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動物性を喚起する!美術館の役割をアップデートする富山県美術館の建築

富山県美術館。
富山県富山市の駅近く、観光名所にもなっている「環水公園」のほど近くに位置する美術館です。
絶賛進行中の渋谷再開発プロジェクトでも検討委員を務めるなど、日本を代表する建築家・内藤廣氏が設計しました。
先日ようやく見に行くことができ、建築としての美しさもさることながら、美術館としての新たな挑戦に大興奮。
ひと言で言えば、「動物性を喚起する美術館」。

この美術館が、これからの美術館(または美術との関わり方)を考える上で、避けては通れないほどの強さをもっているな、と感じたので、まとめておきたいと思います。

1.美術館として新しい、とは?

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。
そもそも美術館の起源は、近世末期~近代のヨーロッパに遡ることができます。
それまで交易あるいは戦争の戦利品として蒐集されていた品々は、貴族などごく限られた人の目にしか触れることのないものでした。
それが上流階級から市民への施し、あるいは近代以降は公共の資産として皆に提供されるようになり、その体験の場として美術館というビルディングタイプが生まれたのです。

その役割は、美術品の収蔵と展示。
収蔵に適した建築が、とにかく広く堅牢であることだとすると、美術館の建築を考えることは、いかなる展示空間を演出するかを考えることでした。

異国の民芸品や、本来教会に寄贈されていた宗教画、また貴族の肖像画など特定の人物のために描かれた絵画が、一同に集められ展示される。
もともとの文脈から引き剥がされた美術品をいかにして展示するのか、それに答える普遍的な回答として、「ホワイトキューブ」と呼ばれる形式が生み出されました。

作品と向き合う場として、それ自体に意味をもたない真っ更な空間を用意する。
収蔵品の展示だけでなく、巡回型の企画展なども開催されるようになると、いかようにも使えるフレキシブルなホワイトキューブはますます定着していくことになります。
美術館の運営者によっては「建築家は余計なことをしなくて良い」と、少しでもシンプルな設計を求める声も上がるようになる。
そのような状況で建築家がどのような設計をするのかは、長らく美術館建築における課題のひとつでした。

そしてこの富山県美術館において、運営者の欲求に見事に応えるかたちで、建築はその役割を取り戻したかのように思えます。

2.公立美術館の現在

美術館を日常的に活用している、という人はどれだけいるのでしょうか。
とあるアンケート調査では、年に1回以上美術館に行くという人が全体の約3割、10年以上行っていない、あるいは行ったことがない人が4割という結果でした。
美術館は全国の各自治体に設けられ、県立や国立の美術館にも多額の税金が投資されているなか、活用度としてはさみしいようにも感じます。

僕たちが鑑賞している美術って、もともとはどこかのだれかによる創造物ですよね。
人生のどこかのタイミングで美術と出合って、芸術家を志した人もいれば、本人はなんの自覚もなくつくっていたものが評価されることもある。
先日も爆笑問題の太田光さんが、ピカソの絵画と出合ったことで、「死んでもいい」と思っていた自分が変わることができた、と語ったことが話題となっていました。

いずれにせよ、美術はもっとわれわれにとっても身近なものであっても良いのではないか。
そんな問題意識が富山県美術館からは感じることができました。

3.ビジョンとかたち

富山県美術館は、その英語表記を「Toyama Prefectural Museum of Art and Design(TAD)」としています。
アート&デザイン を掲げる公共美術館は、日本では初なのだとか。
その根底には、成果物として表出するアートやデザインの「着眼点やプロセス、クリエイティビティを重視」する姿勢があります。
建物の規模に対してそれほど広くはない企画展示スペースでは、体系的に作品を並べるにとどまらず、作品の背景にある人間のクリエイティビティに焦点を当てる展示が企画されています。

また前身となった近代美術館時代からコレクションしてきた展覧会ポスターは、インタラクティブに操作できる大画面のタッチパネルによって、デジタル展示されています。

こうしたビジョンを受け、内藤氏はまさしく人間のクリエイティビティを創発するような建築をデザインしました。
環水公園に向かい合って配置された美術館は、背面をぐるっと楕円状の弧を描く屋外階段に囲まれています。

ここを登ると屋上広場が。

「オノマトペの広場」と題された広場には、擬音をモチーフにつくられたさまざまな遊具が設置され、テーマパークのよう。
大勢の親子連れで賑わっていました。
単なる遊具としてではなく、遊具とリンクする擬音によって、頭と体両方で楽しめる仕掛けです。

また何と言っても2階3階にわたる吹き抜けのホワイエの気持ちよさが、この建築のハイライトでしょう。

富山の人であれば日常見慣れているであろう立山連峰。
しかし美術館という場で、しかもこれだけの大画面スクリーンで演出された景色として目にすることでその見え方も変わってくるはず。
ただただ気持ちいい、楽しい、だけでなく、もう一歩考えさせる工夫が随所に施されているのがこの建築の魅力です。

県産材の氷見里山杉が使われているという廊下を抜けた先にある視聴覚スペースからは、屋外広場を見下ろせます。

アーティストの三沢厚彦氏によるANIMALSシリーズは、美術館のシンボルとして随所に設置されていました。
県民の方々に愛される作品に育っていきそうです。

4.おわりに

多くの美術館では、まず美術作品ありきでそこにどう人間が関わっていくかから計画がスタートしているように思います。
富山県美術館は、まず人が先に立ち、作品があとからついてくる。
その覚悟がこの場所の魅力を作り出しているように感じました。
アートやデザインが好きな方はもちろんのこと、普段そういったものに触れない人にこそ訪れてほしい美術館です。

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