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おやじパンクス、恋をする。#187

 だが……佐島さんはブチ切れなかった。

 俺の目を数秒間じっと見つめた後、「そうですか」と、疲れたように言って、「それはこちらこそ、失礼しました」と、やはり俺から目を逸らさずに頭を下げた。

 それから彼女の方を向き、「じゃあ、遅ればせながら合流しますんで」と言って、後ろの柄の悪いスーツ軍団を連れて会場の中に入っていった。

 取り残された俺たちは彼らの背中を何となく無言で見送っていたが、いきなり袖を引っ張られたので驚いて見ると、眉間にしわを寄せた彼女が「ちょっと」と俺をテント裏に連れて行こうとした。

 さっき無視したことを怒ってるのか、それとも俺が出しゃばった事が気に入らなかったのか、いずれにせよ俺はそんなの聞くつもりはなかった。俺を引っ張っていく彼女の腕を反対に掴んで、「雄大は?」と聞いた。

「え? まだ来てないよ、そろそろ来ると思うけど」

 彼女はいぶかしげに言ったが、俺は首を振る。

「来てるぜ。さっきあいつの車が入ってくるのを見たんだよ」

 俺は振り返り、ずらっと並んだ車をまた一台一台確認していく。そして、佐島さんらの車からは随分離れた場所に駐車する、あの趣味の悪いセダンを見つけた。彼女も気付いたんだろう、だが、特に表情を変えることなく「あ、来てたんだ」と言って、会場内を探すような素振りをした。

 だが、あいつは会場に入ってない。

 佐島さんらとゴチャゴチャやってても、あいつが通ればさすがに気付くだろうし、あいつだって、その騒ぎを無視はしねえだろう。

「なあ、大丈夫なのか? あいつ」

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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