iZotope「Audiolens」を導入して遊んでみよう

iZotope「Audiolens」が明日12月24日に無料配布されるそうなので全員導入しましょう。

AudiolensはPCで再生した音の周波数を解析するスペクトラムアナライザーです。
保存した解析結果はNeutron4やOzone10と連携してマッチングEQのリファレンス元とすることができます…が私はそちらの機能は一切使ってません。
とにかく聴いてる曲の周波数分布を手軽に視覚的に表示できるのが単純に楽しいです。なので制作者でないリスナーの方々にもおすすめです。

ただしAudiolens単体でできることは特に目新しくはありません。
フリーのプラグインとして有名なVoxengo「SPAN」を始めとして、大体のスペアナも設定を工夫すればAudiolensと同じような解析は可能です。
その中でAudiolensの優位性は以下の2点と言えます。

1.各種プレイヤーで再生するだけで解析できる手軽さ
2.余計な情報を削ぎ落して洗練された設計

1は言わずもがな、しかし革命的な手軽さです。
従来のVSTプラグインを用いた解析では、音源を入手する→DAWを開く→音源を読み込む→プラグインを挿すという手順を踏まなければならないのですが、
AudiolensはAudiolensスタンドアローンアプリを起動して音楽を再生するだけ。各種ストリーミングサービスはもちろん、iTunesもYoutubeもニコニコ動画もok。
なのでPCを使っている時はとりあえずAudiolensを適当に起動しておくというのが自分の中で基本になりつつあります。

2はこれも地味ながら大きな要素です。
Audiolensは解析の詳細な設定は全くできず、応用が効かない不器用なツールとも言い換えることができます。スペアナの癖して何Hzかの表示も無く、Low、Low-Mid、High-Mid、Highの4つの大まかな領域に分かれているのみ。
しかしそこにこそ音処理系ツール業界を牽引するiZotopeの思想が垣間見えます。
分かりやすい視覚的な表示をしつつも、あまり詳細で解析的になりすぎない、直感的な見た目に留めています。それ故に音楽を作る人だけでなく、リスナーの方にも十分おすすめができます。
一方で欠けている帯域があればきっちりと反映されます。一昔前の低音の薄い音源なんて、容赦なくLowの部分がストンと落ち込んで表示されます(もちろんそれ自体悪いことでは無く、時代性の反映としての面白さや、単純な周波数帯域の情報を超えた音響心理学的マジックだってあります)。
これから音楽がどう聴かれていくか、周波数のバランスをどう解釈するかについての一つの提示であるかのようです。
(まあ慣れている人が見れば何Hz辺りが出ているか大体わかるのですがそれは野暮というものでしょう。)

また、当たり前ですが解析結果が変なバランスになっているからと言ってそれだけ見てダメな曲だと判断するのは愚の骨頂以外の何物でもありません。
順番としては、解析結果のバランスが変だからダメだ、ではなく、何か音が変じゃね?解析してみるか→やっぱバランスがおかしいな、となるべきです。
実際に色々な楽曲を解析してみると思いもよらない変な結果になったりもしますし、中々奥が深いです。

まあここまで深読みしなくとも単純に音に反応してウネウネ動くのが見ているだけで楽しいです。Audiolensを見ながらお気に入りの曲を改めて聴きたくなります。
是非とも気楽に導入してみてはいかがでしょうか。


ではいくつか個人的に気になった曲の解析結果を載せてみたいと思います(括弧内は大体の計測区間です)。

LE SSERAFIM「ANTIFRAGILE」(0:45~1:04)

LE SSERAFIM「ANTIFRAGILE」(0:45~1:04)
とりあえず現代的なサウンドのポップス代表としてこの曲。
全体的にバランスよく、Lowがグッと出ていてこれを眺めるだけで現代っぽさが滲み出てます。

Billie Eilish「Bad Guy」(0:42~0:55)

Billie Eilish「Bad Guy」(0:42~0:55)
とりあえず低音が出てそうな曲を解析してみようということでビリー・アイリッシュ。
想像通りLowがグイグイ出てきます。

The Greatest Showman「The Greatest Show」(1:43~2:08)

The Greatest Showman「The Greatest Show」(1:43~2:08)
高音が気になる曲はあまり思い浮かばなかったのですが、とりあえずこれ。
LowとLow-Mid間が凹んでいてLow-MidとHigh-Mid間が膨らんでいます。あっさりとした音の印象がここに反映されているのでしょう。

ツミキ「フォニイ」(1:02~1:24)

ツミキ「フォニイ」(1:02~1:24)
近年のボカロヒット曲からとりあえずこれ。
形状がANTIFRAGILEと割と似てます(こっちが先ですが)。一つの参考として面白い。

いよわ「きゅうくらりん」(0:47~1:04)

いよわ「きゅうくらりん」(0:47~1:04)
中域が特徴的なサウンドのこの曲ですが、印象ほどバランスは極端ではありませんね。

Chinozo「グッバイ宣言」(0:36~0:58)

Chinozo「グッバイ宣言」(0:36~0:58)
単純にバランスだけならグッバイ宣言の方がやや極端。
トレブリーなギターサウンドがだいぶ解析結果に反映されています。

黒うさP「千本桜」(0:57~1:22)

黒うさP「千本桜」(0:57~1:22)
軽やかなサウンドがLowの量感少なめなところに表れています。
高音にかけてバランスが良い。

じん(自然の敵P)「カゲロウデイズ」(0:59~1:18)

じん(自然の敵P)「カゲロウデイズ」(0:59~1:18)

「カゲロウデイズ(アルバムバージョン)」(0:59~1:18)

「カゲロウデイズ(アルバムバージョン)」(0:59~1:18)
アルバムバージョンの方がクリアかつしっかり左右に広がりのある音ですが個人的にはオリジナルバージョンの方が圧倒的に好き。
それはこれくらいごちゃっとしていた方がロックらしくて勢いがあるというのもあるんですが、この低域の形状を見てもなるほど、という感じ。
また歪んだギターがガンガン鳴る曲はこのようにHigh-Mid辺りにピークができますね。

みきとP「ロキ」(0:17~0:47)

みきとP「ロキ」(0:17~0:47)

「いーあるふぁんくらぶ」(0:33~0:59)

「いーあるふぁんくらぶ」(0:33~0:59)
いーあるふぁんくらぶと比較してロキのサウンドはかなりすっきりしている印象ですが、それはAメロでの形状の違いに表れています。全く違う形状。

YOASOBI「夜に駆ける」(1:15~1:43)

YOASOBI「夜に駆ける」(1:15~1:43)
YOASOBIの曲は低音が無いみたいにたまに言われますが、
解析すればわかる通り、多少の揺らぎはあれど常識的なバランスです。

Puhyuneco「akane」( 0:51~1:12)

Puhyuneco「akane」( 0:51~1:12)
Puhyuneco楽曲はAudiolensで眺めていると面白さ抜群です。
とにかく各帯域の抜き差しが凄まじい。この曲なんてごく一部のパートを除いて驚くべき低域のスカスカさです。

目赤くなる「三角形」(0:56~1:13)

目赤くなる「三角形」(0:56~1:13)
なんとなく記憶の中ではきゅうくらりんと同じくらいのバランスかなと思っていたのですが、予想以上に極端です。
改めて聴いてみれば確かに。記憶に残る部分は実際の音とは結構違いますね。

Bako Titov「Yesterday」(1:21~1:42)

Bako Titov「Yesterday」(1:21~1:42)
最近のボカロ曲で特にAudiolensで見たくなるのはこちら。
Lowの低いところにピークができる低さ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?