スノーデン_Fotor

国民を監視する権力を監視する必要〜『スノーデン 日本への警告』

◆エドワード・スノーデン、青木理、井桁大介、金昌浩、ベン・ワイズナー、マリコ・ヒロセ、宮下紘著『スノーデン日本への警告』
出版社:集英社
発売時期:2017年4月

アメリカ中央情報局(CIA)、アメリカ国家安全保障局(NSA)などの元情報局員だったエドワード・スノーデン。2013年に米国政府が無差別監視をしている実態を内部告発し、世界を震え上がらせたことは未だ記憶に新しい。その後はロシアに滞在し、2014年には米国のNPO「報道の自由基金」理事に就任しました。

本書は2016年にスノーデンの来日にあわせ東京大学で行なわれた公益社団法人自由人権協会70周年プレシンポジウムでの議論をベースに、詳細な注釈と追加取材を付して書籍化したものです。

スノーデンの発言にとくに新味はないものの、民主主義の理念を強調する姿勢には大いに賛同できます。それ以外のパネラーの発言にも少なからず学ぶべき点がありました。とりわけ複数のパネラーがメディアの重要性を力説している点は凡庸といえば凡庸かもしれませんが、スノーデン・リークがジャーナリストの協力なくしてはありえなかったこを考えれば、やはり傾聴すべきものだと思います。

米国で行なわれていた監視は、主に軍事的な組織を対象とする従来型のターゲット・サーベイランスに加え、網羅的なマス・サーベイランスであることがわかっています。海外の政治家たちの通信を盗聴していたことも暴露されました。通信情報技術の進歩が昔に比べ低コストで簡単にそうした監視を行なうことを可能ならしめたのです。とはいえ、そうした行為がプライバシー権などの基本的人権だけでなく他の国家主権とも真正面から衝突するものであることはいうまでもありません。

本書を読んで一番に痛感したことは、国家権力による監視に対して先進国のなかでは日本が最も抵抗力が弱いのではないか、しかもそのことについて国民的な危機感がきわめて希薄ではないか、ということです。

米国ではスノーデン・リークを契機に、司法が働き、いくつかの点で改善がすすんだといいます。当時のオバマ大統領は当初はスノーデンに対して批判的な言明を発したものの、その後は発言内容に変化がみられたことは注目に値します。

オバマ政権下で独立委員会(PCLOB)が発足し、マス・サーベイランス・プログラムの検証を行ない、プログラムは違法であって、終わらせるべきだという結論を出しました。さらに、10年近くにわたり全米国民と世界中の通信情報を法的手続きを経ずに収集しながら、ひとつのテロをも防止できなかったことも報告しています。

EUでは、包括的なマス・サーベイランスを可能にするデータ保持についての指針を撤回しました。すなわち米国との間で情報の移転を認めるために結んだセーフハーバー協定が基本的人権を侵害すると判断し、無効化を宣言したのです。

ひるがえって日本の対応は遅れていると言わざるをえません。日本でも米国政府による盗聴が行なわれていたことが明らかになりましたが、抗議は例によって形だけのものでした。また、日本国内においても公権力が国民を監視することに対する監視の制度が形骸化し、それを求める国民の声も弱いものです。

これに関して、青木理は一例として公安委員会制度の充実化を提案しているのは現実的な提案かもしれません。ただし議論が深められる前に別の話題に移ってしまったのは残念。

さらにいえば、日本では民間企業や大学が公権力の監視行動に対して安易に協力しているのも問題です。青木によれば、警視庁第三課によるムスリム監視に関して、都内の複数の大学が自分の学校に留学にきているムスリムのデータを提供したことが明らかになっています。

日本における警察性善説にたった治安当局に対する無批判な協力ぶりは、それ自体が一つの議論のテーマとなるべきものではないでしょうか。国家権力が国民を監視するにはハイテクノロジーの進展が大いなる貢献を果たしていることは本書でもたびたび言及されていますが、日本では技術以前の問題が大きく横たわっている感じがします。

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