見出し画像

おやじパンクス、恋をする。#093

「けど、いきなり大魔王には勝てねえよな。勝てねえどころか、会うことすらできねえ」

「……」

「だからいろいろやるだろ、勇者はよ。なんか、どうでもいい村人の頼みを聞いてやったりよ」

「……」

「なんとかそれをこなして村に帰ると、そいつが魔法の鍵をくれたりする」

「……ああ、あるよなそういうの」

「だろ? で、それ使って次の大陸に行ってよ」

「敵が一気に強くなるんだよな」

「けど、売ってる武器もグレードアップする」

「町まで辿りつけなくて死んだりとかな」

「で、またどうでもいい村人から、自己中な頼み事をされる」

 俺は笑った。

「そうだな、関係ねえのにな」

 俺が言うとボンは何か恥ずかしそうに笑った。

 俺もなんかその気持ちが分かった。二十年以上も一緒にいて、露出狂のごとくにその内面をさらけ出し続けてきた俺らだが、今日のこの会話は、遠回しではあったが、互いの心に直に触れたような奇妙な気恥ずかしさがあった。

 俺はボンから目をそらして、「じゃあな」と言った。

「ああ、涼介によろしくな」ボンは答えた。

 トータルを出ると、このご時世にパンクな格好したガキが、「あれえマサさん、もうお帰りっすか」と舐めた口をきいてくる。

「うるせえよ、ちゃんと働けバカ」

 俺はSRにまたがって、エンジンをかけた。

続きを読む
LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?