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おやじパンクス、恋をする。#218

 ドレスコードってもののために、俺たちは慣れないスーツを着てきたのだった。

 モヒカンにロン毛に金髪、確かに見ようによってはスペシャルズとかミッシェルガンエレファントのようでもあって、意外と悪くない。

 状況が動いたのはそれから十分後くらいだ。

 地下からの階段を背の低い男が上ってきて、涼介が「嵯峨野だ」と言った。葬式にも来なかったし、なんだかんだ言って初めて見る実物の嵯峨野だったから、妙な感動があったな。

 嵯峨野は写真で見たよりも普通の顔に見えた。俺の頭の中では、こんな微妙なビジネスの顔として矢面に立ってるんだ、もっと詐欺師然とした、愛想が良くて活動的なイメージだったんだが、どちらかと言えばおとなしそうな、おどおどした男に見えた。

 嵯峨野は店の前に立つと携帯でどこかに電話をかけ始め、誰かを探すように落ち着きなく辺りを見回した。

「何やってんだあいつ」タカが言う。

「待ち合わせかなんかじゃねえのかな。お偉いさんでも来るんだろ」とボン。

「お偉いさんって……あいつが一番偉いんじゃねえのかよ」

 俺が言うと涼介が、「バカ、客として来る偉い奴かもしれねえだろ」と言った。確かに、そうか。

 だが結果的に、涼介の言う事ははずれた。

 細い一通の道をノロノロ進んできて店の前で止まった車と、その中から仰々しく登場した小柄なおっさん、そしてそのおっさんに頭を下げる嵯峨野の様子を見て、俺たちは何か根本的な勘違いをしていたんじゃねえかという気がしてきた。

「おい、あれ……」

「ああ、間違いねえ」

 カズの呟きに俺は答えた。

 ついこないだも会ってんだ、間違えるはずもない。

 佐島さんだ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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