見出し画像

メディアの力で業界の進化を加速させる。建築ソーシャルメディアBAUES創業者に展望を聞いてみた

今年9月にサービスを開始した「建築ソーシャルメディアBAUES|建築をしる、とどける」。
これまで各企業のニュースリリースや専門分野に特化した建築業界のメディアなどさまざまな場所で発信されてきた建築に関するニュースを一箇所でまとめて閲覧できるサービスです。
注目を集めるBAUESの創業者・掛本啓太さんに、なぜこのようなサービスをつくったのか、そしてこれからの展望について聞いてきました。

* * * * * *

ロンロ
リリースおめでとうございます。
僕もBAUES使ってみて、建築のニュースを一箇所でまとめて見れるようになったのはすごく便利だなと感じています。これまではネットの記事はtwitter等での情報収集がメインでしたが、フォローしている人以外の情報は見れませんでしたから。

掛本
ありがとうございます。
BAUESには建築のさまざまなニュースをまとめて読むことができる「知る」機能と、記事を投稿したりニュースにコメントをすることで皆に知識や想いを「届ける」機能があります。
ほかの分野ではそうしたサービスはたくさんあるのに、建築にはないなと思ったのが最初のヒントになりました。

BAUESのトップページ。建築関連のニュースを一覧できる。

ロンロ
建築に関わる各分野のプロフェッショナルの人たちが使うようになっていくと、すごく良いサービスになっていくなと。建築のニュースは専門性が高すぎていまいちわかりにくいところが多いので、詳しい方がコメント欄で解説してくれると不勉強な僕にはありがたいのですが笑

掛本
僕も実務で構造設計をしていましたが、構造設計者だからといって構造のことだけ知っていてもだめなんですよね。
デザインの動向も知っておいた方がいいし、法規の変更などがあると当然自分の仕事にどのような影響があるのかわかっておかなければいけない。
ニュースの背景や、どんなことに影響があるのかといった知識と合わせて読むことで、より深く知ることができるようになります。

ロンロ
確かに構造だけでなく意匠でも設備でも、建築に関わる人は幅広い知識が必要とされますね。だからといって専門外のことに詳しいわけではない。
でもみんなそれぞれ何かしらの知見はもっているのだから、お互いの専門知識や想いを共有する場所をつくろうというのは僕自身の活動とも重なるところがあり共感しました。
そういうプラットフォームをつくりたいというのが掛本さんの動機なのでしょうか。

ニュースと合わせてユーザーのコメントを読むことができる。気になるユーザーをフォローしてみよう。

掛本
そうですね、まずは活発に議論が行われる状況をつくらなくてはいけないなと思っています。
BAUESは自動でニュースがピックされるようになっていて、皆のコメントとニュースをセットで読むこともできるし、自分でURLをピックすることで気になったニュースについて皆の意見を聞くこともできます。
ただ、BAUESをつくった問題意識はもっと別のところにあって。あくまでそのための手段のひとつとしてBAUESを立ち上げました。

ロンロ
ぜひ詳しく聞かせてください。

テクノロジーが解決する建築の課題

掛本
僕はテクノロジーで建築の進化を加速させたいと考えています。
いまは情報革命の時代と言われていますが、まだ建築が大きく変わるほどのイノベーションは起こっていません。

建築の未来について語る掛本さん。

ロンロ
掛本さんはARUPで働いていたんですよね。構造設計や設備設計の会社としては世界有数の会社で働いていた掛本さんがそう仰るのは意外です。最先端のテクノロジーを活用している会社というイメージですが。

掛本
ARUPという会社単体ではそうかも知れません。ARUPはモデリングや構造解析、環境シミュレーションなどまさに最先端のテクノロジーを用いたサービスを提供する会社だったので。まだ見ぬ建築をつくりたい、という情熱があふれた会社でした。
ただ設計の部分だけでなく発注方式や生産システム、図面や仕様書、各種申請書などの管理など、建築をつくる過程の多くがデジタル化されていません。
情報革命が建築を変化させるとするなら、建築をつくる仕組みを変えていくことだろうと思います。

ロンロ
なるほど。確かに多数の会社で協働する建築業界ではもっと効率化できるところがありそうですね。

掛本
プログラマーが使うサービスのなかには建築にも応用できそうなものがいろいろあります。
例えばプログラムを書くにあたってわからないことがあればQiita(注1)やStackOverFlow(注2)といったサービスで調べたり、ユーザーに聞くことができます。Github(注3)では自分が書いたコードをオープンにすることで、顔を合わせたことがない人同士でフレームワークの開発をすることもできます。
そうした技術で例えば建築図面やモデリングのデータ共有などが進むようになると、建築の進化は加速していくと思うんですよね。似たような条件下で同じような課題を抱えている人はたくさんいますから。そこをどんどん効率化させていける。

ロンロ
デザインに興味がある僕としては、食べログのように皆で観に行った建築の情報をシェアしてどこに人気の作品があるかわかるサービスがほしいです!笑

掛本
それも面白いですね。確かにいまはどこにどんな建築があるか、わかりやすくまとまっている場所がありませんよね。AIなどの最先端技術を導入する前に、建築においてテクノロジーでやるべきことはたくさんあると思っています。
建築の進化が遅れてしまうのはなぜだと思いますか?

ロンロ
ひとつひとつのプロジェクトのスパンが長いからですかね。大きなプロジェクトだと企画から設計、施工まで十年以上かかることもありますし。

掛本
それもひとつの要因ですね。あとは労働環境の問題、情報教育の問題、建築界の構造的な問題、そしてメディアが建築界の情報をチェックできる場所がないということも大きいと思っています。そういった複合的な要因により資本が流れ込まず、進化が遅れてしまうという悪循環があると思います。BAUESはそういった問題に寄与していきたいと考えています。

注1 プログラミングやシステム開発における情報をシェアすることができるプログラマコミュニティ。
注2 プログラマのためのQ&Aサイト。
注3 プログラミングのバージョン管理システム。ユーザーは公開されているプログラミングの情報を閲覧することができる。

BAUESは建築の進化を加速させる起爆剤になるか

掛本
いまの建築界の状況を見ると、建築家を中心として意匠に関する言説は活発ですよね。でも、もっと視野を広くもって産業として建築を捉えていくためには、建築家だけでなく構造や設備、ハウスメーカー、施工管理者、不動産や都市計画者、PM/CM(注4)、BIM(注5)やGrasshopper(注6)の技術者、鉄骨屋さんや生コン屋さん、将来を担う学生など、さまざまな立場の人たちによる言説が可視化されないといけないと思います。

ロンロ
いろんな立場の人の意見を発信してもらうプラットフォームがBAUESというわけですね。

掛本
そうです。さまざまな立場の人に自分の専門分野の知識や仕事で困っていること、必要としていることといった情報を自由に発信してもらう。そして情報を受け取る側は新たな知識を得ることができる。そういった循環が生まれれば建築の進化は加速していくでしょう。
例えば、僕自身はcoverというサービスを知って大きな危機感を感じ、それがBAUESをつくるひとつのきっかけになりました。知らなかったことを知ることで何か行動を起こすきっかけになると思うんです。
coverのようなサービスを発展させていくことで、ZOZO SUITSの住宅版のように、個人の生活に合うようカスタマイズされた住宅を安価に供給できるサービスなどもつくることができるでしょう。必要な技術はすでに揃っていると思っています。

coverのトップページ。機械学習などのテクノロジーを駆使して居住空間のプランニングから設計、施工までを行うサービス。設計者をほとんど介することなく、ユーザーがHP上でデザインを決定できる。

ロンロ
ちょっと意外な方向に話が展開しているんですが笑、掛本さんはBAUESを起点にさまざまなサービスを開発しようとされているのですか?

掛本
無謀な夢かもしれませんが笑
でもテクノロジーがもっと建築にも応用されていけば、この先つくられる建築がどんどん良くなっていくと思うんです。耐震性能や環境性能が良くなるのはもちろんのこと、自動化や効率化が進めば労働環境も改善されていくでしょう。持病が悪化したことで長時間の労働が難しくなり前職を辞めざるを得なくなった僕にとって、建築界の労働環境の改善は重要な課題なんです。

ロンロ
いろんなことの自動化が進めば実験的なことにリソースを割けるようになったり、デザインの検討に時間を使えるようになったり、いろんな良い影響がありそうです。
僕は東日本大震災後の、日本の建築界が停滞している時期に就職したので、掛本さんのように建築の未来を無邪気に明るく語って下さる方とお会いできたことが嬉しいです笑

掛本
無邪気ですかね・・・・・・自分ではそんなつもりはないんですが笑
社会全体としては自動化に進んでいくし、それによって見たこともないような建築がどんどんつくられるようになるんじゃないでしょうか。これからどんな建築がつくられていくのか、純粋にワクワクしますよね。
私の専門のひとつは最適設計ですが、最適解を探索するにはパラメータを変えて、結果を記録し、どちらが良い方向なのかを判断することが必要不可欠です。建築界が重い腰を上げて、パラメーターを変え、良い循環をつくっていく。BAUESがその原動力になれれば良いなと思っています。
学生時代に東日本大震災を経験して、建築をつくることに対する無力さも感じました。けれどもだからこそ、これからの建築を良くしていくために小さくても自分ができることで貢献していきたいという想いは強くもっているかもしれません。

注4 プロジェクト・マネジメント、コンストラクション・マネジメント。事業主とともにプロジェクトの設計・発注・建設プロセスまでの管理を行う。
注5 Building Information Modelingの略称。建物のデジタルモデルにコストや仕上げなどのデータを追加し、設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行えるツール。
注6 3次元形状をアルゴリズムにより生成するモデリング支援ツール。

BAUESを使って発信してみよう

ロンロ
そのためにはまずはBAUESをいろんな人に使ってもらってコメントが盛り上がる状況をつくらなければなりませんね。個人的には影響力のある建築家はもちろんですが、研究者や企業の要職の方をはじめ専門知識のあるピッカーが増えていくとBAUESを見に行く回数も増えると思います。

掛本
仰るとおりです。いまウェブ版の細かな修正を進めつつ、今年中にはアプリ版のリリースを予定しています。そこまでできればこちらから直接コンタクトしてみてピッカーになっていただくといった活動もしていこうかなと。
ただ現状でも十分ユーザーが使うメリットはあるんですよ。例えばあるイベントの告知をBAUESでしてみたところ、すぐに定員が埋まったという声もいただいています。

ロンロ
それはすごいですね。僕も最近はnoteを書いたらBAUESにピックするようにしていますが、普段とは違う方に読んでいただけていると感じています。noteやtwitterにはコメントがつかなくても、BAUESではコメントをもらえたりといったことも起こっています。

掛本
BAUESはコメントが盛り上がれば盛り上がるほど記事が上位に上がっていくので、SNSのフォロワー数が少なくてもたくさんの方に読んでもらえる可能性があります。僕自身BAUESでコメントしているのを見て初めて知った方もたくさんいますし、こんなに詳しい方がいたんだと驚くことも多々あります。
ほかにも自分の興味のある記事をまとめてアーカイブしておく場所として活用されている方もいらっしゃいます。
使う人の数だけ活用の仕方があるサービスだと思うので、ぜひいろんな方に使ってみてほしいですね。

* * * * * *

掛本さんがBAUESのサービスをはじめた背景には、建築の未来に対する熱い想いがあったんですね。そのためにプログラミングを勉強し、1年以上にわたって準備をしてきたそうです。元構造設計者という経歴から、建築についての言説が一部の建築家に集中している現状に危機感を覚えたことが、BAUESにつながっていきました。
「BAUES」というサービス名は、

B = Bolt|ボルト
A = Architecture|建築
U = Urban|都市
E = Environment|環境
S = Space|宇宙

の頭文字を取ったものだそう。
ボルトから宇宙まで、建築に関わるあらゆる情報を網羅するサービスにしたいという想い、そして「建築は皆のもの」と語る掛本さんの姿勢は応援したくなりますね。
建築ソーシャルメディアBAUES、ぜひ登録して使ってみてください。
↓本記事もBAUESにピックしました。早速コメントもいただいています。ぜひ覗いてみてください!


掛本さんに「建築をスキになった話」を語ってもらった続編も近日公開予定です。
そちらもお楽しみに!


建築ソーシャルメディアBAUES @BAUES_IO 代表 / 山梨県出身 / 東北大学大学院(五十子研究室)卒 / 元:Arup 構造エンジニア。 デンマーク工科大学(DTU)。/ テクノロジーで建築の進化を加速する。

最後まで読んでいただきありがとうございます。サポートは取材費用に使わせていただきます。