おやじパンクス、恋をする。#235
すぐに社員に取り囲まれて、暴れ出さねえよう、それこそ逮捕されたみてえに左右の腕を掴まれた。見れば、タカも涼介も同じ状態で捕まっている。
そのまま俺らは佐島さんのいるテーブルの前にまで“連行”された。
佐島さんは俺らの登場に一瞬こそ驚いた顔を見せたが、部下たちにがっちり拘束されているのを見て、勝ち誇った笑顔になった。
「バカどもが、まとめて警察に付き出してやる」
でけえ音楽の流れる中、その声はやけにハッキリと聞こえた。それで気がついたが、フロアとここは透明なパーテーションで仕切られていて、個室になっているのだった。
「いまちょうど通報してたところだ。お迎えが来るまで、ここでゆっくりしてるがいい」
佐島さんはソファにドカッと腰を下ろすと、忙しげにタバコをふかし、残っていたシャンパンを飲んだ。視界の橋では嵯峨野が携帯を耳に当ていて、「酔った客が暴れまして……」と確かに警察にかけているらしい様子で話している。
「ふざけんじゃねえぞコラ、離しやがれコラ」涼介が叫んでいたが、傍に居たノッポから強烈な腹打ちをくらってぐったりしてしまった。
「おい、タカ」俺はそのでけえ身体を見上げて言う。タカは妙に神妙な顔つきで黙っている。
「よお、タカよお」何のために呼んでんのか分からねえ。単に俺自身が不安だっただけかもしれねえ、「おい、タカ」しつこい俺の声にタカは「何か、あいつ、おかしいな」とボソッと言った。
「はあ? 何だよ、何言って……」そして俺はタカが何かを見ていることに気付いた。その視線を追うと……佐島さんでも嵯峨野でもねえ。そして俺は、ソファに座らされた雄大の顔を見て、ゾッとした。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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