おやじパンクス、恋をする。#059
「な、なんで知ってんだてめえ」慌てる俺。
「はっはっは、俺の情報網を舐めるなよ」
情報網って要は涼介かタカかボンだろ。その誰かが、あるいは全員が、俺と彼女の再会を、面白おかしく聞かせたに違いねえ。
「聞くところによると……」カズが口元に手を添えて言う。「ハーフっぽい感じなんだろ?」
俺はハッとする。
まずい。
こいつは外人が好きなんだった。
日本のAVじゃ抜けねえと、いつも外人ポルノばかり漁ってやがる。昨日、カズがいなくてよかったと思ったことを思い出す。
「い、いや、そんなことねえよ。ちょーっとそう見えなくもねえかなってくらいだ。つうか、歳は俺らとおないだぜ。いや、一個上だから、さらにオバンだ」
「何焦ってんだよ、別に取ったりしねえよ」ニヤニヤしながら言うカズ。
「別にそんなこと言ってねえよバカ」
「でも、実際どうなんだよ、けっこういい感じだったってボンも言ってたぜ」
ほらみろボンじゃねえか。何が情報網だ。
「いい感じも何も……」
俺は言いながら、思い出してブルーになる。いい感じどころか……連絡先も交換してねえよ。
「はあ? 何でだよバカ」顔を歪めるカズ。
「知らねえよ、こっちが聞きてえよ」と訳分かんねえ逆ギレをする俺。
「あ、そうか」カズが一人納得したように頷く。
「男が居たんだろ、つうか、結婚してたとか。だったら何となく、連絡先聞くのもあれだもんなあ」
反射的にそれを否定しようと口を開いたが、意外と本質をついている気がして、俺は黙った。
「まあ、そうだよなあ。こんな齢になっても独り身なんて、俺らくらいのもんだもんなあ」しみじみ言うカズ。いや、しみじみ言うなよ。悲しくなるだろ。
でも、実際のとこ、俺が彼女に連絡先を聞かなかった、もとい、聞けなかったのは、彼女の裏に見え隠れする、いや、彼女が不自然に隠そうとするからこそ余計に感じてしまう彼女の男関係の事情、結局は未遂に終わったあのバカとの関係や、その「父親みたいなもの」の存在が原因なんじゃねえのか?
「でも、店までわざわざ来て飲んだって聞いてるぜ? そうなんだろ?」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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