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おやじパンクス、恋をする。#231

 全身に力を込め、筋肉を固くして、その鉄みてえに硬い拳を、ムチみたいにしなる足先を、何とかかんとかこらえていた。

 それができた理由は間違いなくアレだ、精神力。

 雄大を守らなきゃいけねえっていう使命感みたいなもんが、俺を立たせていたんだよ。

 背後の雄大はいつの間にかベソをかいていた。グズグズと泣いて、俺がぶん殴られる度に「ううっ」と声を上げる。そのガキみてえな声に俺のモチベーションはアップする。

 殴られたり蹴られたり、ダメージは確実に蓄積していくんだが、ほら少年漫画でよくあるじゃねえか、ボコスコにやられた主人公が、仲間が殺されそうになったりした瞬間にぐわーって復活する場面がよ。

 あれと似たようなもんで、普通ならとっくに崩れ落ちて気絶してるだろう状況なのに、俺はまだ立っている。「マサさん……ああ……マサさん……」情けねえ声が、俺に俺の存在価値を感じさせる。

「来いこらあああああ」

 俺は叫んで腕を振り回す、ボディガードはバックステップでそれをかわす、ボッと音がして前蹴りが飛んできて俺の鳩尾にクリーンヒットする。ぶっとい針で身体を貫かれたような痛みと衝撃。思わずエビみてえに身体を折る。

 溢れてきたゲロを一瞬の躊躇のあと吐き出す。

 「うわ、汚えなあ」ボディガードの声が聞こえて顔を上げる。その肩越しにニヤニヤした佐島さんの顔。

 いつの間にかその向こうに黒スーツの壁ができている。梶商事の社員だろうか。だが、その中にさっきのデブとノッポは見えなかった。

 ボディガードに肩を掴まれて引っ張られた。バランスを崩して俺は俺のゲロがたまった床に転がる。自分でも驚くくらい体が動かなくて俺は顔から床に落ちる。

 やべえ、と思って見上げれば、涙でぐじゅぐじゅの顔した雄大がいつの間にかナイフを拾ってボディガードに対峙していた。

「雄大、やめろ!」

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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