東欧、その周辺の音楽へご招待~エレクトロスウィング、伝統的アメリカ音楽、米津玄師「POP SONG」、2022年のボカロに関連して~

今年初頭にこのようなツイートをしました。
当然一言で東欧と言っても様々な音楽があり、またあくまで漠然としたイメージとして東欧ニュアンスがあると個人的に感じているに過ぎない部分もあるため、多くの方と共有できる感覚とは限らないと思います。
実際にここは確実に東欧系だと言える部分はかなり少なく、個人的な範囲でこじつけに近い聴き方をしているところがあることも否めません。
しかしこの東欧のニュアンスは近年のボカロシーンにおけるキーワードの一つであるエレクトロスウィングとも関連しています。こうした要素を意識することは、一つの聴き方として参考になるのではないかと思います。
というわけで本記事では、個人的に感じる東欧やその周辺のニュアンスについていくつか紹介等をしていきたいと思います。

まず、東欧のニュアンスとか言われてもよくわからん、そもそも東欧っぽい音楽とは何ぞや?と多くの方が思っていると思います。
というわけでとりあえず紹介すべきなのはこの曲かと思います。ロマ音楽に影響を受けたクラシック音楽として有名なブラームスのハンガリー舞曲第5番です。
編曲としている通りに元ネタは別にあるのですがとりあえずこちらを紹介。

自分もクラシックにはそれほど明るくはないですが、多分みんな聴いたことがあるんじゃないかと思います
哀愁漂うメロディーと忙しないリズムが組み合わさった独特の抒情感は東欧らしさの一つの形でしょう。

次に楽器編成からしてより本格的に近い東欧系の音楽として、まずルーマニアからはTaraf De Haidouksを紹介しましょう。
劇的な情緒を持つメロディーに細やかかつ勇壮なリズムは、東欧周辺で放浪生活を送るロマ民族による東欧のロマ音楽と聞いて想像される要素をまさに表現しきった名バンドです。

抒情さとコミカルさを両立したかのような独特のニュアンスがあるのも東欧音楽の一つの特徴と言えると思います。
というわけでユダヤ民謡の「Ale brider」はいかがでしょうか。またこのくらいの軽快さとなると若干中東っぽくもあると思いますね。ユダヤということもあり。

ユダヤと言えばユダヤ民謡等から発展した音楽ジャンル、クレズマーも無視できません。個人的にはKlezmaticsのFrank London諸作品が分かりやすいと思っています。よりコミカルかつ陽気で楽しくなれるブラスバンド。

また、東欧生まれで世界に広まった音楽ジャンルとして最もポピュラーなポルカを紹介しましょう。
ポルカは2拍子で表拍をベースで刻む軽快なリズムが一つの特徴と言えるのではないでしょうか。

ボーカロイドの歴史において最重要カバー曲の一つであるIevan Polkkaはフィンランド民謡ですがタイトルにポルカを冠するポルカであり、いかに世界中に広まっているかが分かります。

また音楽ジャンル的にどう言い表すと良いか分かりませんが、東欧的なイメージを多分に含む音楽として、ポーランドからはRokiczankaやGuzowiankiはいかがでしょう。
独特の哀愁とポルカ的軽快なリズム、個人的にこれぞ東欧というような曲調であると思います。

ここでは基本的に軽快な音楽を紹介してきましたが、他にもスローテンポで渋みのある民謡であったり、例えばウクライナ辺りになるとロシア的なニュアンスが入ってきたり、中東はユダヤ関連のつながりもあってかイスラエル周辺にも共通した要素があったり、ドイツやフランスその他欧州諸国にも散りばめられたものがあると思いますが今回は省略します。


さて東欧音楽の例をいくつか提示したこの辺りで、話をエレクトロスウィングに移しましょう。
エレクトロスウィングはその名前からして、スウィングジャズをエレクトロなサウンドで構築した音楽ジャンル…と一応は説明できると思います。
しかし近年のエレクトロスウィングの代表格のCaravan Palaceを始めとしてロマ音楽からの影響も無視できないようです。
そのため、ロマ音楽とスウィングジャズを融合したマヌーシュジャズ(ジプシースウィング)を電子化したのがエレクトロスウィングであるという見解もあるようです。
マヌーシュジャズは主にフランスで勃興したためミュゼット等を由来とするようなパリ的要素も強く、
必ずしも東欧ニュアンスがあるわけでは無いと個人的に感じる部分も多くありますが、しかしロマを足掛かりとして東欧音楽との共通点も度々聴かれるように思います。

こちらはspotifyによるエレクトロスウィングのプレイリスト。
端々にロマ音楽からの流れによるものか、東欧のニュアンスを醸し出す楽曲をいくつか聴くことができます。
そして米津玄師「POP SONG」も収録されています。
短調のメロディー、そして特にそのシンプルなリズムは本記事前半で紹介した楽曲と共通するものをある程度聴いて取れると思います。

またそれに加えて、POP SONGへの評としてディズニーのようだと言った意見を多く見かけました。
その通り、リズム、短調のメロディー、各楽器のサウンドなど東欧の要素がありながら、ディズニー的アメリカ音楽の要素も共通して含んでいます。
これはどういうことか、ここからは一旦このディズニー音楽に関して色々書いていきたいと思います。
まずPOP SONGの評の根底となっている楽曲はアラジンのFriend Like Meが挙げられるものかと思います。リズムが同じ感じですね。

そして何よりBaroque Hoedownも同じリズムがベースになっています。Baroque Hoedownとか言われてもそんなん知らんと思っている方も、エレクトリカルパレードの曲と言われれば大体ピンとくるのではないでしょうか。

Hoedownというタイトルの通りホーダウン、つまりヒルビリー等の伝統的なアメリカ音楽を一つの下敷きにしているのがこの曲です。
ヒルビリーは音楽としてはカントリー、ブルーグラス等とも関連し、紹介するならThe Carter Familyが良いんじゃないかなと個人的に思うところですかね。リズムがBaroque Hoedownと共通するものがあることを聴いて取れると思います。

これらのようなアメリカ的な音楽からの流れがディズニー音楽を形作り、そしてその共通点からPOP SONGをディズニー的であると評しているものと思います。
さてここらで、ではなぜ東欧音楽とアメリカ伝統的な音楽とリズムが共通しているのか?という疑問が湧いている方も少なくないのではないかと思います。
正直この辺りはちゃんと掘り下げるならかなりガチめに歴史書や研究書などをあたらなければならないことになると思いますが、
自分が把握している範囲で言うならば、19世紀~20世紀初頭のアメリカには世界中の民謡が集まってきており、そこからヒルビリー等が生まれたため影響元に東欧の民謡があったのではないかと推測するところです(実際に代表的なアメリカ音楽のOh! Susannaは発表当時ポルカとして親しまれていたそうです)。

当然ディズニー的なアメリカ音楽の確立は、世界各国の民謡、特に黒人霊歌やそこから発展したとされるブルースやジャズを基にしつつ、George Gershwin、Aaron Copland、Leroy Andersonらによる軽快な曲調なども大きく影響を残しているところです。
実際Friend Like Meも7thの使い方やトーキングスタイルな歌唱はブルージー、ジャジーなどと感じられ、そこは東欧とは離れた部分であるように思います。

ロマ音楽やアメリカ音楽(東欧経由の、という言い方もある可能性)のニュアンスを持つ米津玄師「POP SONG」がPOP SONGというタイトルを冠する由来は、現代のポピュラーミュージックに多大な影響を残すアメリカ音楽の原点の原点を示すというところにあるのではないかと買い被るところでもあります。

そして話を元に戻して、2022年のボカロシーンについてです。
近年のボカロシーンにおけるキーワードとなっているエレクトロスウィングですが、その実態はエレクトロスウィングと一応呼ばれている謎の音楽ジャンル、ボカロのエレクトロスウィングとしか言いようのないほどに独自進化を進めたものとなっています。
原点的なエレクトロスウィングを意識していない「ボカロのエレクトロスウィング」派からは東欧のニュアンスなどほぼほぼ見られない状態でした。
その中で2022年になり突如ボカロのエレクトロスウィング的なところから東欧ニュアンスがムクムクと湧き上がっているように感じます。
特に印象的なのは柊キライ「ファラウェア」とすりぃ「フクロウさん」。


柊キライ氏は昨年のエウレカが東欧的ですが、あくまでエレクトロスウィングの延長上というイメージ。ファラウェアはそこからさらに独り立ちした印象。スウィング感が排された2ビートなリズムはより東欧らしい。
またコメントにあるジェビルとは恐らくDELTARUNEのジェビル戦BGMのことと思われます。この曲も明らかに東欧を意識しています。
フクロウさんのコミカルで印象的なギター(と何かがユニゾンしている)フレーズはハンガリースケールを基にしています。リズムは個人的にはユダヤ民謡系に聴こえます。

冒頭で書いた通り、その他の楽曲に関しては漠然としたイメージで個人的に東欧的であると感じているところが大きいため、紹介はこの2曲に留めます。
あとは皆さんの耳で確かめてみていただけると面白いかもしれません、ということで本記事を締めさせていただきます。一つの見解として参考になれば幸いに存じます。

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