安倍晋三が日本_を壊す_Fotor

市民の政治的実力で対抗する〜『安倍晋三が〈日本〉を壊す』

◆山口二郎編『安倍晋三が〈日本〉を壊す この国のかたちとは─山口二郎対談集』
出版社:青灯社
発売時期:2016年5月

安倍政権を批判的に検討する対論集はすでにいくつか刊行されていますが、本書は政治学者の山口二郎が「抵抗と対抗提案を打ち出す」べく行なった対談の記録です。相手は、内田樹、柳澤協二、水野和夫、山岡淳一郎、鈴木哲夫、外岡秀俊、佐藤優。

結論的にいえば、どこかで聴いたようなやりとりが多く、新味には欠ける内容というのが正直な感想。その中であえて言及するなら、内田と佐藤の発言は賛否は別にして一味違った趣きで安倍政治に肉薄しているように感じられました。

内田は相変わらず印象批評的な言説が多いものの、安倍首相の内面の葛藤の欠如を厳しく指弾しているくだりは内田らしいアイロニーがきいているように思います。私的野心と公的規範の別がないという指摘です。深刻なのは日本社会がそのような指導者を戴くことに抵抗をなくしていることです。
「葛藤を持たないことの方が、生存戦略上有利というか、葛藤を持たない方が競争において大きなアドバンテージがあるということが、どこかで集団的に確認されたんでしょう」。
集団的な合意のうえに成立している政治であるならば、政治家個人を批判しても効力は薄く、より掘りの深い批判が必要になってくるということでしょうか。

佐藤の安倍批判もかなり強烈です。安倍政権は「外交や政治学の知識よりも、動物行動学とかで見た方が分かりやすい政権じゃないかと思っている」という発言は数ある安倍批判の中でも最も辛辣なものの一つでしょう。
その一方で、安倍政権の評価に直結する論題ではありませんが、昨今引用されることの多い白井聡の永続敗戦論に異議を唱えているのが目を引きます。これまでも浅田彰が「敗戦の否認」論に対しては否定的に論評していたように記憶しますが、佐藤は対米従属論そのものに疑義を呈するのです。外交官として実務に携わっていた立場からすれば日本外交は一方的に米国に追随しているわけではないということなのでしょう。ただ反証として挙げているのが日本の宇宙政策で、論拠としてはいささか脆弱な気がしますが……。

山口の発言に関しては、野党の力不足を認めながらも市民の政治的実力については「楽観できる」と結んでいるのが印象に残りました。

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