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FONTPLUS DAY こぼればなし

3月7日に開催されました、ソフトバンク・テクノロジー株式会社主催の連続講座『FONTPLUS DAY』vol. 13に、河野三男さんとともに登壇しました。当日の様子は、こちらのTogetterでまとめていただいていますので、ここではこぼれ話を。

今回のセミナーは、東洋美術学校特集というかたちで実施することとなりました。河野さんといえば『タイポグラフィの領域』(朗文堂, 1996)や『評伝 活字とエリック・ギル』(朗文堂, 1999)、『欧文書体百花事典』(共著, 朗文堂, 2003)などの著者。こんにちのタイポグラフィにおける重要人物といえるひと。ありがたいことに僕は、所属先につとめた最初から、河野さんのアシスタント的な位置での仕事にめぐまれ、そのそばでタイポグラフィについてのたくさんをまなぶことになります(もちろん、いまもなお)それは自分自身が活字をあつかうシーンはもちろん、デザイン、そしてデザインの教育にとりくむうえで、とてもおおきな基盤となっています。ですから、こうしてリレー式・対談式で講座をおこなうことは、ほんとうに恐縮なこと。なんというか、和尚さんにお伴する門前の小僧のようなこころもちなのでした。

今回「タイポグラフィの学び方」というテーマがきまり、河野さんと過去のFONTPLUS DAYのようすをみながら、最初に決めたのはタイポグラフィにかかわる、さまざまな要素のなかから、組版や言語表現、そして歴史背景にフォーカスしようというものでした。近年、タイポグラフィ、あるいはフォントというものが、デザインにおけるひとつのトレンドワードになっているのは間違いないでしょう(そもそも、トレンドという風潮で手におえる対象ではないのだけれど……)しかし、そこではこれらがタイプフェイスという切り口ばかりで語られ、咀嚼されている傾向が否めないのも事実。

タイポグラフィが、規格化された文字である活字を、組むことで成立するとすれば、それでは半面しか捉えられていないといえます。古典といえる活字のリイシュー、再解釈によるリリースもこのところ盛んといえますが、そうした活字書体をPCにインストールしながらも、それが元来、どのような組版でもちいられた活字であったかまで知っているひとはすくない。べつに懐古主義・原理主義になる必要はないけれど、その道具の基本的・元来的なつかいかたは理解しておいて損はないはず。活字書体の選択と同時に、ケース・バイ・ケースで、どのような組版の作法がふさわしいかを判断することも、いうまでもなく重要なところでしょう。

そうした意味でタイポグラフィは活字という、絶対値で規格化されたものであるため、共有知となりゆく性質をもっているといえます。これは今回の講座でもおはなししたところですが、音楽を生業とするひとは、とうぜん音階、律動、和声というものを理解し、体得しています。そしてそれらを記号化した譜面で情報共有することができるし、記録することもできる。料理でいえばレシピがそうかもしれません。なにかをつくる仕事のおおくは、そうしたインフラストラクチャといえる規格・基準が存在します。デザインの造形面においてはタイポグラフィにその適性がある。画面の最少単位である文字と、その組み、くわえて余白。これらが同一規格で展開できることは、これを最少の要素として、画面全体、あるいはページすべてという最大をコントロールできることにもなります。こうしたものは、造形においては希有な存在ともいえるかもしれません。

くわえて、それが言語であるため、日常レベルで体験的に理解していることもおおい。デザインにおいては経験則がものをいうから、事例がつねにそばあるということは、やはりおおきい。みな、なんとなく文庫本らしいもの、高級感のあるもの、スマートフォンらしいもの、ナチュラル感のあるもの、あるいは丁寧なしゃべりかた、大声で叫んだとき、というものや感覚を漠然とでも把握しているはず。それを分析しながら理解することも、規格があればこそより具体的に可能。音楽でいうところの耳コピみたいなものでしょう。それから、その価値観や様式の基準というのが、ながい歴史背景のなかで培われ、体系だって形成されていることも、それが、安心して根をはれる土壌であるといえます。

そうした意味から、今回、僕のはなしは「コミュニケーション・デザインにおけるインフラストラクチャとしてのタイポグラフィ」という、少々、ながいタイトルとなりました。ちょっと心残りだったのは、いくつか持参した資料をじっくりとご紹介する時間がとれなかったこと。せっかくなので、いい組版の事例も現物でふれていただけばよかったな、と反省しています。

当日、会場にお越しいただいたみなさま、主催者ならびに運営のみなさま、東洋美術学校の関係者のみなさま、そして河野三男さんにあらためて御礼申しあげます。

関連情報: 2017年にオンライン学習サイトschooにて初学者むけタイポグラフィ講座をおこないました。


8 March 2018
中村将大


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