない俺に長年付き合ってくれてありがとうございました。
入った頃、この家を出る時はしこたま売れてレベチな高級物件に住んでやんねんという意気込みでしたが、それは叶わず普通の物件に引っ越す運びとなりました。
中間地点を挟んではしまいましたが、さっさと売れて港区のたっかいところに居住してやんぞ!!
新居での目標
「さつまいもを食べる時、残した端っこはすぐ捨てる」
マジで頑張りどき!!!

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