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(17/3/13)ブィコフ線(帝国燃料興業内淵鉄道線)

 サハリンの首府、ユジノサハリンスクの北の郊外にソーコル(旧大谷駅)〜ブィコフ(旧内淵駅)間を走るブィコフ線というローカル線がある。

 ブィコフ線のルーツは戦時中に樺太人造石油という会社が敷設した鉄道である。人造石油とは、石炭を液化して石油代替燃料を合成する方法で、石油不足に苦しんだ戦前の日本で盛んに研究されており、その中で、内淵川上流にある炭鉱を開発し、人造石油を製造するためにこの鉄道が敷設された。1945年に、樺太人造石油は帝国燃料興業に合併され、鉄道線も帝国燃料興業内淵線となった。戦後はソ連に接収され、ソ連〜ロシア国鉄のブィコフ線として運営されている。

 2017年に当時のブィコフ線の列車本数は朝のブィコフ発、夕方のユジノサハリンスク発と折り返しのブィコフ発という1日わずか1.5往復しかない。ただし、これでもロシアの基準からすると列車本数は多い方である。ブィコフ発の始発は早朝なので、旅行者が乗ろうとすると必然的に夕方の便に乗ることになる。

 2017年3月12日、このブィコフ線に乗車した。ユジノサハリンスク駅に早く着いたので、まずは先発のトマリ行き列車に乗り込み、途中のナヴァアレクサンドロフスカヤ駅まで行った。トマリ行きはディーゼル機関車ТГ16-88号機に座席客車2両(09930017+09930157)の2両で、座席はほぼ全て埋まっていた。

トマリ行き

 ナヴァアレクサンドロフスカヤ駅で降り、後続のブィコフ行きを待つ。程なくして、ブィコフ行きの列車がやってきた。牽引機は入替機と兼用の小さなТГМ7-19号機で、繋がっている客車はわずか1両(09930058)であった。
 車内はボックスそれぞれに1〜2名の客がいる程度。サハリン東部幹線を北上し、18:47ソーコル発。ここからブィコフ線に入る。

車内はリクライニングシート

 列車の速度は30キロ程度だろうか、非常にゆっくりとしている。ソーコルを出ると、すぐにタコイ川を渡る。古い橋脚が残っている。日本時代のものだろうか。

タコイ川に残る橋脚


 車掌が検札にくる。ロシアでは切符の端を破ることで入鋏の代わりにすることが多いが、ここでは珍しく改札鋏を使用していた。乗客は20人ほどなので、検札はすぐに終わった。落葉針葉樹の森。寒々しいところだ。19:00になり、周囲はだんだん薄暗くなってくる。
 19:05、パクロフカ駅着。日本時代は黒川駅という名前だった。構内は広く、側線があるが貨車はいない。隣接する工場はどうやら廃墟のようだ。かつては賑わった駅なのかもしれない。

黒川駅の廃工場
内淵川 ほとんど凍結している

 列車は内淵川を渡る。川幅は15 mほど。線路沿いは原野が広がっている。北側にはドリンスク(落合)とブィコフを結ぶ道路が並行している。この道路には1日10往復以上のバスが走っている。ブィコフへのメインの交通はあちらなのだろう。
 19:11、15 km停留所に停車。ロシアによくある地名がないため起点からの距離を駅名にした停留所だ。以外にも5人ほどの客が降りる。

 ウグリザヴォーツク(東内淵駅)には19:15着。ウグリザヴォーツクとは石炭工場の町という意味だ。駅の北側に工場があり、真新しいコンクリートなどが積まれている。元々、樺太人造石油の工場はここにあった。この工場はそれを再利用したものなのだろう。しかし、工場のトタン屋根は消失してしまっていた。
 川幅が狭くなり、線路は崖下を走るようになる。ところどころに別荘(ダーチャ)が建っている。ケスタと思わしき急峻な山が見え。谷幅が狭くなる。南北から迫る山のわずかな隙間を、川と線路と道路が通っている。
 列車は相変わらず時速30キロくらいで、自動車にどんどん追い抜かされていく。19:25、21 km停留所。乗降客なし。

 もう一度内淵川を渡ると、右手にブィコフの町のアパートが見えてくる。煙を上げる工場もある。内淵川の攻撃斜面を大きく回り込み、ブィコフに到着。19:33。時刻表より2分早着した。

ブィコフ(内淵)駅 機関士は車両を点検 乗客は町へと散ってゆく
ブィコフ駅停車中のТГМ7、狭軌用の液体式ディーゼル機関車
機回し作業

 駅に着くと、すぐに機関車が外され、機回しを行う。折り返しのユジノサハリンスク行きの列車を待つ客はいない。折り返しの列車に乗って発車を待っていると、車掌が紅茶をサービスしてくれた。

 完全に暗くなって、列車はブィコフを発車。来た道を戻って、ユジノサハリンスクに帰着した。

ユジノサハリンスクに到着


 ※その後、ブィコフ線はサハリン鉄道の改軌(1067 mm→1520 mm)工事に伴い休止、そのまま廃線となりました。貨物輸送がすでに無くなっていたことが、廃線の決め手だったようです。

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