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労働者がインフルエンザにり患して会社を休んだ場合の休業手当

インフルエンザが大流行している。私は、今までの記憶の限りでは、インフルエンザに罹ったことがないので、その辛さはわからない。インフルエンザに罹ると熱が40度近くまで出るということだが、私は37度を超えるような熱はめったにないので、もし私がインフルエンザにかかったら、地球の自転が止まってしまう程の思いをするのではないだろうか。

さて、労働者がインフルエンザにり患した場合、会社の使用者としては、他の労働者にインフルエンザを移されては困るので、インフルエンザにり患した労働者に対しては「会社を休みなさい」ということになるだろう。この点、労働安全衛生法第68条では、伝染病その他の疾病にかかった労働者の就業を禁止しなければならない旨規定されており、また、労働契約法第5条では、労使間の契約における使用者の配慮義務として、労働者の生命や身体等の安全確保にかかる配慮義務を規定している。というところからして、インフルエンザにり患した労働者に対しては出勤を禁止すべきということになる。

さて、このとき若干悩ましい問題が生じる。インフルエンザにり患した労働者の休業の帰責事由が労使のどちらにあるかという問題である。なぜかというと、労働者の休業について会社に帰責事由がある場合、会社の使用者は休業を余儀なくされた労働者に対して、労基法第26条に基づき、休業手当として少なくとも休業1日につきその平均賃金の6割を補償しなければならないからだ。

民法では、その536条2項で、債権者の責に帰すべき事由で債務者が債務の履行をできなかった場合に、債務者は債権者に対して反対給付を受ける権利を失わないと規定している。いわゆる危険負担の問題である。この場合、債権者の帰責事由は、債権者の故意または過失により、債務者が債務の履行をできなかった場合に限られる。

この点、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」とは、使用者の天災事変等不可抗力による場合を除いた一切の事情が含まれると解されている。例えば、取引関係にある会社の倒産などによって会社事業場の操業ができなくなり、労働者に休業を指示した場合、その休業については使用者に過失はないように思えるが、労基法上は、使用者の責に帰すべき事由に該当し、使用者は休業を指示した労働者に対して休業手当の支払い義務を負うことになる。

では、インフルエンザにり患して休業する労働者の場合はどうだろうか。インフルエンザにり患したのは労働者であるから、これにより休業する場合にまで、使用者が休業手当の支払い義務を負うとするのは、使用者の責に帰すべき事由に該当するのかという点で疑問がある。実際、労働者が医療機関を受診して担当した医師がインフルエンザと診断した場合、その医師は発症後5日且つ解熱後2日間程度は自宅での療養を労働者に指示するはずであり、こういった指示に基づいて労働者が休業するのであれば、その責は労働者にある。そうすると使用者に休業手当支払い義務は生じないと考えるべきではないか。

また、労働者が、新型インフルエンザや結核など、感染症予防法で対象とされている感染症(一類感染症から三類感染症及び新型インフルエンザ)にり患したときは、都道府県知事が当該労働者に対して、就業制限の通知をすることとなっており、この通知を受けた労働者は就業が制限される。この時の帰責事由は、法律に基づく労働者の就業制限であるので、使用者にはない。したがって、当該労働者に対する使用者の休業手当支払い義務はない。

ただし、労働者が医療機関を受診せずにインフルエンザの疑いがあるという段階において、使用者がその労働者に休業を指示した場合は、どうだろうか。この場合は、医療機関の医師の指示にしたがって労働者が休業するわけでもなく、かつ法律により労働者の就業が制限されるわけでもないので、表面上一義的には、使用者が会社の他の労働者への感染を警戒してのインフルエンザり患の疑いがある労働者に対する休業の指示となり、休業の帰責事由は使用者にあるということになる。そうであれば、使用者は休業を指示した労働者に対して、休業手当の支払い義務を負うということになる。

インフルエンザにり患した労働者に対する休業手当の支払いの必要性の有無については、意外と相談が多い。インフルエンザにり患した労働者に対する休業手当の支払いの必要性の有無については、休業の帰責事由がどちらにあるのか、就業規則等労働契約の内容や、医師の診断等の有無をよく確認して判断すべきだろう。

なお、インフルエンザにり患した労働者が、医師の診断等に従って休業する場合に、使用者に休業日にかかる年次有給休暇を請求した場合は、使用者はこれを妨げることはできず、年次有給休暇を付与する義務を負う。

労働者にとっては、休業手当よりも年次有給休暇日の賃金の方が多くの支払いを受けることができるので、利益にもなる。

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