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おやじパンクス、恋をする。#127

 こういう電車に乗るとよくわかるが、東京とかそういう大都市は別として、郊外の街ってのは、栄えてるのはほんの一部なんだよな。

 駅前から出発して五分もすれば、窓の外はすぐに暗くなり、見えるのは背の低い住宅に灯った光だけ。ぽつんぽつんと立つ街灯が照らしている道路には、人っ子一人歩いてねえって状態さ。

 何となく懐かしいような、何となく寂しいような、そして何となく恐ろしいようなそういう田舎の町並みの上に、電車の窓に反射した俺自身の姿が、ぼんやりと浮かんでいる。

 雑な合成。ひっそりとした町並みに、オレンジ色のトサカを持った半透明の俺が重なって見える。

 俺は苦笑いして、だけど、なんでかうまく笑えずに、思わず目を逸らす感じで振り返り、背中側の窓から外を眺めた。

 電車はちょうど川を渡り始めたところだった。俺はふと、川岸に作られた公園の姿を見つけて、あっと思った。

 見覚えのある公園、ああそうか。

 それは、俺が小学校の頃、クラスメイトたちがよく遊んでた「河川敷の公園」だった。

 つうことは、そうか、ここは。

 電車は川を渡り終えて、のっぺりした田んぼの上を渡り始める。

 夜の闇の中ではただ何もない空間と見えるその平面から、俺は視線をまた、向かい側の窓の外へと移した。

 そこには申し訳程度の町並みが、申し訳程度の光を放ってた。

 小ぶりなビルがいくつも並んでて、だけど俺はその中のどれが彼女の住むマンションなのか分からなかった。

 それでも、今の自分の行動に少し理由付けができたっていうか、そう、彼女のためになるかもしれない、彼女の心配事を少しでもマシにしてやれるかもしれないって思ったら、なんか細かい不安や不満は吹き飛んじまった。

 それから俺は、まるでリングに上る前のボクサーみてえに、落ち着かねえ気分で目的地への到着を待った。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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