現代の邦楽フォークポップスに関する書き散らし

やっぱロドリゲスさんの二枚組アルバム「まほろば」を久しぶりに聴いて改めて感動していました。

オープニングの「春先のシトロン」のよく練られたメロディーに始まり、ラストの「さよなら」まで、柔らかく暖かいポップスが詰まっていて涙を流しながら聴き耽っていました。そして、邦楽における数々のフォーク風ポップスの名盤に並べても全く見劣りしない完成度であると思ったと同時に、ふと、こうした系統の邦楽ポップスの変遷について考えたりしました。

このことについて、おそらくかなり漫然としそうですが、書き散らしていきたいと思います(と、それにかこつけて好きな音楽を紹介していきます)。また、邦楽におけるフォーク風のポップスについて、この文章では便宜上「邦楽フォークポップス」と呼称することにします(なぜそう呼ぶかについては長くなるので本記事の最後に記します)。

邦楽フォークポップスの源流を考えると、去年の喫茶ロックに関する記事でも触れたような、90年代~00年代前半のはっぴいえんどリヴァイヴァルが起点であると思われます。サニーデイサービス、くるり、キリンジ、フリーボ、空気公団、ママレイドラグ、クラムボン、benzo、初恋の嵐などなど数々の名バンドが多く現れました。

しかしこれらの音楽を実際聴いてみると、やっぱロドリゲスさんの「まほろば」とは微妙に差異があるように感じられます。考えてみれば上記はすべてバンドであり、多少ロック色が強めに出ているからだと思われます。また、喫茶ロック記事でも書きましたが、はっぴいえんどフォロワーは世紀末の空気に呼応して現れたかのような独特の雰囲気を持っており、これもやや別物のように思わせる要因の一つだと考えられます。

実際に「まほろば」の音楽性により近づいて来ているように感じられるのは、00年代に入り喫茶ロック周辺がより活発になってきた頃です。世紀末が終わり、これらの音楽もまた別の雰囲気を持ち始めておりやはり独特のシーンを形成していました(詳細は喫茶ロック記事にて)。しかし、同様の音楽を振り返る際に喫茶ロックとは少し別の流れとして触れておかなくてはならない音楽があります。その象徴とも言えるのがハナレグミの「家族の風景」です。

90年代のはっぴいえんどフォロワーと聴き比べればはっきりと違いが分かると思います。90年代は松本隆に影響を受け、やや非現実的で文学的な若者の歌詞だった音楽が、世紀末が過ぎて、よりプライベートでより身近な成熟した音楽になっています。自分の中では、やっぱロドリゲスさんの「まほろば」もどちらかというとこちらに分類されるのではないかという認識の更新があり、「ボーカロイド音楽の世界2017」では「喫茶ロック以降」ではなく、「ハナレグミ以降」だと評しているということです。

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また、今回焦点を当てる「邦楽フォークポップス」とはつまりこんな音楽だということです。

こうした音楽に、呼応したのかどうかはわかりませんが、まず接近した傑作が2004年に数多く生まれています。佐野元春「THE SUN」を筆頭に、高野寛「確かな光」、おおはた雄一「すこしの間」、福岡史朗「サンダルブルース」、高田漣「rt」などなど。いずれも成熟したサウンドでとても身近さを感じさせるような、近い雰囲気を持っている音楽であるといえます。

ただし、この04年の傑作たちはここで他に紹介したい音楽と比べてやや成熟しすぎている感もあります。例えばハンバートハンバートの「道はつづく」(2006年)くらいになると多少の若々しさも加わり、ちょうどいい感じになります。中でもこれはカントリーど真ん中の傑作。

この種の音楽が市民権を得た、というか目立つ存在になってきたなと個人的に感じるのはMr.Childrenの「HOME」(2007年)あたりでしょうか。相変わらずミスチルらしい壮大なバラードも収録されてはいますが、タイトル通りより身近な内容の歌詞が中心となっています。

年には原田知世「music & me」もリリースされ、特にキセルによる提供曲「くちなしの丘」は印象的かつ、かなり有名なのではないでしょうか。

フォーク風のポップスという意味では04年にはこんな作品も生まれています。シガキマサキの「黄昏フリーク」です。

特に、1曲目の「ハロー」という曲は私の人生のベスト10に必ず入ってくるくらい大好きな曲です。アルバムとしてみても、青臭い青春を懐古するような内容は上記の04年の傑作と比較するとやや浮きますが、とてもノスタルジックで質的にも全く劣らない名作です。

これまでに挙げたような音楽は熟した生演奏を渋く聴かせるタイプでしたが、エレクトロニカに接近しキラキラとした音を奏でるタイプの邦楽フォークポップスも存在します(一般的にはフォークトロニカとか呼ばれているような)。有名どころでいえばトクマルシューゴ、Gutevolk、宮内優里、などが挙げられそうですが、特に邦楽フォークポップスに親和性が高いのはWATER WATER CAMELです。最も好きなアルバムは「花がよくにあう」です。爽やかで美しい、生活に密着した音楽。特にラスト3曲は白眉。

少し変り種となると、ラグタイムジャズをフィーチャリングした加藤千晶の「蟻と梨」という2枚組があります。ドタドタとしたかわいらしいリズムとラグタイムのピアノがとても楽しい。蟻(ボーカル有り)と梨(ボーカル無し)という単純な洒落もなかなか気が利いてます。

そして個人的に絶対に触れておかなければならないのは山田稔明「新しい青の時代」です。ソロとしてはカントリールーツ的なアメリカンポップスに影響を受けたような、郷愁を感じさせる音楽を推し進めており、邦楽フォークポップスにやはり親和性が高いのですが、この「新しい青の時代」はその到達点。乾いた心地よいアコースティックギターのサウンドを中心として、色鮮やかな歌詞と豊潤で味わい深いメロディー。リリースは2013年と比較的最近ですが、間違いなくこれまでで一番聴いたアルバムです。何度聴いても飽きないし、どんどんと良さが深まっていくような素晴らしい傑作です。

また、なんといっても現代の日本の音楽シーンを代表する存在である星野源に触れない訳にはいかないでしょう。

元々SAKEROCKというインストバンドをやっていたり、長い下積み的な時代がありつつも近年の大ブレイク。今更自分が語ることはあんまりないんですが、音楽の内容は喫茶ロックの頃とそう大きくは変わらず、しかしよりダイナミックにパワーアップしているという印象があります。

以上、いくつか邦楽フォークポップスについて紹介してきましたが、実は去年あたりから別の新しい動きが出てきています。それが岡田拓郎「ノスタルジア」。元森は生きているの中心人物です。

邦楽フォークポップスは身近な生活をテーマにされやすいその特性から、多少のアマチュアリズムや口当たりの良さが肯定的に扱われやすいジャンルになっています。その中でこのアルバムは、フォーキーなサウンドでありながらも非常に完成度高くまた緊張感のある音楽に仕上がっています。評論家筋では非常に高い評価を得ており、コーネリアスの「Mellow Waves」あたりと並んで、2017年を代表する一枚といってもいいでしょう。

岡田拓郎氏自身もele-kingのインタビューではっぴいえんどリヴァイヴァルについて否定的に語っているなど、明確に既存の流れにアンチテーゼを唱えているようです。

読んでみれば分かりますがかなり尖ってます。この知識量と刺々しさはまるでフリッパーズギター。思えば近年の小沢健二再評価は、邦楽フォークポップスの価値観に加えて、日々の生活に関して思索していくような歌詞世界が現代にフィットしているからではないかと考えられます(震災以降の…とか色々繋げられそう)。そのセンスによって日本のポップスを更新したフリッパーズギターのように、邦楽フォークポップスもこれからどんどんと変化していくのではないか、という予感がしています。という感じで適当に本記事を締めます。

※「邦楽フォークポップス」という呼称について
どういう訳か、こういった系統の音楽を指す言葉やジャンル名はありません(と認識しています)。あえて言うならはっぴいえんどフォロワー?はっぴいえんどリヴァイヴァル?でも実際はそれよりもティンパンアレイや金延幸子などの影響のほうが大きそうな人たちも…。単純に「フォーク」と呼称するのも適しているとは言えないと思います。フォークはもっといなたくて、これらポップスにある洒脱さとは乖離していると思います。既存のジャンル名として「フォークロック」というのもあり、「ボーカロイド音楽の世界2017」でもこちらを使っていますが、微妙なニュアンス的に違う気がします(多分わかる人にはわかる)。音楽的には「喫茶ロック」が結局最も適していると思いますが、「喫茶ロック」自体もう廃れたジャンルだという認識が一般的だと思われるので、あまり使いたくないです(そもそも当時喫茶ロックに分類されなかった人たちも)。
という訳で、あくまでフォーク風のポップス、という意味で「邦楽フォークポップス」という呼称としました。


(2020/7/4改訂 軽微な表現の修正、紹介楽曲の整理)

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