見出し画像

建築×テクノロジーの歴史と未来|歴史編

建築の発展はテクノロジーの発展なくしては語れません。
それでは、「AIが人の仕事を奪う」などと言われる未来に建築家はどんな存在になっているでしょうか?
その手がかりを探るため、未来に投資する建築家・竹鼻良文さんの活動に迫ります。

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。
テクノロジーと建築。
その言葉を聞いて皆さんはどのようなことを思い浮かべますか?


テクノロジーの発展と建築の発展(モダニズムまで)

建築の発展は、テクノロジーの発展とともにありました。
新たなテクノロジーが生まれることで「そんな技術があるならこんな建築をつくれるのでは?」と、その技術がなければ考えだすことすらできなかった建築を構想することができるようになる。
それが建築のデザインを発展させてきました。

古代ローマ建築(1〜2世紀頃)ではレンガをドーム状に積み上げる技術により大空間を生み出すことに成功します。
「大空間をつくることができる」という発見により、教会や聖堂など、大勢が集まる建築が構想されるようになりました。
それ以前の、「神が座する場」としてつくられていたギリシャの神殿建築とはまったく異なるものです。

ゴシック建築(12世紀頃)では力学の発展によって、建築をさらに高くしていくことができるようになり、垂直に伸びるデザインの美しさが追求されるようになります。
現在でも世界中で高層ビルの高さが競われていますが、すでに12世紀には高さが建築の重要な魅力のひとつとして捉えられていました。

そして19世紀末には、かつてないほどの技術革新が建築を大きく変えていきます。
産業革命が生み出した新しい技術の数々が、建築の分野にも応用されるようになったのです。

鉄筋コンクリート造の登場により、建築のかたちを自由につくることができるようになります。
直線や円など幾何学的な形を中心に構成した建築、流線型や自由曲面などを多用した建築など、ありとあらゆるかたちの建築がつくられるようになっていきます。
また、鉄骨造は軽やかな構造を実現し、薄さや細さを追求する建築も生み出されました。
大きなガラスで光を採り込む明るい空間は、この頃につくられるようになったものです。

こうした新しい技術が生んだ新しい建築の動きはモダニズムと呼ばれ、建築の考え方そのものを変えてしまうほどの大変革を生みました。

テクノロジーの発展と建築の発展(モダニズム以後)

それでは、現代を代表するテクノロジーである情報技術は、建築にどんな影響を与えたでしょうか。
設計に従事する方にはおなじみのBIMをはじめとする設計ツールや、CASBEEなど建築の性能を評価する技術などはいまや設計現場になくてはならない存在です。
シミュレーション技術やコンピュータ制御による加工技術の発展は、これまでの技術では建設することができなかった建築も実現可能としました。

しかし、これらの技術は建築家の作業を変えたとはいえその技術がなければ考えだすことすらできなかったとまではいえないのではないでしょうか。
20世紀以降、テクノロジーの進化には目覚ましいものがありますが、モダニズム建築がうまれるまでに起こったような変革は、ここ数十年建築界にはまだ起こっていません。

今後さらにこうしたテクノロジーが発展した先に、建築家がそれらを駆使してどのような建築を生み出していくのかも大変興味深いところですが、今回はさらに先の未来について考えてみたいと思います。

AIは建築の未来をどう変えるか

ここ数年は第三次人工知能ブームなどといわれ、IoTの実用化や、AIが変える未来の姿などが活発に議論されています。
「AIに代替される職種」が発表されるなど、テクノロジーが産業構造を大きく変えてしまう可能性を秘めています。
クリエイティブの世界においても、AIが小説を書く、AIがロゴをデザインするなどのニュースが注目を集めましたね。
これまで人間にしかできないと思われていたことをAIがやってしまう、そういう未来が現実のものとして見えてきています。

こうしたテクノロジーの進化は、従来のようにそれまでだれも考えてもみなかった建築を生み出すだけでなく、建築のあり方そのものを根本的に変えてしまうかもしれません。
建築は、そして建築家はどのように変わっていくのでしょうか。

いま東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間という建築専門のギャラリーで、建築家藤村龍至氏の展覧会が開催されています。
そのなかで藤村氏は、「Deep Learning Chair」という椅子を展示しています。
この作品は、世界9ヶ国語での「椅子」という単語で得られたGoogle の画像検索結果をもとに、AIに椅子のかたちを生成させたものです。

この作品は実用性は抜きにした作品として、無数の画像から「椅子の類型をつくる」試み。
そのため使用するうえで優れた造形とは言い難いかたちになっています。
しかし目的を「あなたがオフィスワークをするために最適な椅子」や「あなたが毎日テレビを見たり寝転がったりするために最適なソファ」と設定するとどうでしょうか。
あなたの骨格や毎日の行動を観察することで、すでに実現できる技術はあるのかもしれませんね。

これは家具の設計に限った話ではありません。
建築の設計においても、使いやすさや快適さだけを追求した建築であれば、人を介さずにつくれてしまう未来も近いかもしれません。
そして世の中の多くの建築物は、そのような設計の方法で事足りてしまうものなのではないでしょうか。

そのような未来に、それでも必要とされるのはどのような建築家なのでしょうか。

未来を予測することと、未来に投資すること

建築メディアに頻繁に作品が掲載されるような有名建築家の方々は、おそらくどのような未来がこようとも必要とされ続けるでしょう。
時代をリードする発想力のある建築家は、時代が変わればその時代に求められる価値を生み出すことができるからです。

一部の有名建築家を除いた建築家が必要とされなくなる未来。
それは30年後かもしれませんし、もっと先のことかもしれません。
けれどもそうなってから動きはじめたのでは遅い。

そうした危機感をもって、いまから10年以上も前に、建築の職能がテクノロジーに奪われた未来を見据えて投資をはじめた建築家がいます。
noteユーザーでもある、竹鼻良文さんです。

竹鼻さんはこれからのクリエイターのあり方として、自分にしか生み出せない価値で自身をブランディングしていくことが重要だと語ります。
そのために竹鼻さんは、建築を通じて身につけた思考を他分野に応用し、作品やサービス、コンテンツを生み出すことに取り組んできました。
「無意識」や「自然」など、今のテクノロジーではまだコントロールしにくいものを利用し、AIに代替されない価値を模索しています。

・折り紙の技術を応用してつくった幾何学的なパーツを、無意識の手の動きにまかせて積み重ねることでできたアート作品

・そのアート作品を元に制作したアクセサリー。

・障害をもつ方のアート作品とコラボレーションしたファッション作品。

・住み手の情報を収集し、情報からデザインした住宅。

・過疎地の空き家をリノベーションし、移動可能な陶芸窯という独自コンテンツを体験できるKURA COCOLONO。

・その窯で焼いた陶器を「楽杜焼」という新たなブランドとして売り出す試み。

竹鼻さんの活動の根底にあるのは、テクノロジーがどのような進化を遂げようが、自身にしかつくり出せない価値を生み出していくという思考。
また、いずれも建築家の仕事なのかと疑問に思うほど他分野にわたっています。

「建築家」という言葉は、西洋から輸入された「architect」という語の和訳です。
ギリシャ語に起源をもち、「技術者・職人あるいは芸術家の首位・頭」を意味する言葉です。
もともとは建築に限らずものづくり全般に関わる、なにかを生み出す人のことを指していましたが、西洋では長らく建築が芸術の最上位とされていたため、建築家を意味する言葉に変わっていきました。
もしいまの社会において「architect」の言葉を再定義するのであれば、建築やアートに加え、サービスやデザイン、コンテンツを生み出す人全般を指す言葉になるのではないでしょうか。
そして竹鼻さんは、「建築家」という言葉では定義しきれない、現代的な意味での「architect」といえるかもしれません。

竹鼻さんの未来への投資がどのように実を結ぶのか、そしてテクノロジーが進化した未来に向けて僕たちはどんなことを備えておく必要があるのか。

その手がかりを探るため、竹鼻さんがオーナーを務めるKURA COCOLONOへ取材に行ってきました。
15時間にもおよぶ竹鼻さんとの密なコミュニケーション、そして世界中でこの場所にしかないコンテンツを体験したレポートをまとめましたので、ぜひ読んでみてください。


最後まで読んでいただきありがとうございます。サポートは取材費用に使わせていただきます。