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おやじパンクス、恋をする。#014

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

 ――っていうような話を、俺は皆にかいつまんで話した。

 彼女の「友達になってくれないかな」という言葉の場面で、ゴクリ、と誰かが生唾を飲む音が聞こえた。

「そ、それで、どうなったんだよ」タカが真剣な表情で聞く。

「なんともまあ、青臭え話だなおい」ボンがタバコに火をつける。

「言ってやるな、モテねえ奴はこういう妄想を楽しむしかねえんだ」涼介の無慈悲なツッコミ。

「妄想じゃねえよ」と俺は笑いながら言う。よくわかんねえけど、照れ笑いだ。なに照れてんだバカ。

「でも実際、どうなったんだ」とボン。

「なったよ、友達に」俺は答える。

「おお、やったな」

「いや友達にはなったんだけどよ、じゃあどっか遊びに行こうか、みてえにはならねえわけよ。学校で見かけることもときどきあったけど、彼女の方がひとつ上だったし、俺はビビリのチキン野郎だったし、別にどうこうなるわけでもねえ。レストランには変わらず行ったけど。で、彼女は俺に手を振ったりしてくれたけど、こっちとしちゃ振り返すわけにもいかねえだろ。親父やお袋に知られたくなかったし」

「なんで?」とタカ。

「なんでかなあ。よくわかんねえけど、そうだったんだよ。で、そうこうしてるうちに親父が異動になって、引っ越すことになりましたと。俺は転校して、レストランにも行けなくなって、彼女にも会えなくなって、はいおしまい。そういう切ねえ話さ」

「切ない話ねえ」涼介が言う。

「もったいねえなあ。可愛かったんだろ?」ボンがうまそうに煙を吐き出す。

「ああ、可愛かった。確かにもったいなかったなあ。あのまま関係が発展してたら、俺は彼女と結婚して、そんで離婚なんかせずに、幸せな家庭を築いてたかもしれねえ」

「ねえよ」ボンが笑う。

 その時おばちゃんが料理を運んできて、俺たちそれぞれの前に置いた。お待たせしちゃて、ごめんなさいね、そう言って伝票を丸めて、頭を下げる。

 で、また厨房の方に戻ろうとしたとき、何を思ったか涼介が「ねえおばちゃん」と声を掛けたんだ。

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

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