過去の名ボカロ曲をレビュー part7(+コラム:良さが分からない名盤)

少し前に「良さがよく分からない/分かるまで時間を費やした名盤」を募って集計する企画がtwitterで話題になってましたね。

インターネットで音楽の評判に触れていると基本右も左も絶賛だらけ、それが歴史的名盤とされるアルバムならなおさら激賞ばかり。
一方で歴史的名盤とされるものには当時の状況や文脈による価値の比重が大きいものも少なくはなく、そんなことは露知らず聴いてみて何が良いのか分からないと感じることも珍しくはないと思います。
恐らく誰にでもある経験だと思われるので大いに盛り上がったし、音楽を聴く時には評判の良さに引っ張られずに、一旦は分からないままでも良いんだと思えるきっかけになりそうな良い企画だと思います。

個人的な経験で言うと一番印象的なのはMy Bloody Valentineの「Loveless」でした。
そもそもマイブラに辿り着いたきっかけが、スーパーカーの1stがめっちゃ好き→どうやらこれはシューゲイザーというジャンルらしい→じゃあ一番有名なラブレス聴いてみるか、という今考えるとそりゃ分からなくて当然ですよねという流れでした。
案の定初めて聴いた時は何も印象に残らずいつの間にか終わっていて、不良品か偽物でも掴まされたか?と思いました。
ところがある日ふと思い立って聴いてみると、突如美しく歪んだギターサウンドと甘いメロディーが脳内で化学反応を起こし、それ以来愛聴盤の一つとして折に触れて度々聴くアルバムになりました(でも実は未だにSometimesの良さが分かってなかったりする)。

今までそこそこ音楽を聴いてきてそれなりに大体の名盤とされるアルバムの良さは分かるようになってきてはいますが、
なんだかんだいまいちよく分からないなと思うアルバムもいくつかあります。
というわけでリアルタイムでは乗る気になれなかったので(というか、時間を空けて乗るべきだとなんとなく思った)、今更あんまりよく分かってないアルバムをいくつか挙げていこうと思います。

eastern youth「旅路ニ季節ガ燃エ落チル」
イースタンユースって何から入ればいいの?という質問において恐らく「感受性応答セヨ」と並んでよく名前が挙がるアルバムだと思いますが、実は私はよく分かってません。
どうにも全体的に重さや濃さが強めですぐ聴いてて疲れるんですよね、他のアルバムだとそうでもないのですが。
というわけでイースタンユースの一枚目としては個人的に「感受性応答セヨ」の方をおすすめしてます。なんなら最近の「2020」や「ボトムオブザワールド 」辺りも良いし、「旅路ニ季節ガ燃エ落チル」以外なら何でも、と答えてしまうかもしれません。

TRICERATOPS「THE GREAT SKELETON'S MUSIC GUIDE BOOK」
トライセラ大好きなんですけどなぜかこの2ndだけさっぱり分かりません。
恐ろしくざっくりと、誤解を恐れずに言うならば、個人的にはトライセラの中で最もバンドサウンドの骨の部分がロックンロールなアルバムだと思っていますが、
その割に曲が異様にキャッチーすぎて物凄くちぐはぐな印象を受けています。
「PARTY」も「SHORT HAIR」も好きなので”アルバムの最初と最後の曲さえよければとりあえず誤魔化せる”という(自分の中にしかない)理論で何とかなるかと思いきや、どうもこのアルバムにはあまり適用できません。
ちなみにトライセラで一番好きなのは08年リリース「MADE IN LOVE」。ソングライティングもバンドサウンドも冴えわたる傑作!

thee michelle gun elephant「ギヤブルーズ」
ミッシェルの最高傑作としてよく名前が挙がるであろうギヤブルーズ。
でもちょっと苦手…と感じている人も割といるような気がします。
ミッシェルの中で最もゴリゴリにハードな重たい作風で、個人的にはアベフトシのギターはこの作品ではあまり良さが出せてないのでは、と思っています。
でもまあ「ダニー・ゴー」が名曲すぎますからね。そこは掻き立てられるものもありますが、やっぱり総合的に分からないの部類に入ります。
個人的な最高傑作はどうだろう、どれも良いから難しいけど「High Time」かなあ。

andymori「ファンファーレと熱狂」
これまで挙げたアルバムはどれも”でもそのバンドの他のアルバムは良いから…”という感じでしたがandymoriに関しては全く別で、バンド自体がほとんど分からないという個人的にとても困ったバンドです。
セルフタイトル作が出た時は良いバンドが出てきたな、でもちょっと物足りないなと思っていたところ、期待していた新作がこの「ファンファーレと熱狂」で完全に???となってしまいました。しかも一般的に物凄く評判が良いし。
元々期待していた歌もの特化とは微妙に異なる、シンプルな歌とバンドアンサンブルとのバランスに、個人的に違うなあと感じています。
ただ何だかんだ未だ最初の違和感を引きずっているだけのように今は感じていて、いつか分かる時が来るんじゃないかという気もしています。
でもやっぱり今でも「青い空」は大好きで、あの時期待していた方向に行ってくれてたらなあとも勝手に思います。

XTC「English Settlement」
XTCで最も売れたアルバムのはずですが、何故かこのアルバムだけさっぱり分かりません。
超絶キャッチーな名曲にして代表作「Senses Working Overtime」は紛れもなく最高です。しかし他の曲はXTCにしてはアイデアもポップセンスも首を傾げる中途半端さを覚えます。
XTCのアルバムは代表作とされるものから隠れた名作とされるものまでどれも最高なので(個人的にこれ以外なら)なんでもお勧めできます。しかしやっぱり最初の一枚として一番良いのは「Oranges & Lemons」でしょう。

Neil Young「After the Gold Rush」
ニールヤングの代表作の一つにして、最高傑作に挙げられる機会は一番多い気がします。
個人的にニールヤングで圧倒的に好きなのは「On The Beach」で、ヒット作の「Hervest」も好き、他の参加しているバンドの作品も好き、でもこれはよく分からないという感じです。
キャッチーさではトップクラスだと思うんですけど、それ故にニールヤング独特のざらついた感じがあまりなくて通してじっくり聴いた時の歯ごたえが感じられないというか。


というわけで本編です。なにやら本編が隅に追いやられつつある気がするので次回はコラム短めとかでもいいかも知れませんね。
特に決まりとかは無いので意識して自制する気はあまり無いですけど。


さかな【オリジナル曲】【初音ミク】 作:ポンヌフさん
コミカルなパーカッション、ピアノ、マリンバの組み合わせと初音ミクのちょっと舌っ足らずな歌がかわいらしい童謡風ポップス。池の中に住む魚の主観で進行する歌詞は口調も言葉選びもポップで親しげだけれども、内容をよくよく聴いてみるとかなり世知辛くエグめなところは、あたかも大人になって聴いてみると実は深い歌詞であることが分かるような曲に感じられる。叙述トリックさながらに逆転劇を決める様も、激アツな曲展開と相俟って拍子抜け感が増幅される(ダイアトニックから外れて元の展開に戻るのも心憎い演出)。終盤のスキャットと動画の内容から推測されるオチに至っては傑作鬱ゲー鬱アニメにも負けず劣らず理不尽で救いが無い。それでも後味が悪くないのは曲の圧倒的な爽やかさのおかげであり、独特の切ない情緒を生み出してくれている。
ポンヌフ氏は2017年前後の時期を代表するポップマエストロの一人。本作は初期の作品ということもあってか、ひときわ衝動的、独創的で濃い作風であるように感じられる。登場人物の暮らしや生き様を鮮やかにポップに表現するスタイルは一貫したまま、多彩な景色を描き出す。本作はその極地であるように思う。

【IA】アルバム【オリジナル】 作:すなめりさん
アルバム収録曲それぞれの断片を大胆に引用しつつ構成された贅沢な一曲。忙しない2ビートを軸にしながらカラフルに変化するリズムが巧みに各楽曲を取り込む。予測を裏切るタイミングでのブレイクやストップ&ゴーを繰り返しながら変拍子で唐突に再スタートする意表の付き方、何処を切り取っても先の展開が読めずそれでいて3分以内のポップスにまとめ上げている手腕には舌を巻いてしまう。引用楽曲が次々に入れ替わる疾走感と心地良く組み合わさっているし、原曲がバラードの曲も違和感なく溶け込んでおり、いかに一貫した曲作りであるかということが実感させられる。さらにはリズム、引用楽曲に合わせて使う音色、編曲も変化し楽曲全体(+動画も合わせて)で様々な仕掛けを仕込むエンターテイメント精神はボカロシーンにおいてピノキオピーやでんの子Pらとともに印象に残る。
あまりにも底抜けに明るいけれども、何もかも吹っ切れたかのようなテンポ感と目まぐるしい展開に走馬灯のような不思議な曲想を醸し出す名作。そしてあの手この手で多様なアイデアを組み込んでくるすなめり氏のエンターテイメント精神の到達点の一つ。

N.B.W[わすれない (feat.夢眠ネム)] 作:N.B.W
シンプルなポップスとして強度のある作品を数多く輩出するN.B.Wによる極上のバラード。太めのビートにのんびりと体を揺らしながら聴くのが丁度良いリズムが柔らかく伸びやかなメロディーと合わさって心地いい音空間を生み出す。程よく小気味よく刻むエレピはあまりかっちりとグルーヴを締め付けすぎず、程よく跳ねる各楽器がほんの少しウキウキとした気分に盛り立ててくれる。またシンコペーションを交えつつ中途半端な6小節で1ループを終わらせるメロディー展開のつくりは、ビートルズのyesterdayが実は7小節で出来ているというちょっとした豆知識を個人的に思い起こさせる。この中途半端さが気まぐれさやほんの少しの自由な心持を表しているようにも感じられなくもない。そして仕上げのように、ふわふわとしつつ煌びやかなシンセが音の隙間を大切にしつつムードを作り上げる。
N.B.Wはどの楽曲を取り上げても納得感のあるサウンドで巧みに各要素をまとめ上げていることが感じられる。本楽曲は特にサビなどはそれほど個性を感じないにもかかわらず総合的に表現される景色は固有のもの。穏やかな休日にのんびりと聴いていたい一品。


次回:過去の名ボカロ曲をレビュー part8の記事

前回:過去の名ボカロ曲をレビュー part6の記事

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