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Fender Acoustasonic Stratocaster


Introduction

「アコギをエレキのように弾く」というのがカッコいいと思っていたのですが、ほんとうに「エレキのような」アコギが登場する現代。若い人のアコギに対する認識はやがてわれわれのそれとはズレていくのかも知れません。今回は時代とともに移り変わってきたハード面を俯瞰してみます。そして現代のテクノロジーが結集されたアコースタソニックの威力をご紹介します。

History of Electric Acoustic Guitar

アコースティックギターの音の増幅というのは、ある時期からいわゆるエレキギターとは一線を画した独自の道をたどってきたと言えると思います。

黎明期

「エレアコ」的なものの元祖はすでに50年代に始まっています。ギブソンのP-90が付いたCF-100EやJ-160E。このあたりは50年代に登場しています。デザインのカッコよさは奥田民生氏(CF-100E)や斉藤和義氏(J-160E)がシグニチャーモデルを作っちゃうあたりで証明されていますね。もともとJ-160Eについてはビートルズという大御所がいるのであれですが^^。オリジナルでもムッシュ(現在は息子の太郎さんが使っているようです)や陽水氏が弾いているのを見るとカッコいいなあとつい思ってしまいます。

一方、もうひとつのアコギ界の雄、マーティンではディアルモンドのピックアップがついている「Eモデル」を1959年に出しています (D-18E、D-28E、00-18E)。カートコバーン(D-18E)が一番有名にしたのかな。坂崎氏(00-18E)もちょっと前に使っていましたね。

コンタクトピエゾ期

それが70年代になると、アコギ然とした音色へのアプローチが始まります。バーカスベリーのコンタクトピエゾ(貼り付けピエゾ)をブリッジのところにつけたジミーペイジやエリッククラプトンを思い出します。個人的にはクラプトンの音に驚いた記憶があります。トリプルオーだからかな?バランスが良くて。他にもニールヤングが使っていたFRAPとかもありますが、バーカスベリーほど知られているでしょうか?ニールファンくらい?ドレッドノートなどの大きなボディでは低音とのバランスが難しかったかもしれません。これもあまり当時は耳にしませんでしたがアリスのみなさんが使っていたシャドウのコンタクトピエゾは音が良かったんですよ。パッシブなんですけどとてもナチュラルでハイパワーです。僕らはモーリスのCP-2とかグヤトーンの貼りピエゾでしたけど…現在もこのコンタクトピエゾは進化を続けており、これを複数貼ったり、他のピックアップと混ぜて使っている人など様々います。

オベーションの時代

そのピックアップを「内蔵した」モデルとして世の中を変えたのがオベーション。「エレアコ」といえば当初オベーションの独壇場でした。デザイン、カーボン素材のボディ、ラインの音色、あまりに独特でカッコよくて…90年代前半まで黄金時代でしたね。70年代のCSN&Yやレッドツェッペリンのように完全アコースティックでの部分とバンドの部分を分けるのではなく、ハウリングの心配なくバンドサウンドの中に溶け込む。ここが大きなポイントだったと思います。当時のオベーションの音色は今でこそ「 独特」と思いますけどあの音はやはり画期的でした。

エレアコ戦国時代

79年くらいがオベーションを使うニューミュージックの人たちのピークでしょうか。それに続いて国内でも「エレアコ」が登場してきます。80年ごろにはオベーションの廉価版としてApplauseというのが出ていましたが、81年くらいからモーリスのトルネードシリーズが出てきて動きが変わっていったと思います。ただし、問題だったのはやはりプリアンプ 。オベーションのパワーと音色はなかなか真似が難しかったのか、あるいは狙いが違っていたのか、初期の国産エレアコはなかなか難しかったですね。正直、価格と音色が合わない。その音色で先を行っていたのが、海外から火が付いたタカミネ。ジャクソンブラウンが広告に登場しておりました。ヤマハは少し遅れて82年あたりからピックアップ搭載モデルが登場します。その頃から他の国産ブランドも一気に市場に参入します。アリア、トーカイ、ヤイリ…80年代は戦国時代でしたね。余談ですけど、この「エレアコ」って言葉、当初はタカミネの登録商標でした。他のブランドは「えれあこ」とか書いていた。不思議なことに現在はこれ、ヤマハの登録商標になっています。どういう経緯だったのか興味ありますね。ご存じの方教えてください。

この後、ソリッドボディのエレアコが出てくるわけですけど、その直前、リックターナーのようにエレキとアコギのハイブリッド的な機能を持ったギターも登場しています。安全地帯の人とか高橋幸宏さん、甲斐バンドの大森さんが使っているのを見た記憶があります。一本で全部載せみたいなのを求めるのはライヴやる人には永遠の課題ですよね。

音色とプリアンプ

坂崎幸之助氏が「アコギは音程のあるハイハット」と言っていましたけど、アコギらしい音色にすればするほど音は埋もれていきます。ふつうにストロークすると消えちゃうので坂崎さん、当時はいろいろ弾き方を工夫されていました。そういう意味ではオベーションの存在感ある独特の中域の強い音色はプラグインするだけでバンドの音に埋もれないという点でよくできていたと思います。最近(2023年12月)出たビリージョエルのライヴ盤を聴いていても80年頭くらいの音源で随所にオベーションと思われる「エレアコの音」が出てきます。オベーション然り、タカミネ然り、エレアコの音はプリアンプまでセットになっている。ソリッドボディでアコギの音として「いい音」として認識されるためにはより良いプリアンプが不可欠だったという感じでしょうか。

ソリッドボディ

「ソリッドボディのエレアコ」の登場は81年。ギブソンのチェットアトキンスモデルから。当初はガットモデル。スティールモデルの登場は80年代後半です。ガットが先行したのはピエゾの音がスティール弦よりも安定していたからでしょうか?いろんな人が使っていましたが、僕にとってチェットアトキンスといえば加奈崎さん。衝撃的でした^ ^。まさにひっくり返ったその日の映像。

そういえばモーリスからも83年ごろGroovin’というエレガットモデルが出ました。内田勘太郎氏が憂歌団時代ほぼエレキ的に弾いていましたね。

進化/派生時代

そのソリッド市場に満を持してゴダンが登場するのは90年代中盤です。世はすでにアンプラグドの時代。一気に市場がマーティンへと再び向きを変え、恐ろしいほどにエレアコ市場が衰退したその時期に登場したゴダンギターはやはりガットモデルからでした。ただしそういう空気の中であっという間に立ち位置を確立し、存在感を失うことなく現在に至るまで第一線にい続けているその理由は紛れもなく音の良さにあると思います。ナチュラル感、エアー感。のちにリリースされるスティールモデルも含め、どれもナチュラルでアコースティックギターの音を素直に出せるピックアップ、EPMやフィッシュマン、LR Baggsを採用したアコギファンを納得させる音作り。そしてパワーがありEQもよく効くプリアンプ。ある意味ソリッドボディのエレアコというジャンルを確立したブランドだと思います。Charさんも一時期ゴダンのA6とかA12というスティール弦のモデルを使っていましたね。ソリッドではほかにもP-projectのエレアコとか使っているミュージシャンがけっこういたと思います。

BambooInn

Charさんのアコギといえば、ヤマハに始まり、オベーション期、タコマ期、一時はテイラーも使っていましたね。そういうのを通して?BambooInnにつながっていったと思います。BambooInnはその後CEというピックアップ内蔵モデルがリリースされますが、その前に待てずに自分でピックアップつけて弾いているひとも結構いらっしゃいました。こないだCharオフ会ライヴやった店にもそういうやつが置いてありましたね。誰も何も言わなかったけど(笑)。BambooInnのいいところはとにかく軽いところと取り回しの良さですね。Charさんの楽屋ギターだった時期は結構長かったんじゃないでしょうか。このモデルの派生系?で坂崎幸之助タイプのものもあり、星之助という名前でエレアコが出ています。バンブーインはシダートップだけど星之助はスプルーストップ。遊び心のデザインが良くも悪くもマニア向け…悪口じゃありませんよ^^; 。僕は車の中で弾けるギターとしてずいぶん重宝しました。

Fenderのエレアコ

ようやく本題に近づいてきました(笑)。80年代からエレアコは時代とともに、という感じでリリースされていました。90年代にはFender JapanからテレキャスターっぽいTLACというシリーズが出ています。これは弦が裏通しのテレキャス型の形状で、ソリッド(セミホロウ)でした。その後00年代にUSA(その前にスクワイアとかが先に出ている)から「Stratacoustic 」、「Telecoustic」、「JZMcoustic」というもう少しアコギよりなモデルが出ます(当初はカーボンボディ、このモデルはメイプル) ソリッドに行くのかフルボディ(セミアコ?)にするのか試行錯誤だったのでしょうか?ただ、このモデルもシングルコイルのピックアップとフィッシュマンのピエゾというデュアルシステムは搭載されており、そういう意味では当初からエレキとアコギのハイブリッドは狙っていたと思われます。

Acoustasonic

そしていよいよ本題^^;。2019年のNAMMショウでお披露目されたのが最初だと思いますが、最初にテレキャスター、続いて2020年にストラトキャスター、そして2021年にジャズマスターという3タイプがリリースされたアコースタソニック。結局、上記のモデルからまたソリッド形状に戻されて今に至るという感じですね。最初のテレキャスターモデルからFenderとFISHMANとで共同開発したアコースティックエンジンという触れ込みで、新時代のエレアコを謳っている感じです。時代としては上記のGodinのUltraや、MIYAVIの使用で有名なTaylorのT5、それにきわめてよく似たルックスのCrafterのSAなど、徐々にハイブリッド感のあるギターが台頭してきた中で満を持してという感じでの登場だったのですが、ほかのモデルがサウンドホールを排している(少なくとも丸いサウンドホールではない)のに対し、あくまでサウンドホールを残すところになんとなく意地を感じます。そうまでしてアコギに寄せなくても…なんて当初疑った私です(笑)。Charさんの手元に渡ったのは2020年リリースのストラトモデル。最初はサンバーストで 「え?」という感じがありました。じきに違う色のモデルになるんだろうなと思いながら僕も早速探して赤を買ったのですが…2本目はブラックでした^^;。コロナ禍でZICCAからの配信やらなんやらでもよく使われていたし、

武道館後のツアーでも楽屋ギターとして置かれておりました。Charさんがこのモデルについて語っている動画がこちら。アメリカの 2020NAMMに行った時ですね。愛弟子?山岸龍之介くんとのセッションも。

もうひとつフジファブリック山内氏とのセッション。このときにはサンバーストを手にしています。

Impression

さて、入手してみて驚いたのは。その音の良さ。値段高いんですけどね、高いだけあってか?めちゃめちゃいい音です。恐ろしいのはですね。非常によく考えられているセッティングなんです。5段切り替えスイッチにAとBというふたつの「ボイス」があるので都合10種類の音が出ることになっている。スイッチひとつでアコギのストロークからクランチのリードギターまでできるんです。これは非常に使い勝手がいい。途中で気づいたんだけど、ボディタップっていうんですか?あれもできるモードがあるんです。もう至れり尽くせり。それに音色のシミュレートがある。この夏(2023年8月)にフェンダーのショップで弓木英梨乃嬢とCharさんのトークセッションがあり、そのときに彼女が「アコギのときとエレキのときの振り幅がジャズマス(ター)が一番大きくて…」とジャズマスターモデルを選んだ理由を語っていたのですが…なんと!この3機種、シミュレートしている音色がすべて違うのです。

ストラトモデルの音色

Position 1
A Fender Electric Fat / Semi-Clean
B Fender Electric Dirty
 ちょい太めのクリーンとクランチ。
Position 2
A Engelman Spruce / Rosewood Dreadnought
B Fender Electric Clean (Aに「Fender Acoustasonic Noiseless Pickup」をブレンド。)
イングルマンスプルースのドレッドノート…最近のマーティンDかな。それにフェンダークリーン…ストラトでしょうね。
Position 3
A Sitka Spruce / Rosewood Auditorium
B A に「Fishman Acoustasonic Enhancer 」をブレンド。
マーティンOOOかOMですね。そしてこのエンハンサーがボディヒットを拾います。
Position 4
A Sitka Spruce / Walnut Small Body Short Scale
B Sitka Spruce / Mahogany Americano Dreadnought
これは何だろうな…ショートスケールギターにスプルースマホガニーならギブソンJかな 。
Position 5
A Sitka Spruce / Mahogany Dreadnought
B Sitka Spruce / Rosewood Concert with Slotted Headstock
マーティンD-18でしょうか。そして12フレットジョイントのマーティンOOサイズかな。
なかなか多彩でしょう?アコギマニアは思わず唸る音分けです。スロッテッドヘッドの OOとか持ってないと意味わからないと思う。まあ実際に弾いてみると低音の感じが全然違うのでそこはわかると思いますけどね。よく作ってあるんですよ。詳しく書きませんがほかの形は以下の感じ。

テレキャスター

Position 1
A Fender Electric Clean
B Fender Electric Fat / Semi-Clean
Position 2
A Sitka Spruce / Mahogany Dreadnought
B Fender Electric Clean (A に「Fender Acoustasonic Noiseless Pickup 」をブレンド。)
Position 3
A Sitka Spruce / Brazilian Rosewood Dreadnought
B A に「Fishman Acoustasonic Enhancer」をブレンド。
Position 4
A Engelman Spruce / Maple Small Body
B Sitka Spruce / Mahogany Dreadnought
Position 5
A Sitka Spruce / Rosewood Dreadnought
B Alpine Spruce / Rosewood Auditorium
※なんとハカランダボディがシミュレートされているのはテレキャスモデルだけ。

ジャズマスター

Position 1
A Fender Electric Fat / Semi-Clean
B Fender Overdriven Electric
Position 2
A Lo-Fi Piezo
B Lo-Fi Piezo Crunch
Position 3
A Rosewood Auditrium
B Body Sensor Pickup
Position 4
A Mahogany Jumbo
B All Mahogany Jumbo Small Body
Position 5
A Rosewood Dreadnought
B Mahogany Slope Shoulder
※ジャズマスターは振り幅が大きいと弓木嬢が言う意味がわかりますね。エレキ用ピックアップはハムがついているのでクランチではなく最初から「オーバードライブ」がかかっている。アコギもギブソン系メインのシミュレートなのかひとくせある感じ^^。

面白いでしょう?現在はこのアメリカンシリーズに加え、メキシコ工場製のPlayerシリーズがリリースされています。充電式のアメリカンシリーズと電池式のPlayerシリーズ、5点スイッチのアメリカンシリーズと3点スイッチのPlayerシリーズはどっちが便利なのかわからないですけど、まあ使い方ですよね。

で。今回の目玉?というわけでもありませんけど、名工日高氏に調整をお願いして。フレット処理とネック調整、そして弦高。ついでに中身のチェックをしてもらいました。ちゃんとこれまでのストラトの?フェンダーのか、歴史をふまえた作りになっているところに好感が持てます^^。エボニーオンメイプルネックというのは公式に発表されていることですけれど、あのボディはトップがぺたっと何かシール貼った感じなんだけど、スプルースなんですよ。で、マホガニーサイドバック。アコギなんですね。11のアコギ弦が標準らしいんですけど、Xで弦を張りっぱなしにしていたらトップが歪んだという書き込みをいくつか見て。あーそういえば90年代にオベーションでそういうのよくあったなあなんて思い出しましたけど、このトップがスプルースを張っているって知っていれば弦を緩めたりしたと思うんですよね。みんなソリッドだと思うんじゃないかな。見た目的に。僕は最初10のエレキ弦で始めたんですけど、今は09を張ってみています。弦が細いとストロークした時に音があばれるのと音色の細さをどう回避するかというところが練習どころですね。あとですね、このリアのシングルコイル、あまりにきれいに歪むのでそう言っておかないとPAの人から音絞られちゃいます^^;。ボリューム差がありますって予め言っておけばラインで出しても本当にいい感じになると思います。使えるエレアコでありエレキ。プロの人たちが次々に使っていますが、アコギとして使っているのかなという感じですけど、ハイブリッド的に両方使う人は出てくるでしょうか。興味ありますね。

マイクロティルトネック。
充電は当たり前だけど充電池^ ^
この基盤部分にセッティングがあるんですね。

Specification

トップ:シトカスプルース
ボディ:マホガニー
ネック:マホガニー(モダン「ディープC シェイプ)22フレット
指板:エボニー
スケール: 25.5" (64.77 cm)
指板ラジアス: 12" (305 mm)
弦: 出荷時ゲージ (.011-.052 フォスファーブロンズ)
ナット幅:1.6875" (42.86 mm)
コントロール: マスターボリューム、ブレンドノブ、5ウエイスイッチ
ピックアップ: アンダーサドルピエゾ/インターナルボディセンサー/N4マグネティック

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