過去の名ボカロ曲をレビュー part6(+コラム:ギタマガ「ニッポンの偉大なギター名盤100」を眺めてみる )

前回のボカロレビュー記事でのコラムでも話題にしたように、名盤リストとかランキング的な物を眺めるのは結構好きです。
音楽をしっかり聴き始めた頃にはローリングストーン誌の名盤リストを大いに参考にしたし、
最近では「良さが分からない名盤」企画も大いに楽しませてもらいました。

参考にしたのは当然こちらの2003年版。

2020年改訂版ではロック色が減ってヒップホップやR&B、ソウルが増えている感じが現代的に見えますね。

良さが分からない名盤は自分にもあるのでいつか話題にしてみたいですね。

そういったところで改めて見てみると面白いなと思ったのが
ギター・マガジン2020年7月号に掲載された「ニッポンの偉大なギター名盤100」です。

ギタリスト555人にギターの名盤を聞いてポイントを配分して作成したランキングとのことですが、
これが個人的に「おお!」と思うところと「うーん」と思うところがはっきり出ていてかなり面白いです。
「文句をつけたり、楽しんでもらえれば幸いです」と書いてある通りに、色々と眺めて楽しんでみたいと思います。
なお具体的な順位には触れませんが、何がランクインしているか、何が上位かは流石に言及していくのでネタバレを避けたい方(もうあんまりいないと思いますが)はご注意ください。



主に「おお!」と思うところ
・シュガー・ベイブ「SONGS」が上位
「SONGS」は優れたポップスのアルバムであると同時にギターのアルバムであると思っていたので高順位につけていて大いに満足するところ。
・ゆらゆら帝国の中では「3×3×3」が最上位
ゆらゆら帝国の最高傑作と言えばラストの「空洞です」ばかりが取り上げられる印象があるが、バンドサウンドとしてはこの「3×3×3」が好きなのでこちらが上であることに満足。ただし、コンセプトを一貫させているという意味では「空洞です」のギターも大変素晴らしいものであり、こちらが最上位だったとしても大きな不満という訳でもないとも思う。
・くるりの中では「アンテナ」が最上位
くるりの最高傑作については意見が割れに割れると思うが(個人的には「ファンデリア」か)、ギターという観点では「アンテナ」が最高傑作で間違いない。
・BOaT「RORO」のランクイン
そのクオリティーだけを考えれば一桁順位でも全くおかしくは無いが、知名度を考慮すると100位圏外の方が自然。ランクインしていること自体で十分な高評価と言っても良いと思う。プログレッシブな曲展開、ジャムセッション的にラフなフレーズと夏の抒情が入り混じる大傑作。このランキング100枚の中でまずどれを聴くべきかと聞かれれば迷い無くこれを選びます。


主に「うーん」と思うところ
・鈴木茂関連なら小坂忠「ほうろう」が上位に来ていい
鈴木茂関連としてソロの「BAND WAGON」、ユーミンの「コバルトアワー」、はっぴいえんど作品など多くランクインしているが「ほうろう」が無い。関連作なら「ほうろう」が最上位でも良いと思う。(ちなみにソロ最高傑作は個人的に1stよりも「LAGOON」だと思う。みんな砂の女のイントロと微熱少年の名曲さに誤魔化されてるよ!)
・はっぴいえんどはギター観点なら「風街ろまん」よりゆでめん
よりサイケデリックで奇想天外なのはゆでめんの方。「風街ろまん」を評価するなら細野晴臣評価にもなると思うがそちらの言及が無いのも不満。あと3rdもいい順位につけて良いのではと思う(が、鈴木茂関連が多すぎるので3rdが外れるのが妥当といえば妥当)。
・椎名林檎「無罪モラトリアム」「勝訴ストリップ」はもっと上位で良い
近年の椎名林檎のあまりの高評価ぶりもどうかと思うところはあるが、むしろギター関連でこそこの2枚をより評価すべきと思う。西川進、名越由貴夫両氏の大暴れなプレイングはこの時代のロックギターの集大成。
・フリッパーズギターが無い
フリッパーズギターの過大評価も気をつけないといけない部類だが、ギター観点での2nd3rdはどちらも掛け値なしに素晴らしい。個人的にはよりパンキッシュな勢いのある2nd「カメラトーク」。
・THE GROOVERSが無い
THE GROOVERSが無いなんてありえない。藤井一彦のギターはあまりにもかっこよすぎる。1枚選ぶなら「ELECTRIC WHISPER」か。


MIYAVIがないとも言いたくはあるんですけど、その独特すぎるプレイングはどう捉えていいか難しくもあるのでまあ仕方ない気もします。

極めて個人的な好みの話
・個人的にはチューインガム・ウィークエンド「キリングポップ」が異論の余地なく圧倒的1位
掠れつつエッジの効いたクランチから空間を彩る美しくも暴力的な歪みまでバラエティ豊かなサウンドと、スケールアウトしながらもポップで独創的なフレーズ。心臓を抉り取られるようなギターが満載。並び立つアルバムはありません。ぶっちぎりです。

・coaltar of the deepersもどれかを入れたい
勢いのある1st2nd、よりシューゲイザー的な「NO THANK YOU」、シンセとの組み合わせが新鮮な「Yukari Telepath」のどれか。どれも甲乙つけがたい。

・ピロウズはB面集「Another morning, Another pillows」が一番いい
B面集が一番バンドサウンドが生きているし、ギターサウンドもフレーズも幅が広い。個人的に一番好きなアルバムでもある。そもそも「HAPPY BIVOUAC」最上位も悪くは無いけどサウンド的には「LITTLE BUSTERS」か「RUNNERS HIGH」の方が暴力的でマイルストーン的だし、フレーズ観点では「Please Mr.Lostman」も非常に巧みなので個人的には多少の異論がある。
・個人的に塚本晃氏がトップクラスに好きなギタリストだけどアルバムを選ぶのは難しい
塚本晃氏の重厚なギターが大好きなんですが、アルバム単位でギターの作品を選ぼうとすると途端に困る。ギターが目立つタイプの曲が少ないので難しい。強いて挙げるならNOWHEREの「こりもせず俺たちは雑草を踏みつぶして歩く」か。

他にはコモンビル「コモンビル」、the heys「優しい終わり」、ハートバザール「さいはて」、佳村萌「うさぎのくらし」などが個人的な候補。

とはいえ総合的にかなり妥当なリストになっていると思うし、何よりギターにフォーカスした邦楽名盤リストというのも珍しいし、やはり一言でいえば面白いランキング。
加えて、ランキングから漏れたマイベストも紹介されていてそこもかなり尖っていたりして凄い。
杉本拓選んでるエグい奴おるて笑、と思ったら回答者は岡田拓郎氏。さすが。OGRE YOU ASSHOLEの2人がWhite Heavenを、スカート澤部氏が豊田道倫作品を選んでいたりして納得度も高い。

いつかギターのボカロ曲100選も選んでみますかね。
とりあえず歴史的な意義を考慮に入れるなら、とんでもなく作りこまれているかいりきベア「ダーリンダンス」と打ち込みギターの認識を完全に更新したナユタン星人諸作品(ギター作品にカウントしていいかはともかくとして)は確定として後は好みかな。

という訳で本編です。


【初音ミク】夏はクロス・オーバー【オリジナル】 作:EMOさん
ドラムンベースを軸に清涼感のあるサウンドとメロディーが夏の季節感を演出するエレクトロポップ。ドラムンベースの典型的なリズムを土台にしながら、明確にリズムを刻む初音ミクの歌声とエレピが組み合わさって新鮮なグルーヴを生んでいるため、そもそもドラムンベースに対してやや億劫なイメージを持っている自分でもあまり気にせずに聴き入ることができる。Genderの値を下げたと思われる幼めの声は、気の衒ったところがあまり無い堅実に組み上げられたサウンドとの対比となってむしろクールな印象を残す。
しかし何よりもメロディー。歌ものとしてのキャッチーさはやや変な言い方になるがクラブミュージックらしさが無い。一方で、ビルドアップ的なニュアンスのあるBメロは展開と巧みに組み合わさって溜めを作りつつ、伸びやかでカタルシスのあるサビへと繋ぐ。
爽やかかつ寂寥感があり、煌びやかかつ物悲しい。エモーショナルな夏の情景をいっぱいに湛えた4分半の傑作。

【初音ミク】夏の終わり【オリジナル曲】 作:ぴこまるさん
ピアノの伴奏をバックに初音ミクが伸びやかに歌う、あまりにもシンプルなピアノバラード。深い残響音がどうしようもなく侘しさを駆り立てながら、極めて簡素なメロディーがただただ流れていく。そして初音ミクの素朴な歌声はまさしくこうした楽曲の時に真価の一側面を見せる。飾り気のない歌とぼやけた音像が全く邪念を感じさせることなく夏の日の情景を思い起こさせる。夕方でも夜でも、静けさの中にゆったりと響くようなシチュエーションであればより心の中に染み入るように響くことは請け合い。
ピアノバラードの素晴らしいところの一つとして、ピアノ単体が持つダイナミクスレンジ、周波数レンジの広さに由来すると考えられる、表現できる空間の広さが挙げられる。だからこその本楽曲の奥行きと天井の高さ。ピアノも初音ミクも、その素材の良さを目一杯生かされて伸び伸びとそのポテンシャルを発揮する。こんなシンプルな楽曲だからこそその余白に様々な感情を託すことができる。

【鏡音リン】 静かな夏の蝉時雨 【リアレンジ版】 作:suntea(あーさん、草だんごさん)
徒然なるままにかき鳴らされるアコースティックギターを土台に気だるげなメロディーを歌い上げるバラード。そのバンドサウンドはBob Dylanの「Like a Rolling Stone」やSimon & Garfunkelの「The Sound of Silence」のような極めて原初的な名作に則ったフォークロック(サウンドエンジニアリングはそれほど古風なものでは無いにしろ)。滑らかなアルペジオを中心としたリードギターとオルガン風味のシンセの音が爽やかさを感じさせるし、あまりにもあっさりとしたドラムは夏の寂寥感に寄り添う。そして空間に滲み出ながら伸びやかに楽曲を支えるベースが隠し味として楽曲の淡い空気を決定づけている。
淡々と楽曲が展開していく中でピアノやストリングスなどが合流して賑やかになっていく一方で、過剰な装飾になることなく静かな夏の日を思わせる。その中でメロディーの起伏に伴うエモーショナルな歌唱がアクセントとなる。何もない夏の日にこそ、こんな曲を聴いて感傷に浸るのもまた一興。


次回:過去の名ボカロ曲をレビュー part7の記事

前回:過去の名ボカロ曲をレビュー part5の記事


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