『軽井沢ジャーナル』 第二章 -3-


    *

 長い一日だった。疲れた身体がカフェインを欲しがっている。僕はコーヒーを淹れ、高月はウイスキーの新しいボトルを開ける。特に空腹は感じていなかったが、考えてみれば昼に蕎麦を食べただけで夕飯どころではなかったのだ。食欲がなくても腹に何か入れておいたほうがいいだろう。
 食器棚に残っていたフランスパンを薄く切ってトーストし、冷蔵庫の中のものを適当に乗せてオープンサンドを作った。これならコーヒーにも酒にも合う。

 高月は最初の一枚を囓ると、「これ、旨いな」と褒めてくれた。
「母がよく作ってくれたんだ。ガーリックトーストにしてちょっと残ったサーモンとかトマトとかを刻んで乗せれば割と形になるからな」
「おばさん、料理上手かったもんな。…サーモンか。岬シェフも信州サーモンが気に入っていたっけ」
「そう言えば高月が子どもの頃に埋めたというタイムカプセルもサーモンが入っていた箱だったんだよな」
「うん」
 タイムカプセルの場所はどうやら今のペンション・ステラが建っているところらしいというところまで分かってはいたが、結局まだ火災現場詣でもタイムカプセル発掘にも至っていない。ステラに移転を持ちかけたのも若き日の辻本氏だろうというのも依然憶測のままだ。だが、真迫さんが殺さるという不測の事態が起きたために、いろいろ先送りになってしまうのかもしれない。

 テーブルに置いていた高月のiPhoneが鳴り、画面に表示された名前を見て高月が弾かれたように電話を取った。
「吉村さんだ」そう僕に告げて応答する。
『さっきの電話番号わかったよ。ちょっと意外な人物の番号だった』
「我々の知っている人ですか?」
『直接の知り合いかどうかはわからないがね、藤波エクシードの軽井沢支社長をしている藤波敦という男のものだ』

 吉村刑事からの報告は僕らふたりにちょっとしたパニックを引き起こした。いや、パニクったのは僕だけなのかもしれないが。
「『常習犯』は藤波…つまり辻本の番号だったのか」
「待てよ。辻本氏が本当に藤波家に婿入りして支社長になったのかどうかはまだ未確認だろ? 僕が勝手にそう思っているだけで… それにあの番号が辻本氏のものなら、岬シェフの携帯に登録してあっても何の不思議もないじゃないか。軽井沢出店のときのビジネスパートナーだったわけだし、『常習犯』なんて名前もちょっとした洒落というか、冗談みたいなものだったのかもしれないぞ。ほら、辻本氏はこっちで割とテンパってたって言ってただろ。そういう彼が何かくり返したポカでもあって付けた渾名とか…」
「それは絶対にない」
 高月が断言する。
「考えてもみろ。当時はまだ住所録をクラウド同期するような時代じゃなかったんだ。うちの家族と岬シェフが軽井沢に到着したとき初対面だった辻本の番号を東京の自宅にあるパソコンに登録できるはずはないだろう」
「でも、事前に東京で携帯番号を聞いていたかもしれないじゃないか。『軽井沢での世話役の番号です』と教わって」
「だとしたらなおさら『常習犯』なんて名前で登録はしないだろう。岬シェフはそういう悪い冗談をするような人じゃなかったし、そういった出店関係の交渉は父がやっていたと思う。シェフには料理のことに専念してもらって、実務的なことは会社がやる、という主義だったはずだ」
「それもそうか」
 そう言われてみれば納得できる。だったらなぜ岬シェフは辻本氏の番号を知っていたのだろう。

「登録名が『常習犯』とだけしかなかったんだから、電話番号しか知らなかったんだよね。岬シェフの携帯に辻本氏が電話してくることなんかあったのかな」
「店の電話ならともかく、携帯番号なんてプライベートなものだから、友達以外がかけてくることなんてあまりなさそうだよな。当時はまだ携帯の普及率も今ほど高くなかっただろうし」
「店! もしかしてナンバーディスプレイじゃないか? レストランなら早くからそういうサービスを導入するだろ?」
 高月がiPhoneで検索する。
「ナンバーディスプレイの全国サービスが始まったのは一九九八年の二月か。可能性はあるな」
「きっとそうだよ。店に予約かなにかの電話がかかってきて、その番号を記録したんだ。電話の時に何かトラブルがあったのかもしれないよ」
「予約…か」
 これはいよいよ藤波氏に会ってみなければなるまい。直接会えば、藤波氏が辻本氏なのかどうかもハッキリするし、なぜ岬シェフが番号を残していたのかがわかるかもしれない。そして、彼が真迫さんの死に関係しているのかも。

    *

 翌日、ケープ・ブルームで捜査中の吉村刑事に会いに行き、電話番号を調べてもらったお礼を言った。
「高月くん、藤波支社長に会うつもりかい?」
「はい。岬シェフとの関係が気になりますから」
「どうやって?」
「軽井沢ジャーナルの取材を申し込んでアポイントメントを取ろうと思います」
「なるほど。取材ね。捜査上、藤波氏と被害者との繋がりは薄いと思われるから民間人の君が接触しても構わないけど、もし何かわかったら必ず教えてくれよ」
「承知しています。ところで何か進展はありましたか?」
「いや。店の周りで不審な車両や人物を見かけたという目撃情報もないし、店内に物証も残っていない。凶器も見つかっていないんだ。一応被害者の人間関係を洗ってはいるが、何しろ彼女はこちらに越してきたばかりで、まだ親しい知人もいなかったようだしね」
「斎藤さんを除くと、一番親しくしていたのは我々かもしれませんね」

 その足で高月と一緒に軽井沢駅近くの藤波エクシード軽井沢支社に出向いた。軽井沢ジャーナルで支社長にインタビューをしたいので約束を取り付けたいという名目だ。だがいきなり躓いてしまった。
「出張中…ですか」
「はい。ただいま支社長はハワイの物件の視察に行っておりまして」
「そうですか。いつお戻りになりますか?」
「十八日夜に帰国いたしますのでこちらに出社するのは十九日になります」
「では、その後でも結構ですので、予定を入れていただけませんか?」
「かしこまりました。軽井沢ジャーナルさんのインタビューということでしたら支社長もお断りすることはないと思いますので伝えておきます。日程は社長に確認してからでよろしいでしょうか?」
「けっこうです。よろしくお願いします」

 支社を出て車に戻る途中、思い出したことを高月に話す。
「ケープ・ブルームで支社長夫人の会話を聞いたとき、そう言えばハワイに出張するって言ってたよ。十三日出発だって言ってた」
「真迫さんが殺された日だな」
 高月はすぐさま検索を始めた。
「ワイキキへの便だと成田発なら19時頃からかなりの数が出てるし、羽田でも21時から23時台のがあるんだな。それなら事件を起こした後に軽井沢を出ても十分に間に合う」
「宅配便の配達があったのが15時半くらいだから、事件はその後だよね」
「軽井沢からの上りの新幹線は16時台が三本、17時台が二本、18時台にまた三本だ」
 事件が起きたのは宅配便の配達後の午後三時半から僕らが店に到着する六時半までの間だ。現実的には真迫さんが店に灯りを点けていなかったことから、六時になる前ではないかと思われる。ケープ・ブルームから軽井沢駅までは車で十五分ほどだ。おおよそ四時から六時半の間に駅に着いたとすれば、東京に向かう新幹線にはあまり待たずに乗れるだろう。
 東京に着いて都内の自宅(どこにあるのか知らないが)に戻り、あのワガママな奥さんを連れて空港に向かっても、搭乗時間までには余裕がありそうだ。
「って、藤波支社長が犯人だって前提で話しちゃいけないよな」
「誰と誰に犯行が可能だったかは確認しておく必要があるだろう。今俺たちに分かっているのは、あの日一緒に行動していた俺とナナには真迫さんを殺すことはできなかったということだけだ」
「容疑者から外してくれてありがとう」

 藤波エクシードからインタビューの日程の連絡が来た。帰国して出社したその日に会ってくれるそうだ。
 軽井沢ジャーナルには『軽井沢で働く人』というタイトルの不定期に掲載しているコラムがあり、さまざまな業種の人のインタビューが載っている。別荘などを扱っている不動産会社の支社長ならそこに登場するのは自然だろうということで、その取材を申し込んだのだ。
 このことが片平編集長に知られたらお目玉を食うかもしれないが、背に腹はかえられない。まあ、実際にインタビューを掲載する可能性だってないわけでもないのだから。

 六月十九日、今日も小雨が降っている。東京の梅雨は気温が高く、じっとしていても汗ばんでしまうことがあったが、軽井沢では梅雨入りすると気温も下がり、薪ストーブや暖炉に火を入れる家も珍しくないらしい。特に朝晩は冷え込んでとても六月とは思えないくらいだった。

 肌寒いのでしっかりと上着を着込み、高月は肩書き通りの軽井沢ジャーナル記者、僕はカメラマンという設定で藤波エクシードのビルに到着した。それらしく見えるように取材用に持っている一眼レフも抱えてきた。
 会社内の会議室に通され、少し緊張して支社長が現れるのを待つ。そして、とうとう藤波敦氏が部屋に入ってきた。
 藤波氏は十九年前には「若造」だったわけだが、今はもちろん髪に白いものが混ざり始めた普通の中年になっている。四十七~八歳くらいだろう。高級そうな仕立てのスーツを着こなし、物腰も柔らかいが、どことなく目に小ずるそうな光がある。これは僕の偏見かも知れないが。

「本日は出張から戻られたばかりとのことで、お疲れにもかかわらずお時間いただきましてありがとうございます」
「まあ、地元情報紙のインタビューということならお受けしないわけにはいかないからね。それにうちもお宅には広告の出稿をさせてもらってるわけだし」
「いつもありがとうございます」
 高月は藤波氏の顔を見ても表情を変えなかった。だが事前に、もし彼が辻本氏だった場合の合図は決めてある。
「中道くん。カメラのメモリーカードはちゃんと入ってる?」
「入ってます」
 これが合図だった。藤波支社長は辻本だ! だが、相手は高月が昔世話をした仕事先の息子だとはわからないようだ。
 無理もない。成人した人間が二十年経ってもあまり印象は変わらないだろうが、子どもから大人になった顔をすんなり想像するのは難しいだろう。高月が出した名刺を見て、それでも「薫」という名前にうっすら見覚えがあったのか、一瞬怪訝そうな顔をしていた。もしかすると話をしているうちに思い出すかも知れない。

 高月のインタビューが始まった。

「まず最初に藤波さんが軽井沢支店の支社長になった経緯からお伺いできればと思います」
「僕は元々東京の生まれでね。大学を出てから藤波エクシードの本社に就職したんですよ。で、途中からこっちに異動になってしばらく勤めた後、また本社に戻り、結婚後に軽井沢支社長、という流れだね」
「藤波というお名前でいらっしゃるのは結婚後の?」
「そう。創業者の藤波社長には男の子がいなかったんで娘婿というやつです。今はここの支社長だけど、いずれは本社を継ぐことになるだろうね。まあ、長野もいいところだけど、僕には少々暮らしにくいところもあるし、やっぱり出身が東京だから、戻りたいとは思っているよ」
「では、これまで順風満帆な人生でいらしたわけですね。今までお仕事で失敗をなさったことはおありですか?」
「そりゃまあ長くやってればいろいろありますよ。大きめのプロジェクトがダメになったこともあるし」
「それは軽井沢で?」
「ああ。でもその後日本の景気は悪くなっちゃったからね。あれを進めていたらけっこうな損害が出ていたかもしれないし、結果的には流れて良かったのかな」
 流れたプロジェクトというのは、高月のお父さんと進めていた飲食店街の計画だろうか。そうだとしたら人が亡くなった結果だというのに「良かった」というのは少々不謹慎ではないか?
 軽く腹を立てながら、少しはカメラマンらしく見せようと写真を撮った。確か新聞に載せるインタビュー写真は、誰かに話しかけているような自然な感じを演出するためにわざと目線を外して撮るものだと聞いたことがあるのでそれを意識した。実際にこの写真が軽井沢ジャーナルに載ることはなさそうだが、リアルの追及は大切だ。

「軽井沢って言うのはちょっと特殊な土地で、ここの別荘は多少景気が落ち込んだからって売れなくなることはあまりないんだよ。逆にそういうときは別荘を手放す人が出てくるから取引数が多くなるくらいだね。でも、新規に企画した大型プロジェクトだとかける予算も違ってくるから利益が出ないと大変だからね」
「寂れてしまった別荘地などもありますよね」
「まあ、駅から遠かったり不便なところだと危ないね。最初のころは綺麗に売れても、建物が古くなってきたり持ち主が代替わりしたりすると使用頻度が落ちて、手入れを怠ると、あっと言う間にみすぼらしくなってしまう。そうなると周りも売れにくくなるしね。誰だって廃墟みたいな建物の近所に遊びに来たくはないだろう?」
「生きている別荘であることが大事なんですね」
「そうそう。いいこと言うね」
 藤波氏は饒舌だった。支社長としてインタビューを受けるのが嬉しいのだろう。無料の情報紙とはいえ軽井沢ジャーナルは多くの店舗に置かれているし、人の目に触れる機会も多いのだ。
「寂れてしまうと言えば、事故物件などだと余計に売りにくいですよね」
「それは不動産業界にとって一番の恐怖だね」
「昔、軽井沢で人が亡くなった火災があったそうですが、確かあれはお宅の物件ではなかったですか?」
「…ん?」
「そういうところはどうされるんですか? やはり取り壊しでしょうか」
「ああ、更地にして売ったが…なぜそんなことを聞く?」
「ちょっと昔の事件に興味があって」
「さっきも言ったが事故物件というのは我々にとって最も忌まわしいものなんだ。その話は少し不愉快だよ」
「それは申し訳ありません。でも、もし当時のことをご存じならお話を伺えないかと思いまして」
「失敬だな君は。不愉快だと言っただろう。さっき言った流れたプロジェクトというのはその火事が原因なんだ。私にとっては思い出したくもない出来事なんだよ」
「そうですか。私もあまり思い出したくありません」
「……」
「私は子どもの頃に両親が急逝して叔母に引き取られまして、高月という姓になる前は姫野小路でした」

 そのときの藤波氏の表情は見ものだった。驚きは当然だが、怒るべきなのか懐かしむべきなのか、咄嗟には判断できないまま、でも何のリアクションも取らないのは不自然だと、どの顔を見せようか逡巡しているようでもあった。だが、どうやら懐かしむ方向に決まったようだ。
「あのときの坊ちゃんか… 立派になったねぇ」
「ご無沙汰しております。辻本さん。ご記憶かどうかわからなかったので、ご挨拶が遅れました」
「お父さんたちは本当にお気の毒だったね」
「私が入院していたときはご連絡いただけませんでしたよね?」
「どこの病院か教えてもらえなかったんだよ。叔母さんだっけ? 僕は連絡したんだよ。でも君の怪我が重くて面会できる状態じゃなかったそうだし、それにこっちもあのときはバタバタしていてね。別荘が焼けちゃったしプロジェクトはご破算だし、まあ大変な事件だったからしょうがないけど、犯人も酷いことするよね」
「犯人、ですか」
「だって放火だろう?」
「ええ。そうみたいですね。ところで、ケープ・ブルームの事件はお聞き及びですか?」
 高月は意図的に話を飛ばす。
「え…ああ。ついさっき社員から聞いた。みんなその話ばっかりだよ。軽井沢で久しぶりに発生した重大事件だからね。女の子が殺されたんだって? なんか宿命的なものを感じるよね」
「宿命、とは?」
「だって岬シェフの娘だろう? 軽井沢ジャーナルに載っているのを見たよ。お父さんが店を出すはずだった軽井沢で開店したって。岬シェフに娘さんがいたことは昔聞いていたけどさ。正子ちゃんだっけ? お父さんと同じ場所で亡くなるなんて気の毒にね」

 正子ちゃん…? その名前はどこから出てきたんだ? 彼女は真迫美咲さんだし、それに岬シェフの娘は真迫さんじゃなくて斎藤さんのほうで…

「岬シェフの娘は生きていますよ」
「え?」
「お母さまが旧姓に戻られて、今は斎藤さんとおっしゃいます。先日の事件の被害者はホールを担当していた斎藤さんの友達の真迫美咲さんです」
「…あ。そうなの? てっきり岬シェフの娘さんが亡くなったのかと…」
「今日はありがとうございました。大変有意義なお話でした」
 高月が強引に話を切り上げた。
「原稿が出来ましたらチェックをお願いいたしますのでご連絡差し上げます。また、掲載号が決まりましたらそれも後ほど」
「あ、ああ。どうも」
「では、失礼いたします」
 インタビューの終了にしてはあまりにも唐突だったが、藤波氏はそのことには気付いていないようだった。おそらく彼の頭の中では様々なことを処理するので忙しいのだろう。

 藤波エクシードを出て、駅前の駐車場に停めてあった高月のパジェロミニに乗りこむと、もう黙っているのも限界だった。
「犯人は藤波だ! あいつが真迫さんを殺したんだ!」
「ああ。そうだ。だけどどうしてそう思った?」
「名札だよ。あいつは真迫さんのことを岬シェフの娘だと思い込んでいた。もしかしたら彼女に『岬さんですか?』と声をかけたかもしれない。「美咲」という名を呼ばれたと思った彼女は肯定するよな? だから殺されたんだ」
 なぜ最初から岬シェフの娘を殺すつもりで店を訪れたのか、という部分は取りあえず置いておく。
「新しくアルファベット表記に作り直した名札は事件当日の午後に配達されたんだ。そして僕らが真迫さんの遺体を見つけたときには胸に付いていた。だからあいつはその名札を見て「Masako Misaki」を「正子 岬」と読んだんだろう。他に彼女の名前を正子ちゃんだなんて誤解する理由はないよ。それにヤツは昨日までハワイにいたんだ。国内にいれば自分が起こした事件のニュースは気になってチェックするだろうけど、ハワイではきっと被害者の名前まで報道されるようなニュースはやってなかっただろう。だから自分が勘違いしていることに気付かなかったんだ」
「ナナ、賢いぞ」
 褒められた。そのまま高月が続ける。
「だが、動機がまだはっきりしない。十九年前の火災もあいつが犯人だったのなら、軽井沢にやってきた岬シェフの娘にそのことをほじくり返されたくないと思った…ということだろうが、そもそもなぜヤツが両親と岬さんを焼き殺したのかが、ね」
 そのときにふと気付いてしまった。そうか。藤波は軽井沢ジャーナルを見て、父親が出店するはずだった軽井沢にレストランを開店した娘の存在を知ったのだ。それを描いたのは…僕だ。
 開店に至るバックボーンを描けば、紹介漫画に深みが出るだろうと安易に考えてしまったのだ。そんなことをしなければあいつは彼女たちの店に行くことはなかったかもしれないし、真迫さんも殺されずに済んだのかもしれない。
「おまえの考えてることわかるよ。だが、斎藤さんに言ったことをくり返すことになるが、悪いのは犯人でおまえのせいじゃない」
 高月にはお見通しだったようだ。
「この話、吉村刑事にしたほうがいいよね。現場にまだいるかな」
「そうだな。でもその前に斎藤さんにも確認したいことがある」

 パジェロミニを走らせて斎藤さんのアパートに向かった。近くまで来てから彼女の携帯に連絡を入れる。事件以降、殆ど眠れていなかっただろうが、それでも斎藤さんは気丈に振る舞い、話をするために僕らの家に来てくれることになった。

骨折日記のときはたくさんのお見舞いサポートありがとうございました。 ブログからこちらに移行していこうと思っていますので、日常の雑文からMacやクリスタの話などを書いていきます。