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おやじパンクス、恋をする。#121

「いや、用ってほどじゃねえんだけど、雄大の話、どうすんのかなと思って」

「ああ、あれな」

 俺は平静を装って答えたが、内心、痛いところをつかれた感じがした。

 けどまあ、実際、それを考える暇もないくらいに忙しかったわけでさ。

 ただ、なんだ、普通ならいろいろ言い訳も考えるんだが、相手がタカだと下手な繕いは無駄な気がしてくる。

「まだ考えてねえんだ」

 涼介が相手なら「てめえ舐めてんのか」と胸倉掴まれるような返答だが、タカは「そうか、まだ考えてねえんだな」と、いつものオウム返しで納得してくれる。

 なんだか俺は、タカがすげえ懐の深い牧師さまになったような気がしてくる。

「店が忙しくてさ」

「ああ、でも、そりゃいいことだな」

 俺達は何となく同時にコロナを口に運び、ゴクリと飲む。

 乾いた、渋い、ギターの音が、開け放たれた入口からの風に乗って聞こえてくる。いい感じにユルい、居心地のいい空間だ。

 俺は今更ながらに、タカがわざわざ「雄大のこと」と表現したことに、ちょっと違和感を覚えた。「彼女のこと」じゃなくて、「雄大のこと」。

 そういえば、とさらに思い出す。あの日、あの雨の日の作戦会議で見たタカの表情。妙に真剣な顔――。

「なんとなく、なんだけどさ」

 やがてタカが、穏やかな海を眺めながら、って感じの口調で言った。

「ん? なんだよ」

「だから間違ってるかも知れねえけど」

「いいよ別に」

 うん、とタカは頷いて、言う。

「お前、雄大のことさ、そんなに変なやつだとは思わないだろ」

 まただ。タカは雄大のことを話そうとしてる。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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