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like a baby

乗れてる、乗れてる…!
頭からつま先まで銀白色に染まり、まるで生まれて初めて補助輪を外した子どもみたいにはしゃいでいた。かじかむ指先さえ気持ちいい。

雪に埋もれた体を起こし、呼吸を整える。
いち、に、さん、転んだらまた、立ち上がる。ひたすら同じ動作を繰り返す。無我夢中に練習している自分自身が少し、くすぐったかった。体が疲れていて、節々が痛む。それでももう一度、前を向く。私を追い越す人たちすべてを真似するように、もっとできる、次はできる。新しい挑戦は久しぶりだった。

年が明けてすぐ、スノーボードを始めた。

スノボが趣味の恋人から、「白い粉を吸いにいこう!」と雪山へ強制連行されたことがきっかけだった。ここを逃したら、夏生まれの私がウインタースポーツを試すチャンスはもう2度と巡ってこないだろうと腹をくくり、道具を揃えた (実際はなかなか決心がつかず中古品ばかり探る私を見かねた恋人が、いいブーツを買い与えてくれた)。

不安半分、楽しみ半分の中でスポーツ保険に入り、臨んだ当日。真っ白く装飾された雄大な山々が、私たちを迎えてくれた。

午前中いっぱいは、ボードの扱いや滑り方についてのレクチャーを受けた。初心者用の緩やかな雪山を何往復もして(ごく短い動く歩道で登ることができた)、たくさん転んで、練習を進めた。
適度な休憩をとってから、慣れぬボードさばきに苦戦しいしい、私たちはリフトに乗り込んだ。風は朝よりも冷たく、吹き荒れていた。

今まで知らなかった。
こんなに静かで美しい光景があったこと。

吹雪で霞む山と空が混じり合い、幻想的なグレーはどこまでも果てしない。
ふわふわの綿菓子がついている木の枝と、たくましい幹と、その間を颯爽と滑り抜けるスキーヤーたち。色とりどりのウェアをまとった人たちが、段々ミニチュアフィギュアくらいの大きさになっていく。

さっきまでいた環境とは、比にならない広大さを知る。過去の自分が、すべて遠のいていく。


降りそそぐ粉雪が、私の真っ赤なほおに当たる。

唇にふれたそれを舐めとったときの、ほんのわずかな甘さがくせになるようで、幼心を思ってはやはり、胸がくすぐられるのであった。

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