1ミリのやさしさ
2020年の春先。ちょうど日本でも新型コロナウイルス感染症の感染拡大をうけて、緊急事態宣言が出されていた頃のこと。私は、仕事の人間関係で難しい状況が続いていたため、ストレスで生まれて初めて頭に円形脱毛ができ、不整脈も出て、不眠症にあえいでた。
その日は、どうしても用事があったため郵便局へ向かったのだが、郵便局に入る直前に、自分がマスクを着け忘れて出てきてしまったことに気づき、慌てて近くのコンビニに立ち寄った。
ストレスが溜まって疲れているときは、こんな些細な「忘れ物」という失敗にさえ、落ち込んで溜息が漏れる。
コンビニで、早々にマスクを手に取り、会計へ向かう。
「392円です」
ビニールで隔てられたレジの向こうから、お姉さんの声。
財布から小銭を出して、小銭を減らすためにおつりが5円になるように支払いをする。。。
したつもりだった。
結果、ちゃんと計算ができていなくて、バラバラと小銭をもらうことに。
お姉さんは笑顔で「ありがとうございました」と言って、私に小銭を渡す。
私:「あ、計算が違っていました。意味なかったですね。すみません。」
店員さん:「全然大丈夫ですよ。そういうこと、ありますよね。」
やさしい声で、にこにこと笑顔でそう話すお姉さん。
たったこれだけのことなのに、涙がホロリと出てしまった。
「やさしさ」って、些細なことなんだと思う。
ちょっとしたその温もりに触れると、心の中の固まった老廃物が溶けて、ゆるりと流れていく。
新型コロナウイルス感染症の流行という歴史に残るような大きな出来事の渦中で、色々な考え方が溢れ、色々な不安が生まれている。こんな時でも、人があと1ミリだけ自分以外の命(人にも、人以外にも)に思いやりを持つことができたらなら、世界はもっとやさしくなるのかもしれない。
ちょっとした「やさしさ」にふれて、そんなことを考えた。
どんなときも、1ミリだけ自分以外にもやさしくありたい。
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