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トイレまであと9分。便意 VS ベテラン腹痛もち。勝敗はいかに?

第二波がきた。僕の計算より3分早い。恐らく今回第三波はない。次は最終フェーズ。つまり、脱糞だ。

子どもの頃からお腹が弱い僕は決して焦らない。最初にやるべきことは、パンツ内で脱糞したときの被害想定だ。

まずは状況を整理する。今は23時過ぎ。会社の帰り道をとぼとぼ歩いている。人通りは少ない。家まであと9分。お腹の感じ的には恐らく間に合う。もし漏らしても大きな問題はない。

次に服装の確認。基本は下半身だけでいい。履いているのはボクサーパンツとスーツ。もちろん長ズボン。便の種類とボリュームにもよるが、よほどのことがない限り漏れてもバレない。どちらも安物なので最悪の場合は処分すればいい。ひとまず安心。

パンツ内で脱糞したときの被害を想定した結果、万が一漏らしても大きな問題はないことがわかった。人としての尊厳は失うかもしれないが、そんなことはもはやどうでもいい。家のトイレまであと5分。

次に、コンビニ脱糞について事前に検討する。要するに、道中にあるコンビニに寄るか否かを事前に決めておくのだ。

腹痛素人の諸君は「え? 当然寄るでしょ??」と疑問に思うかもしれない。甘い。甘過ぎる。

我々ベテラン腹痛持ちは、無暗にコンビニ脱糞を選ばない。万が一トイレに誰か入っていた場合、精神的ダメージがあまりに大きいからだ。おいそれとコンビニ脱糞を選択するのは危険。脱糞するか否かの鍵は肛門ではなく精神が握っている。

ちなみに我々ベテラン腹痛持ちは、自宅周辺のコンビニのトイレ事情は大体把握している。トイレ使用時に店員さんの許可が必要か否か、ウォシュレットの有無、雰囲気、広さなど、全て頭に入っている。

なお、僕の判断は「寄らない」。道中にローソンがあるのだがスルーすることに決めた。理由は先ほど言った点と、あと5分で家に辿り着くので間に合うと判断したからだ。

兎にも角にも自宅へ急ぐ。今のところ順調。お腹の痛みは一時的に収まっている。マンションが見えてきた。自宅まであと3分。

エントランスに着く。用意しておいた鍵を差し右へ捻り、自動ドアを開ける。人が通れるギリギリのスペースが空いた瞬間に滑り込む。早足でエレベーターホールに向かう。そこに罠が仕掛けられていた。エレベーター待ちの人がいたのだ。二人も。普段はこの時間に人はいない。

この場合に浮上する問題は二つ。

一つ目は自分の階に着くまで、最大二回も停まる可能性があること。二つ目はエレベーター内で脱糞したときに恐らくバレること。エレベーターホールに人がいることを予期していれば「ローソンに寄る」という選択をしていただろう。悔やんでも悔やみきれない。痛恨のミス。

しかしここで精神が崩れると全てが終わる。「諦めたらそこで試合終了ですよ」という名言があるが、まさに。試合で負けるよりも大きなものを失う。

何とか精神を立て直し、次の一手を考える。僕の出した答えは「二人を先に乗せて、戻ってきたエレベーターに乗り込む」というもの。わずか10秒足らずで最適解を導き出した自分を褒めたい。

エレベーターが到着。「なぜ乗らないの?」と不思議そうな顔をする住人を見送る。この時間を耐えられれば僕の勝ちだ。大丈夫。今まで何度も経験してきたじゃないか。

精神が乱れるので、エレベーターの階数が表示されている電光掲示板は見ない。視覚による刺激を排除するため目を瞑る。幽体離脱するかの如く自分を俯瞰して見る。とにかく意識を肛門から離すことが重要なのだ。大丈夫、大丈夫。必ず間に合う。

「こんばんは〜」
背後から声をかけられた。新たな順番待ちの住人の声だ。幽体離脱中の僕は一瞬反応が遅れた。「こんばんは」と満面の笑みで返す。そして僕はエレベーター横の、ほとんど誰も利用していない外階段へ向かった。

***

そういえば、先日ひろゆきさんがXでこんな投稿をしていた。

「漏らしたことがある人のほうが年収が高いという事実が発見されました。お金持ちになりたい皆さんは頑張りましょう!」

1400名の男女にアンケートをとったところ、年収が高い人ほど「漏らした経験がある」と回答したらしい。年収1000万円以上の人の約半数が「漏らしたことがある」と回答したとのこと。

ぼくはその投稿に、iPhoneの液晶が割れるんじゃないかと思うほど力を込めて「いいね」を押した。








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