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おやじパンクス、恋をする。#232

「うわあああああ」

 雄大は叫んでボディガードに突進した。ボディガードもふいを付かれた感じで呆然とそれを見ていた。必死に立ち上がろうとしたが身体が言うことを聞かない。

 ダメだ、雄大。バカなことすんな。だが雄大はボディガードをスルーしてその向こう側へと突っ込んでいった。そこにいたのは……そう、佐島さんだ。

 俺は立ち上がった。全部が一瞬だった。佐島さんを刺そうとしてる雄大の背中に飛び掛かった。目をまん丸にして驚いている佐島さんの顔が見えた。

 「雄大ぃぃぃ」その首根っこ、白シャツの襟に指先が触れたが、それだけだった。佐島さんまではもう二、三メートル。どうにか避けてくれ、ぶん殴るだけならまだしも、人を刺しちまったらどうしようもねえ。ましてや死んじまったりなんかしたら、雄大の人生はそこでおじゃんだ。

 俺はバランスを崩して再び床に転がった、「クソ!」叫びながらまた立ち上がろうともがいた。何が起こってるのか分からなかった。回転する視界の中でやけにピカピカ光って見える白っぽい何かが動いた。直後、「むっ」と声がして、俺の横に雄大がぶっ飛んできやがった。

 ハッと顔を上げるとタカだった。

「おいおい、何やってんだよ」

 金髪の巨体、タカの蹴りが雄大に入ったらしい。雄大は俺の横で盛大に吐いていた。はっとして佐島さんを見ると、ほとんど呆然とした顔をしていたが、無事みたいだった。

「タカ!」

「うわあお前、ボコボコじゃねえか。すげえ顔」

 こんな時でもいつも通りの無邪気なタカになんでか泣きそうになる。なんて頼りになる奴だ。だがそんな気分も一瞬、ボディガードが佐島さんを奥に引っ張っていき、入れ違いで、向こうに控えていた梶商事の社員たちが「うらあああああ」と叫びながら雪崩れ込み、俺とタカ、そして転がった雄大を円状に取り囲んだ。

「おいコラ、てめえらただですむと思うなよ」

 葬式の時にも感じた通り、やっぱりなかなかのワル顔揃い。さっきのデブやノッポもそうだが、この会社、どうかしてるぜ。

「マサ、お前、まだ動けるか?」

 タカが言い、バカお前、決まってんだろ、もうチンポ握る気力もねえよ。

 そう思いながら「当たりめえだバカ!」と叫んだ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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