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おやじパンクス、恋をする。#210

 俺は自分で扉を開けて、嫌な視線をバシバシ感じながら外に出た。

 さっきは出かける素振りをしていたくせに、そして急ぎの用事があると俺を追い払ったくせに、佐島さんらは出てこなかった。

 扉が閉まった途端、中で俺に対する悪口が始まっている気がした。

 嫌な感じだった。

 バイクにまたがりメットをかぶりながら、ふと、葬式ん時に佐島さんが口にしていたことを思い出した。

 ーー誰を戴くにせよ、主君のために尽くせ。尽くせない主君ならば自ら去れ。

 嵯峨野のやり方は気に入らねえが、主君と認めちまった以上は尽くさざるを得ないんだ、そういう意味にあん時は受け取ったが、さっきの佐島さんの態度からすると、なんだか違った意味に聞こえてくる。

 まるで佐島さんは自分が主君で、それに尽くすことができない雄大は去って当然なんだと言っているようじゃねえか。

 俺は梶商事のビルを見上げ、まさかこのビルん中で監禁とかされてんじゃねえだろうな、と嫌な事を考えながら、気持ちとは裏腹にビュンビュンと調子の良いエンジン音を響かせる愛車に苦笑いして、一気にアクセルを開けた。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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