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日本建築は○○との関係に注目しよう!

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。
前回の記事では、建築を見るときにはさまざまな背景を知っておくと色んな視点が得られて面白いよ、というお話をしました。
なかでも神社やお寺といった宗教建築は、時代時代の最新・最高の技術を結集してつくられていることもさることながら、時代ごとの建築様式や建立の由来、またどのような使われ方をしてきたのか、など建物にまつわるさまざまな背景が現代に伝えられており、調べていくと面白いものです。
しかしこうしたお勉強的な情報収集は、体系的な知識を得られるまで時間がかかるもの。
ここでは、実際に建築を訪れる際に、ここに注目すれば日本建築を楽しめるよ、というポイントをお話ししたいと思います。
今回はその一例として、福岡県にある太宰府天満宮を見ていきましょう!

◆日本建築は”水”との関係性に注目しよう
寒暖の変化が激しい日本では、厳しい気候に対応するべくさまざまな建築的な工夫がなされてきました。
特に水は建築にとって大敵で、水からどう生活空間を守るかというところから建築がはじまったと言っても過言ではありません。
多少暑くても生活はできますが、部屋が水浸しだと何もできませんよね。
そのため地形の起伏が激しい日本においては、古来から建築をどこに建てるかが大きな課題でした。
江戸時代には、高台の水害がない場所に行政機関となるお城や武家屋敷が置かれ、農民は水害と隣り合わせの水田近くに住むことが定着していたほどです。
未だに東京では江戸時代の区割りの名残が残っていて、高台ほど敷地面積の大きな高層ビルが建てられているんだとか。(このあたりのお話は『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』(洋泉社、2012)に詳しいです。)
また湧き水の出る場所は神聖な場所とされていたことから、山のふもと、湧き水の出る位置に寺社建築も多く建てられました。
手水舍が必ずあるのも常に水を確保できる立地にある証拠と言えるでしょう。
太宰府天満宮も山を背負うように建っている様子が分かるかと思います。

こちらは境内裏にあった湧き水。

こちらは人間が愛でるためのものですが、蓮池もあります。

そして建築と水との闘いが最も端的に現れている場所、それがいわずもがな、「屋根」というわけです。

◆日本建築の美しさは、屋根の美しさ
大学で日本建築史の授業を受講すると、まずはじめに習うのが屋根の形式。
神明造、大社造、住吉造、春日造、流れ造、、などなど神社建築の代表的な屋根形式を頭に叩き込むよう言われるのですが・・・正直何がどう違うの? と思わざるを得ない程度の微妙なバージョン違い。
ちんぷんかんぷんのままテストに出されて惨敗、日本建築アレルギーになる学生多数といった感じでした。
それもそのはず、これらすべて大きく括ってしまうと、「切妻造」の派生系なんですね。(先に言ってよ先生。)
屋根の形式にはさまざまありますが、こと神社建築においてはまずこの「切妻造」、そして「入母屋造」の2つが分かっていれば大丈夫。
(それ以外にも日本建築の代表的な形式として、「寄棟造」「方形造」という形式がありますが、神社建築にはまず用いられることはありません。寺院建築についてお話しする機会にでもご説明します。)
「切妻造」は最もシンプルな形式で、1枚の板を山折にして建物に被せたようなかたち、「入母屋造」はさらに建物の4方を囲むように屋根が張り出したかたちをしています。(『神々が見える神社100選』芸術新潮編集部 より)

さてなぜ屋根がそんなに大切かというと、これは日本に限ったことではありませんが、建築は巨大化するほど神聖で権威を示すものとされてきました。
小さな民家であれば簡単に建てられますが、大きな建築はそれだけ大勢の動員が必要で、権力がなくては実現できませんからね。
それに見たことのないものに感動してしまう人間心理もあり、求心力を高めるための道具として、大きな建築がつくられてきました。
そして大きな建築には必然的に大きな屋根が欠かせませんが、柱や梁などひたすら連続させれば大空間をつくれるものに対し、屋根は1空間に1つ、がやはり機能的で美しい。
ゴシック教会など、垂直方向に大きくできる建築においては屋根を細分化させる方法もありますが、木造でそれほど高い建築をつくれない日本においては水平方向に大きくする、すなわち大空間を1つの屋根で覆うことが必要だったわけです。
ですから大きな建築の象徴としての屋根が、重要になったんですね。
今では採れないような太くて立派な柱や梁、また装飾としても発展していったさまざまな構造部材に目を奪われることもありますが、それらも全て大きな屋根を支えるために発達していったことは覚えておきましょう。

◆太宰府天満宮の屋根
解説が長くなりましたが、いよいよ太宰府天満宮の屋根を見ていきましょう。
まずはこちら、楼門。
二重の入母屋造です。

屋根の先が反り返っているのがわかるかと思います。
これは中国建築の影響と言われており、繊細で緻密な日本的な美に対し、豪奢な印象を与えます。

屋根材は桧皮葺と呼ばれる檜の皮を重ねたもの。神社建築においては最も高級とされています。
表面が苔むした感じになるのは植物を使用しているからこそですね。

塗装も建築部材を水の腐敗から守るための大切な役割を担っています。
全体を朱色に、切断面を黄色く塗り分けています。この色合いも中国からの影響です。
ほかにも黒に金、素木に白などさまざまですが、それだけでかなり印象が変わるので注目して見てください。

手前の灯籠は切妻造の銅葺屋根。石灯籠はあえて言うなら方形造でしょうか。
境内には室町時代〜江戸時代までさまざまな時代に建てられたものが混在しており、細かな部分まで日本建築の意匠が徹底されています。

そして本殿は切妻造のなかでも大きな社殿でよく見られる、流れ造と呼ばれる形式。
2方向に延びる屋根の片側(参拝者側)を長く延ばし、参拝者が屋根の下に入れるようにした上で、さらに庇を設けています。
賽銭箱が置かれるなど、参拝者に配慮したデザインと言えるでしょう。

こちらは本殿を後ろから見たところ。
本殿の頂点から回廊の屋根の先まで、屋根の線がひとつながりになっていて美しいですね。
絵馬にも雨が滴らないよう、ちゃんと屋根の下に設置されています。

回廊の屋根の下には水路が。
屋根のかたちだけでなく、排水のデザインも重要なポイントです。

裏手にある小さな社はシンプルな「ザ・流れ造」。切妻の手前側を延ばしている様子がよく分かりますね。

日本建築は水との関係だけでなく、もっと色々注目すべき点があるので、またの機会に紹介しますね!

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